第161話 甘えたい時、隣に
シズカさんと別れた私は心のどこかにポッカリと穴が空いたように感じました。勝手なものです。自分がした行為で相手を傷つけたくせに、心に冷たい風が流れていくなど。
ふと、スマホの画面が光っているのに気づいて、メッセージを開きました。
それは朝一から送られてきていたカオリさんからのメッセージが来ておりました。
【薫】「今日は危険な調査だと言っていましたから、気をつけて行ってきてくださいね。必ず無事に帰ってきてください」
可愛い絵文字と心配してもらったことに胸が温かくなります。
【薫】「一日大変だと思いますが、無事ですか? もしも、このメッセージを見たら、既読だけでもつけてくれたら嬉しいです。ヒデオさんの無事を知りたいです」
何通か私を心配してくれているカオリさんからのメッセージを見ている間に涙が溢れてきました。
朝からスマホを見ていなかったことに申し訳なさを感じます。
【私】「今、帰ってきました」
【薫】「お疲れ様でした! ご無事でよかったです!」
ふと、カオリさんの顔が無性に見たくなりました。
【私】「まだ起きておられるならお会いできませんか?」
【薫】「はい、大丈夫ですよ。ヒデオさんのお家でいいですか?」
【私】「いいのですか? 私がお伺いしても?」
【薫】「お疲れでしょうし、ミズモチさんも家に帰りたいと思いますので」
私だけでなくミズモチさんも配慮してくれることに、私は心が温かくなっていくのを感じます。
【私】「ありがとうございます。それでは私の家で」
【薫】「はい」
私は家に帰り、片付けをしてミズモチさんとシャワーを浴びました。
ミズモチさんは、お風呂から出ると段ボールに入って寝てしまいます。
今日はたくさん走り回ってもらいましたからね。疲れてしまったのでしょう。
来客を知らせるチャイムが鳴って玄関を開けると、薄化粧に買い物袋を持ったカオリさんが立っておられました。
カオリさんを見た瞬間、私の心は初めて自分から、彼女を抱きしめました。
「ヒデオさん?!」
驚くカオリさんに、「ハっ」として、私は距離を取りました。
「すっ、すみません」
「いえ、でも外だと人に見られますので」
そう言ってカオリさんは部屋の中に入り、買い物袋を置いてから私を抱きしめてくれました。
「お疲れ様です」
「あっ、はい。ありがとうございます」
「何かありましたか?」
「えっ?」
「ヒデオさんから私を求めてくれるのは初めてなので、何かあったのかなって」
ふと、シズカさんの顔が浮かびました。
「少しだけ……仲が良かった方と決別することがありまして」
「……悲しい別れだったんですね」
「どうなのでしょうか? 私の一方的な我儘なんです」
私はカオリさんを抱きしめながら、目を閉じました。
「ヒデオさんはとても優しい人です。きっと、その別れも相手のことを思って行動されたのではないでしょうか。しっかりと決別することを決めたヒデオさんは偉いと思います」
どうしてこんなにも優しいのでしょうね。
私などよりもカオリさんの方がずっと優しいです。
「ありがとうございます」
スッと、涙が流れ落ちていくのを感じました。
ダメですね。
カオリさんにこのような姿を見せては……
「ヒデオさんこちらへ」
「えっ?」
カオリさんに導かれるように、部屋の中に入り折り畳まれた布団の上に腰を下ろす。カオリさんは私の頭を抱きしめてくれました。
「カオリさん?」
「最初、ご連絡を頂いたとき、誰か亡くなってしまったのかと思いました。大切な人を失ったのかなって? だけど、ヒデオさんの顔を見てわかりました。きっと、ヒデオさんを大切に思う女性と決別をしてきたんですね」
私が何も説明しなくても、カオリさんは私の心を正しくわかっていてくれたのですね。
「きっと、ヒデオさんは多くの女性から好意を寄せられていたと思います」
「いえ、私なんて」
「ダメです」
「えっ?」
「選んだ私も、そして選んでくれた女性も、ヒデオさんを私なんてと思っていません。ですから、どうか自分を下げないでください」
そうか、私が私自身を下げてしまえば、私を選んでくれた人に失礼になるのですね。もっと、女性たちが私を選んで良かったと思える男でいなければならないのですね。
「はい、ありがとうございます」
「きっと、ヒデオさんは色々な女性の経験がないことが自信の無さになるのだと思います」
そう言って、私の頭頂部にカオリさんがキスをしてくれました。
「えっ?」
「私が教えてあげます。ヒデオさんの初めてを全て」
ツルツルの頭から額へ唇の感触が降りてきて涙が浮かんでいた私の瞳にキスをしてくれます。
「ヒデオさんは、どこもツルツルですね。それに抱きしめるとわかります。凄く筋肉質で男らしいのですね。ふふ」
レベルが上がってから、肌のクスミも取れて若返ったような気がします。
肌に張りが出たと言いますか、髭は生えませんが男らしい体になったと思いますね。
「電気、消してもいいですか?」
「えっ、あっはい」
カオリさんが電気を消して真っ暗の部屋の中で、布団が引かれる音がして、衣類を脱ぐ音がしました。
月明かりに照らされたカオリさんは綺麗で、私は言葉を失いました。
「全て、私に任せてください」
その言葉で私はカオリさんに身を委ねました。
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