第147話 新発見ダンジョン 2

 私がサラリーマンであることを考慮して頂き、調査は二度に分けて行うことになりました。一度目は様子を見るために祝日を利用して行われます。二度目は土日を使って大規模に行われることが計画されました。

 

 一度目は長さん、元さん、ギルドマスター、ハルカさん、私の五人でスリープシープダンジョンにやってきました。

 ミズモチさんに見つけていただいた場所まで戻って、黒山羊を見た場所へと向かいます。


「確かに、ここから空気が急に変わるね」


 長さんだけでなく、元さんやギルドマスターも警戒するようにピリッとした空気になりました。私も察知さんを利用して、辺りに魔物がいないのか確認します。

 ミズモチさんと二人ではないからでしょうか? いつもよりも範囲や精度が悪いように感じます。


「ミズモチさん。魔物が側にいますか?」


『う〜ん。大丈夫』


「そうですか。すみませんが警戒をお願いします」


『は〜い』


 牧場の柵を越えて、山の中に入ると重苦しい雰囲気と、どこからともなくかかってくるプレッシャーがのしかかってくるようです。

 それは白鬼乙女さんから受けた時のような恐ろしさを感じます。


「ふぅ、現地の調査はできたね。あとは魔物が出現すれば、ランクの判定ができるが、これは遭遇するのはちと危ないかもしれないねぇ」


 長さんの判断に従うように、みんな緊張感を持って行動をする。

 調査に向かっていたハルカさんが戻ってくる。


「あっちの茂みに黒山羊がいたわ! 結構距離があったのに見つけられた気がして、それ以上近づけんかったわ」


 ハルカさんは、くの一衣装でシーフとして調査に向かってくれていました。ギルドマスターの戦闘方法はわかりませんが、それぞれの役目を全うしています。

 強い皆さんと行動を共に出来ることは私にとって心強いです。


「ふむ。ハルカくんも危険だと判断するか」


 遠距離攻撃を担当する長さんが司令塔になり、今回の判断を任されています。


『来たよ!』


 ミズモチさんの声によって、私は誰よりも早く黒山羊の存在に気づく事ができました。


「皆さん!来ました!」


 私の声に反応する皆さんはさすがです。


 黒山羊は瞬時に移動して、私たちの間へ現れました。元さんが黒山羊の突進を受け止めてくれましたが、吹き飛んで後ろの木に激突されています。


「元さん!」


 タンクの元さんが吹き飛び、さらに突進を続ける黒山羊をギルドマスターが持つ大剣で受け止めてくれました。


「眠りなさいよ!」


 超至近距離から、長さんが魔弾を放ちましたが、黒山羊は瞬時に移動して魔弾をかわしました。


「ミズモチさん」


 次に出現するとすれば、弱い場所。

 つまり、私かハルカさんのところになります。

 私はハルカさんを抱き寄せ、ミズモチさんに防御をお願いしました。

 ミズモチさんは黒山羊の突進に対して、ツノで応戦します。


「私も!」


 私は鬼人化を発動させて、白金さんでミズモチさんが応戦する黒山羊に攻撃を加えます。


「忍法!カゲロウ!」


 私の後ろにいたハルカさんから影が伸びて黒山羊を捕えるように影が伸びていきます。

 上からは白金さん。下からはカゲロウさんが黒山羊を襲います。


「ウォー!」


 私たちの攻撃を回避する黒山羊に、ギルドマスターが待ち構えて大剣を振いました。


『ウボォー』


 初めて当たった攻撃に黒山羊が警戒して距離をとりました。


「今です!皆さん距離を取りなさい!」


 長さんの声に私たちは一目散に逃走するために走り出しました。


 大柄な元さんはギルドマスターが抱え、長さんが先導して、ハルカさんが道を切り開きます。


 私とミズモチさんが殿を務め、振り返れば黒山羊は前の時と同じように私たちを見ていました。


 意識を失った元さんを連れてスリープシープダンジョン戻ってきた我々は柵を超えて一息つきました。


「あれはヤバいね!推定Aは固いね」


 長さんの判断にギルドマスターも頷き。

 私たちの調査は一旦解散となりました。


「ミズモチさん。どう思われますか?」


『うーん。まだムリ〜ゴハンあきらめ〜』


「そうですか。ミズモチさんでも無理なら、絶対にダメですね」


 ミズモチさんが負ける姿は考えられません。ですが、ミズモチさんが傷付く姿は見たくないので無理はしないでおきたいです。


「ヒデオさん。ちょっとええかな?」

「はい。なんでしょうか?」

「さっきのあいつのことやねんけど。なんやおかしいと思わへん?」

「おかしいですか?」

「うん。あんな強そうな魔物が発見されてないこともおかしいけど。なんであんな強い奴がいきなり現れたん? しかも、あれって一匹だけなんかな?」

「それは、後日の調査でわかるのではないですか?」

「そうやねんけど。なんや凄い気になってもうて」

「そうですね。かなり危険なことはわかっているので、とりあえず今は警戒をするしかないですね」


 ハルカさんが何を気にされているのか、分からないので答えようがありません。


「あっ、それとな。さっきは庇ってくれてありがとうな。急に抱きしめられてドキッとしてまうわ」

「あははは」

「一応、ヒデオさんにもらった守護のネックレスがあるよってある程度は守ってもらえるから。大丈夫やで」

「それでも、私は庇ってしまうと思います」

「まっ、まぁそれがヒデオさんの性分なら仕方ないけど。あんまり自分のことを疎かにしたらあかんよ」


 ハルカさんは、私の胸をちょんと突いて距離をとりました。


「とにかく気になることはうちが調べとくから、ヒデオさんは自分を大切にすることを考えてみてや」

「はい。ありがとうございます」


 ハルカさんと別れた私は、ミズモチさんをギュッと抱きしめました。私を守ってくれるミズモチさんがいるから、つい無理をしていたのかもしれません。


「ミズモチさん。今度は無理をしないでいきましょうね」


『は〜い』


 私はミズモチさんを労うようにその日は、スーパーに寄ってミズモチさんが好きなお肉とパンをたくさん買いました。


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