第135話 雛祭りのお祝いです。

 私一人っ子でしたので、雛祭りというものを家で経験したことがありません。

 女の子がいるお宅では、雛祭りになるとお雛さんを豪華に飾って、それを見にいくことはありました。

 その際に雛あられというお菓子を頂きます。その程度の認識でしたが、本来の由来は人形流しというそうです。

 川へ、人形を流して厄祓いをする風習があるそうです。私の地元がある関西では、和歌山県に人形神社と言われている場所がありました。

 たくさんの人形が供養のために、飾られていて、雛人形は船に乗せて海に流すそうです。


 ふと、白鬼乙女さんは女性ですが、誰かが祝ったり、厄除けしてくれるのでしょうか?


 私は、ひな祭りとは縁のない人生でした。

 ですが、してもらっていた女の子たちは喜んでいた顔を覚えています。

 100円ショップの前に通りかかった際に、私の瞳に小さな指サイズの雛人形が並んでいるのが見えました。

 どうしても気になってしまってしまいますね。


 あの恐怖体験以来、ご近所ダンジョンさんに行けていません。


「仲直りできますかね?」


 白鬼乙女さんからは、これまで多くのアイテムを頂きました。

 できれば仲良くしたいと思っております。


「よし。買って帰りましょう」


 私は入り口で白鬼乙女さんに捧げ物をすることに決めました。

 高級な日本酒と、お寿司の上握り、高級イチゴを買ってきました。

 何が好みなのか、わからないのでとりあえず高級で揃えてみました。

 あとはひな祭りお供えセットいうものがスーパーに売っていたので買ってみました。


「ミズモチさんご近所ダンジョンさんにお供えをしに行きましょう」


『ゴハン〜』


「いえ、今日は襲撃ではありません。穏便にお願いします」


『は〜い』


 スーパーカブさんに乗ってリュックにはお供え物をたくさん入れています。


「さて、準備をしましょうか」


 入り口までやってきた私は、指人形お雛様を飾って、料理や日本酒を飾っていきます。雛祭りセットには、桃の花飾りなどもあり、結構それっぽくなりましたね。


「さて、ミズモチさん。お願いしますね」


『は〜い』


 本日は争うわけではありません。

 何故か恐ろしかった白鬼乙女さんと仲直りをするために、三人で食事ができれば思って、私の分とミズモチさんの食事も一緒に買ってきました。

 上握りは、白鬼乙女さんと私にです。ミズモチさんは10人前の握り巻き寿司を積んであります。

 他にも、急遽コンビニで惣菜物も買い足しました。


「白鬼乙女さん。怒っていたらすみません。何をしたのか全く見当がつきません。どうかお怒りを鎮めて頂き、私とミズモチさんが今まで通りご近所ダンジョンさんに遊びに来れるように取り計らいをお願いします」


 私は拝みながら手を合わせてお願いをしました。


「それではミズモチさん。頂きましょうか?」


『ゴハン〜いただきま〜す』


 上握りを食べ始めると、ふと気配を感じました。

 

 雛祭りの飾りを背に、巫女服に身を包んだ美しい鬼が座っておられました。


「白鬼乙女さん!!!」


 私の声に反応はされません。

 ただ一緒に食事をしてくれています。

 お寿司に、ミズモチさん用にかった、ファミリーコンビニの唐揚げやチキン、お母さん惣菜など。どんどん食べ進んでいきます。

 その合間に日本酒を一升瓶ごと飲んでしまう豪快さは、見た目の儚く白鬼さんとのギャップに驚いて圧倒されてしまいますね。


 私がマグロを一貫食べる間に、白鬼乙女さんとミズモチさんが食べ比べるように山積みの食事が消えていきます。


「いい食べっぷりですね」


 山積みになったゴミを集めていると、白鬼乙女さんが立ち上がりました。


「いつも私たちを見守って頂きありがとうございます!たくさんのことを学ばせて頂いております」

 

 私は、改めてこれまでのお礼を伝えることができました。

 これほど近くに白鬼乙女さんがいることは初めてなので、言いたいことを言えました。


「どうか、これからも仲良くしてください」


 私は言いたいことを言えて顔を上げると、白鬼乙女さんが私の目の前に立っておられました。


『もっと来い』


 それはミズモチさんが話すように、念話さんを使った言葉でした。


「もっと来い? もっと来てもいいってことですか? 嬉しいです。ありがとうございます」


 歓迎してくれているのがわかって、私はもう一度お礼を口にしました。

 頭を下げて、お礼を告げると次に頭を上げた際に、白鬼乙女さんはおられませんでした。


「この間みたいに怒ってはおられませんでしたね。もっとお供えにくる機会を増やせば仲良くなれますかね?」


 白鬼乙女さんには、色々と助けられてきました。

 仲違いはしたくないので、できれば仲良くしていたいです。


「ミズモチさん。帰りましょうか」


『ヒデ〜帰ろ〜また来る〜』


 ミズモチさんは、誰もいなくなったご近所ダンジョンさんの入り口に向かって声をかけておられました。

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