第132話 叱られました
馬の被り物を脱いで、ミズモチさんと共にカリンさんの元へ向かいました。
「うわっ!魔物!!」
「すみません。大量のドロップ品の魔石がありまして」
「ええ! 阿部さん? 何っその顔! 全剃りじゃん。眉も、睫毛もないよ!」
「実はかくかくしかじかで」
端的に話をまとめて伝えると、カリンさんは爆笑されていました。
「あはははははははは、いや〜それは災難だったね。それにしても化粧を覚えたって、落ちたら意味ないじゃん。汗じゃ落ちない化粧品とかもあるから、また教えてあげるよ。それにしても今回は大量だね」
「はい。ちょっとモヤモヤすることがありまして、暴れてしまいました」
「阿部さん、自覚ないかもだけどすでに化け物だよ。この量なら、そりゃ他の冒険者に囲まれるよ」
私は自覚がありません。
ほとんどミズモチさんのおかげです。
カリンさんに指摘されて頭をさすります。
「とにかく、ドロップ品の鑑定はしておくから、ユイに報告しといで」
「はい。よろしくお願いします」
ミズモチさんからドロップ品を下ろして、全てカリンさんへお渡ししました。
疲れてしまったミズモチさんに携帯食として、ソーセージを十個ほどプレゼントして、食されたのを確認してから胸ポケットに入って頂き歩き出します。
化粧室で、付け睫毛だけは付け直しておきました。
眉毛は描いている時間がありませんでした。
「ユイさん」
私が声をかけると、ユイさんは困ったような、戸惑ったような顔をされていました。頬に手を添えて大きな溜息を吐かれます。
「ヒデオさん。大変なことをされましたね」
「えっ?」
「ハルカが色々と説明に回ってくれているので誤解は解けると思います。ですが、冒険者ギルド内は大騒ぎでしたよ」
どうやら巨大ミズモチさんによって冒険者ギルドが襲われたと騒ぎになっていたようです。ユイさんやハルカさんにご迷惑をかけてしまいましたね。
「それで、ミズモチさんは?」
「こちらで寝ています」
胸ポケットに入れる程度まで小さくなったミズモチさんは、疲れてぐっすり寝ておられます。
「こんなに小さくもなれるんですね。本当に魔物は不思議です」
「色々とご迷惑をおかけしました」
「本当です!ちゃんと連絡をしてもらわないとダメですよ。ですから、私とmainの交換をしておきましょう」
「はい。よろしくお願いします」
今後は何事も報連相ですね。
自分が良かれと思ったことで、他の人にご迷惑をかけてしまいました。
「それにしても付け睫毛に、眉描きは大変ですね」
「はい。色々と慣れない日々です」
「花粉症や風邪にも気をつけてくださいね」
「あっ! その辺は大丈夫だと思います。自身の治癒(小)さんがほとんどの病気や怪我を治してくれますので」
「そうなんですか? それでも怠けるのはダメですよ!」
「はい!」
本日は、ユイさんにたくさん叱られました。
それもこれも私が不甲斐ないばかりに、色々な方に迷惑をかけたのが原因です。
配慮とは、とても難しいものです。
「とにかく、冒険者の仕事をされる前にご連絡してください。向かう際と終わった際には一報ください。隠れてダンジョンに行かれているのも知っているんですからね」
ご近所ダンジョンさんのこともバレているようです。
「わかりました。これからはダンジョンに行く際や、ダンジョンから帰る際に連絡させて頂きます」
「はい。約束ですよ。毎回、驚かされるこちらの立場も考えてください」
「申し訳ありません」
「ふぅ、私も言いすぎました。すみません。冒険者の方は個人事業主です。ご自身のペースで仕事をして良いのです。ですが、心配させられたり、この間から驚かされてばかりで仕返ししたくなりました」
ユイさんが戯けて謝罪をしてくれます。
その態度は可愛くて、私は本当に良い方に専属受付になっていたのだと思います。
「申し訳ありませんでした。今後は気をつけますので、これからもよろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ユイさんと正式にmain交換をして、インフォメーションを離れました。
カリンさんの下へと戻り、大量のドロップ品が置いてありました。
迷惑をかけてしまいましたね。
ちなみに、ミノタウロスの魔石は全部で49体、ビックブルの魔石は52体ありました。ビックブルの魔石は、ミノタウロスの半額です。
かなりの金額に私は目が回りそうになりました。
「おっ、帰ってきたね。鑑定終わってるよ」
ミノタウロスの長剣(良)× 12個
ミノタウロスの斧(良)× 5個
ミノタウロスの盾(良)× 3個
合計649万円になりました。
もう、私は年収何年分を稼いでしまったのでしょうか?
「今日は時間があるんでしょ? 何か買っていく?」
もうこれだけのお金を受け取るのも怖いので、新しい装備を買おうと思います。
「あっ、あの仮面とかないですか?」
「おお、確かに馬の被り物はダメだよね。う〜ん、それならこれなんてどう?」
そう言って差し出したのは、白い骸骨のような仮面でした。
「えっ?」
「スカル仮面だよ。見た目はあれなんだけど、認識阻害の付与魔法がかかってるんだ」
「認識阻害?」
「そう、阿部さんって結構目立つ見た目でしょ。見た目の化粧ってするだけ大変だけど、これを被っていれば、阿部さん自身を認識することが難しくなるんだ。つけて見てよ」
「はい」
カリンさんの言うとおり、スカル仮面をつけて見ました。鼻から上だけの目元を隠す仮面なので、骸骨のゴテゴテ感以外は違和感はありません。
付けた状態で、冒険者ギルドを歩き回ったところ、変なお面をつけているのに誰も私を振り返りません。
「カリンさん!これは凄いです!」
「でしょ。まぁシーフ系の人には見つけられちゃうんだけど、それ以外の冒険者なら見つけらないと思うよ」
「シーフ系の人には見つかるんですか?」
「うん。あの人たちって、罠を解除するでしょ。だから認識阻害を見つけたりとかも得意なんだよ」
「なるほどです」
それでハルカさんも私が馬のお面を被っていても気づいてくれたのでしょうか?
「あっ、それとこの馬の被り物は、冒険者の私物だった。なんで、ミノタウロスのダンジョンに持って入ったのか知らないけど。意味ないから買い取れないや」
「そうだったんですね。まぁここまで来るのに助かりました。それで?このお面のお値段は?」
「うん。249万」
「えっ!」
「稼いだばかりだから大丈夫でしょ? それ一個で化粧しなくていいんだよ?」
カリンさんにもこの間から迷惑をかけていますので、お礼をしないといけないですね。
「わっ、わかりました。買います」
「ありがとう!見た目があれ過ぎて売れなくて困ってたんだ! 認識阻害以外にも能力があるから、説明書をつけとくね」
なんだか凄いボッタクリ製品を買わされた気がします。
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