第109話 スノーベアーの雪山 3

 私はユイさんに連絡を受けたことで、雪山へと直行しました。


 冒険者が雪崩に飲み込まれたと知らせを受けたためです。B級昇格試験を受けているC級冒険者さんたちの安否が気になりました。


 B級以上の冒険者しか助けられない。


 それ以外では二次災害を引き起こしてしまう。


 私もB級冒険者に昇格したばかりですが、助けたいと思う気持ちは変わりありません。


「長さん!」


 雪山ダンジョンの駅に辿り着くと、見知った顔を数名見つけました。長さん、元さん、アカバ君たち三人、モモさんたち四人も来ていました。


「おう!阿部君か、君とは本当に縁があるね。今回、A級に昇格した私が監督を務めさせてもらうつもりだ。自衛隊の救援も来るが、それまでの魔物討伐に集中してくれ」

「雪崩に巻き込まれたという冒険者たちは?」

「数名は難を逃れて命に別状はない。だが、すでに遺体として見つかっている子もいる」


 悲痛な思いで顔を顰める長さん。

 一人でも助けたいと思う気持ちは誰もが同じ気持ちなんだ。


「阿部さん」


 ふと、後ろから呼ばれて振り返ると……。


「ユウ君?」


 顔を背けるユウ君とコウガミさんが立っていました。

 仲良し三人組がここにいるということは、彼らも試験を受けていたのでしょう。


 無事でよかったです。


 ただ……一人足りません。


「シズカが」

「私を庇って……どうしてよ!うわ〜!!!」


 沈痛な面持ちで顔を背けるユウ君。

 泣き崩れるコウガミさん。


 私は天真爛漫に笑う一人の少女の顔が浮かんで消えました。

 自分の顔から血の気が失せていく感覚を覚えます。


「シズカさんがどうされたのですか?」

「シズカは……逃げる俺たちを庇って雪崩に飲まれて……」


 私の問いかけに対して、ユウ君は声を絞り出すようにシズカさんに起きた悲劇を語り出しました。


 私の忠告を聞いて、三人はしっかりと準備をしてB級冒険者へ挑んだそうです。


 今回の課題である雪山ダンジョンであることもわかっていたので、雪山用の装備や数日過ごすための準備をしっかりとしてきました。


 駆け出しだった半年前よりも、整った装備は彼らの頑張りが現れた成果です。

 新人ながらに、有望株と言われるのに相応しい装備を整えてB級へと挑みました。


 初日は順調に拠点を決めて、スノーベアーを倒していた。


 異変が起きたのは今朝のことです。


 スノーベアーを倒していると、黒雷鹿が現れて冒険者たちを襲い出したそうです。

 それでも協力して対応できていたようですが、そこで更なる異変が起きたそうです。


 巨大なビックブラックベアーが現れて雪崩を起こしました。

 雪崩は逃げ惑う冒険者たちを飲み込んで勢いを増していきました。


 誰よりも早く異変に気づいたのが、回復役のシズカさんでした。


 三人は一早く気づけたことで、何とか雪崩から逃げられたと思ったのですが、黒雷鹿が現れて三人を襲撃しました。


 それに気づいたシズカさんは、黒雷鹿の攻撃からコウガミさんを庇って、攻撃を受けて突き飛ばされました。


 不運にも飛ばされた場所で雪崩に巻き込まれて落ちて行ったそうです。


「ロープウェイの近くなのですね」

「えっ?」

「阿部君!行く気かね?」


 ロープウェイに乗り込もうとした私の腕を長さんが掴みました。

 ロープウェイが使えることがありがたいです。

 もし使えなかったら荒れた雪山を、ミズモチさんに駆け上がってもらう必要がありました。


「はい。行きます」


 私の腕を掴んでいた長さんはじっと私を見つめます。


 そんな二人を見かねて、アカバくんが声をあげました。


「ちょっと待ってくれよ!阿部さん!ビックブラックベアーはAランクの魔物だ。俺たちだけじゃ力不足なんだ!B級冒険者パーティーが、しっかりと準備を整えて倒せるかどうかなんだぜ?!一人で行ってどうにかできる相手じゃない!」

「そうよ!ビックブラックベアーが出るような場所には行けないわ!」


 彼らも緊急時でなければ、雪山に近づくのも嫌だったでしょう。


「すみません。皆さんを危険に巻き込むつもりはありません。

 皆さんはどうか雪崩が終息した地上から捜索をお願いします。一人でも多く探してあげてください。ですが、私は助けを求める友人が待っていますので」

「阿部さん!俺も!」


 ユウ君は私と共に来ようとしてくれました。


「それはお断りします。すでに試験を受けて、疲弊しているユウ君は休みなさい。足手纏いです」

「ぐっ!」

「ふぅ〜熱いね。君は」


 私の腕を掴んでいた長さんは、腕を離してタバコの火をつけました。


「ここでの指揮は私が取ると言ったはずだ」

「すみません。長さん、ですが」


 私が反論しようとすると、長さんが顔の前に手を広げて私の言葉を遮ります。


「いつか仕事を共にする気がする、と言いましたね」

「えっ?」


 私に背を向けた長さんが集まった冒険者たちを見ます。


「皆さん、この場での指揮を任されている長です。先ほど、阿部君が言ったように、私たちA級冒険者二人と、阿部君は上でビックブラックベアーの相手をしてきます。皆さんは地上から登りながら行方不明者の捜索をお願いします。自衛隊が来るまでに倒せるだけの魔物排除を頼みます。緊急で呼ばれた冒険者たちも増援で来てくれるでしょうから頑張ってください」


 長さんと腕を捲った元さんがロープウェイに乗り込んでいく。


「さぁ行きましょう」


 二人の先輩たちのかっこよさに私は涙が流れそうです。


「あ〜もう!阿部さん!絶対見つけてきてやってくれよ!下の雑魚どもは俺らが何とかしとくから!」


 アカバ君が私の背中を叩きました。


 彼らなりの発破をかけてくれたのでしょう。


「アカバ君。信じています。頼みました」

「おうよ!阿部さんも絶対戻ってこいよ!」


 ユウ君とコウガミさんは深々と私へ頭を下げていました。


 ロープウェイはA級のボスが待ち受ける危険なステージへ私たちを運んで行きます。


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 あとがき


 今日は間違いではありませんよ〜


 誤字報告お待ちしてます(´༎ຶོρ༎ຶོ`)

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