第102話 お祝いです
秘匿誓約書を冒険者ギルドに申請しました。
私の専属武器について、知っている四人の名前が契約書に署名されて判子が押されています。
私にも控えを頂きました。
「阿部さんの専属武器について知っているのは、この四人だけになります。これ以上は冒険者ギルド側から情報漏洩することはありません」
ギルドマスターが確認して、ユイさんが話をまとめてくれました。
カリンさんにも判子を頂き、皆さんに隠し事をさせてしまいました。
「阿部さん。気にしないで大丈夫ですよ。これは個人を守り、冒険者ギルドを守ることにもなります」
「はい。お気遣いありがとうございます」
「これは大事なことですが、阿部さんからの他言も控えてくださいね」
「わかりました!」
ユイさんに注意事項の説明をしてもらって、私は冒険者ギルドを後にしました。
ギルドマスターもいたため、ユイさんから名字で呼ばれると、凄く事務的な言い回しに感じてしまいます。
いつからか、名前で読んでもらうことが当たり前になっていて忘れていましたね。
ユイさんとの距離が遠くなったようで、寂しく感じてしまいます。
「ふぅ〜」
「ヒデオさん!」
私が色々と疲れたところへ、シズカさんから声をかけて頂きました。
「シズカさん、久しぶりです」
「お久しぶりです」
ぺこりと効果音が鳴りそうな、シズカさんの動作はとても可愛いらしいです。
心に疲労を溜めてしまっていたので癒されますね。
ついつい、シズカさんが可愛くてお願いをしてみたくなりました。
「シズカさん」
「はい??」
「頭に触ってもいいですか?」
あっ、言ってから気付きました。
私は年下の女性に何を言っているんでしょうね。
キモチ悪いと思われてしまいますね。
「あっ、すみま「いいですよ」せ、えっ?」
「だから、いいですよ。私の頭に触っても」
「いいのですか?」
「はい」
笑顔で承諾されるも後には引けません。
「そっ、それでは」
少しだけ、他の人から見えない場所に移動して、ゆっくりと手を伸ばします。
私が撫でやすいように首を引いて、頭を差し出してくれるシズカさん。
ゆっくりとシズカさんの頭に触れました。
シズカさんの柔らかで綺麗な髪が指の間をすり抜けていきます。
「ふふ」
「えっ?!どうかしましたか?」
「いえ、凄く丁寧だなって思ったんです。それに手が大きいですね」
「そうですか?」
「はい。遠くからヒデオさんを見つけた時、落ち込んでいるように見えたので私の頭を撫でて元気になれるなら、良かったです」
あ〜疲れていたのを、落ち込んでるように見えてしまったんですね。
わざわざ声をかけてくれたのでしょうか?シズカさんは本当に良い子です。
「少し疲れることがありまして」
「落ち込んでいたわけじゃないんですか?」
「はい。でも、シズカさんのおかげで疲れも吹き飛びました」
「お役に立てたなら良かったです。いつもヒデオさんには助けられてばかりなので」
「えっ?私は何もしていませんよ」
私が驚くと、シズカさんが笑います。
「ふふ、はい。ヒデオさんならそういうだろうと思っていました。だけど、私がそう思っているんです。命を助けられたこともありますが、この間は相談にも乗ってもらいました。ユウくんはヒデオさんの言ってくれた言葉を聞いて、考え方を変えてくれたんです」
「ユウくんが?」
ユウくんが私の話を素直に聞いてくれるって、なんだか嬉しいですね。
「ユウくん、ヒデオさんが言うならしっかりと準備してから挑むって、B級に上がることを諦めたわけじゃないです。でも、勢いで挑戦しないだけ安心です」
「それは良かったですね」
「はい。これもヒデオさんのおかげです」
若い彼らがちゃんとした力をつけて、成長していく姿を見られるのは本当に嬉しいですね。
その成長の一端を担ったと言われるのは、心から嬉しく思います。
「そうだ。私、B級冒険者に合格しました!」
「えええ!!!凄いじゃないですか!?B級って受けられる条件も厳しくて、受けられるだけでも凄いんですよ。試験も難しいと聞いてます!」
「そうなんですよ。トレントツリーと呼ばれるボスモンスターさんが現れて、同じく試験を受けていた方々がいなければ、きっと落ちていたと思います」
アカバくんたちや、モモさんたちがいてくれて本当に良かったですね。
「ヒデオさんの周りは、きっとそういう人で溢れているんでしょうね」
「えっ?どう言うことですか?」
「ヒデオさんの背中を見て、一緒に頑張りたいって思う人です」
「私の背中ですか?」
リュックにはミズモチさんが寝ておられます。
「ヒデオさん」
「なんでしょう?」
「ボスが出て逃げましたか?」
「えっ?」
「また、誰かが逃げるために戦っていたのでは?」
私は言われてトレントの森で起きたことを思い出しました。誰かが逃げろと叫んでいましたね。
その後に現れたトレントツリーが、予備知識で学んだ魔物よりも小さかったので、私でも倒せそうだと思って戦いました。
「逃げるためではありませんよ。でも、戦いました」
「普通はボスが現れたら、慌てて逃げようとするみたいです」
「えっ?」
「きっと、ヒデオさんの背中を見た人たちが、自分もやらなくちゃならないって思ったんでしょうね」
そうなのでしょうか? アキバくんやモモさんが良い人なんだと思いますが……
「ヒデオさんは他の人がしないことをしてしまうんです。私たちの時もそうでした。普通は臨時パーティー程度の関係なら、私たちのことを見捨てて逃げると思います。誰だって自分の命が大切ですから。それなのにユウくんを助けるために、ヒデオさんは戦うことを選んでくれました」
シズカさん一歩前に踏み出して私との距離を詰めました。
二人の姿は完全に壁の影に隠れて見えなくなります。
「B級昇格おめでとうございます。お祝いです」
そう言って、シズカさんが背伸びをして、私の唇にシズカさんが唇を当てました。
「えっ!」
「恥ずかしいです」
「はい」
「私行きます。また一緒に冒険してくださいね」
そう言って去っていくシズカさんに、私はドキドキしてしまいました。
20も下の女性にドキドキさせられるとは思いませんでした。
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あとがき
どうも作者のイコです。
体調は大分良くなったのですが、家族から無理をするなと叱られてしまったので、毎日2話投稿をやめて1話投稿に切り替えようと思います(^◇^;)
皆さんから頂いた優しい言葉、本当にありがとうございました。
投稿していなくても、たくさんのアクセスを頂き嬉しく思っております。ありがとうございます♪
これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願いします^ ^
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