第42話 河川敷
年末年始を実家で過ごすっていいものですね。
久しぶりでしたが、やっぱり心が癒されます。
コタツにミカンを実家でも堪能しております。
「なぁ~秀雄」
「はい。なんです母さん」
「ミズモチさんがな。なんや元気ないねん。朝からお腹空いてるんかなって、水は上げてんけど」
私がミズモチさんを見ると、ミズモチさんは水餅さんモードになって縮んでいました。
!!!
私、忘れていました。
ミズモチさんには魔力補給がいるんでした!!!
ついつい年越しの休日にかまけて、のんびりとした雰囲気にダラダラとしてしまいました。
「母さん、この近くにダンジョンはありますか?」
「なんや?年末に仕事でもするんか?」
「いえ、ミズモチさんは魔物なので、ダンジョンに行って魔力を補充しないと弱ってしまうんです」
「なんやそれ、あかんやん!!!冒険者ギルドに行ったらどうや?私はダンジョンなんてわからへんよ」
「そうですね。冒険者ギルドに行ってみます。ありがとうございます」
癖というものは抜けないものですね。
敬語で話す癖がついてしまって、両親にも敬語で話してしまうんです。こればかりは治りませんね。
私は自分の荷物を取りにいって、黒杖さんと皮の胸当て、ヘルメットを置いてきたことを悔やみました。
幸い、折りたたみ杖は持ってきていたので、ミズモチさんをリュックに入れて、折りたたみ杖と共に冒険者ギルドへ向かいました。
「すみません。この辺に初心者ダンジョンはありますか?」
受付には化粧厚めの、少し小太りなオバ様が座っておられました。
「冒険者の方ですか?冒険者カードをお願いします」
枚方の冒険者ギルドは、インフォメーションがなくて、銀行のような窓口がありました。
手前にATM、奥に受付、さらに奥に買取所があるようです。
どこかの銀行を冒険者ギルドにしたのかな?
「はい。こちらです」
「ありがとうございます。阿部秀雄さんですね。Dランク……はい。登録できました。今、紹介できるダンジョンはこちらです」
渡されたの紙には……
ダストダンジョン(Gの巣穴)
ノームランド
「2つだけですか?」
「はい。阿部さんのランクとレベルですと、初心者ランクの下位だけになりますので、どちらかになります」
Gの巣穴ってどこにでもあるんだな。
「それではノームランドで」
「はい。入場券の購入が必要になりますが、よろしいですか?」
「えっ?ダンジョンに入るのにお金がいるのですか?」
「はい。もともと遊園地だった場所ですから……オーナー様がダンジョンになってしまっても、危険度が低いなら入場料を取るっておしゃられて、入場料が必要になります。お嫌でしたら、やめますか?」
「あっ、いえ、払います。えっと、魔石の交換金額依頼はありますか?」
「はい。10匹のノーム魔石で1000円になります」
ゴブリンの住処よりも安いんですね。
まぁミズモチさんの魔力が回復できるならいいでしょうか?
「それでは、それでお願いします」
「はい。それでは入場料5000円になります」
「えっ!」
高い!
「やめますか?」
「あっいえ、やります。あと、この辺のダンジョンが分かるマップとかはありますか?」
「3000円になります」
それもお金取るんですね。
「やめますか?」
「いえ、買います」
マップを受け取ると、観光マップのような薄い冊子でした。なんだかんだとお金を払って受付を離れました。
「おっちゃん……やられたな」
「えっ?」
「ここの受付さんたちは、商売意欲強すぎやねん。説明は少ないくせに、物を売りつけてくるから気をつけなあかんよ」
「あっ、あの?」
「ああ、私は遥香。
ショートカットで元気そうな美人さんに話しかけれて、戸惑ってしまいます。
そんな私を見かねて、名前を名乗ってくれたようです。
「あっ、はい。阿部秀雄です」
「なんや、いかつい見た目しとるのに覇気のないおっちゃんやな!」
物怖じしないでハッキリと物事を言われると、嫌な気分にもならないものですね。
むしろ、梅田さんの勢いが凄すぎて圧倒されております。
「おっちゃん、初心者か?」
「はい。普段は関東の方で仕事をしていまして」
「なんや堅苦しい話し方やな。まぁええわ。ついといで」
「えっ?」
「ええとこ教えてあげる」
強引に手を引かれて向かった先は大きな病院?を通り過ぎた先でした。
「そっちちゃうよ。こっち」
そう言って到着したのは淀川でした。
「河川敷ですか?」
「そや、この辺にも魔物が出るんやで、ほら」
そう言って指を差された先には大きなネズミが走っていました。
「弱いラットやけど、初心者ならあれを倒すだけでもレベルが上がるで」
「ここの入場料は?」
「もちろんプライスレスや」
物凄く良い笑顔で親指を立ててられました。
ですが、こんなにも近くに魔物が現われてくれるなら、ミズモチさんには、ここで十分ですね。
「教えて頂いてありがとうございます。ミズモチさん行きましょう」
リュックから飛び出したミズモチさんは、身体を元のサイズに戻して飛び出してきました。
ラットの動きは速いのですが、私とミズモチさんのコンビならば問題ありません。
数十匹を倒したところで、精細さを欠いていたミズモチさんの動きにだんだんと力強さが戻って来るのを感じます。
どうやら魔物を倒して魔力を吸収しているようですね。
私も倒した魔物の魔石は壊して、経験値として吸収することにしました。
「ふぅ~なんとか回復できましたね」
「おっちゃん……は失礼やね。阿部さん、やるやん」
「そうですか?」
「うん。ええ感じやったわ。そこのスライムと上手い連携やね」
「はい。私とミズモチさんは最強のコンビです」
褒められるのは良い気分ですね。
湊さんたちと冒険をしましたが、アクシデントのせいで落ち着いて冒険ができたというわけではありませんでした。
普通に戦っているところを褒められるのは新鮮ですね。
「なぁ、阿部さん」
「はい?」
「阿部さんは年末年始は大阪におるん?」
「そうですね。今日が29日ですので、三日には帰ろうと思っています。
「なら、頼みたいことがあるねん」
ここを教えてもらった恩もありますからね。
「はい。何でしょうか?私に出来ることであれば?」
「行けるときだけでええねんけど、大阪の茨木市にあるダンジョンに一緒に挑戦してくれへん?」
「茨木市ダンジョン?」
「そうや。いばらき童子が眠る地っていう名のダンジョンでCランクやねん」
「えっ?!高ランクですね!私では足手纏いでは?」
「そんなことあらへん。阿部さんとスライム……ミズモチさんの戦いはあそこの魔物を倒すのに十分やと思う。あそこに出る鬼……オーガとだって戦えるはずや」
真剣な目で私に頼む梅田さん……そして、ミズモチさんが私の足下に来ました。
《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》
「ふふ、そうですね」
「うん?なんや?」
「ミズモチさんが戦いたいと言っていますので、お受けします」
「ホンマに!!!ありがとう!!!でも、ミズモチさんって話するん?」
「はい。ミズモチさんはたくさん話してくれます」
《ミズモチさんはプルプルしながら、はいと言っています》
「プルプルしてるだけやけどな……まぁ可愛いけど」
梅田さんにもミズモチさんの可愛さが伝わりました。
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