第5話 初戦闘
ミズモチさんをダンジョンへ連れて行く生活は、私にとっても体調を好転させることに繋がりました。
それまで運動らしい運動をしなかった私は、初日の散歩で筋肉痛になりました。
「ここまで自分の身体が弱っていたとは……」
自分だけであれば、散歩を一日で終わらせていたと思います。
ですが、ミズモチさんのためだと思えば、行かなければなりません。
仕事に行って、ミズモチさんに夕食を振る舞い(ビールはスーパーカブに乗るのでやめました)、散歩に出かける日々……一ヶ月が過ぎた頃に不思議な感覚を覚えました。
「あれ?私のお腹はこんなに薄かったでしょうか?」
中肉中背でお腹だけは出ている残念な体型をしていた私ですが、一ヶ月間ミズモチさんと休まずダンジョンに行ったお陰なのかお腹がへこみました。
「ふふ、ミズモチさんが来てからは良いことばかりですね」
身体が軽くなって体調もいいので、最近はダンジョンでジョギングをしています。
どうせダンジョンの中は誰も来ませんし、魔物も出ません。
ボスモンスターが扉の向こうにいるそうですが、絶対に挑戦しませんので、扉から少しだけ漏れ出す魔力?をミズモチさんに与えてくれるだけでありがたいです。
「おや?珍しいですね。このダンジョンに人がいるなんて」
いつも通り、ダンジョンへやってくると扉の前に人影がありました。
「こんにちは」
私は人影に向かって声をかけました。
いきなり現われて驚かせてはいけませんからね。
「ギャギギ!!!」
ですが、声をかけて振り返った相手は、額に角が生えた子鬼さんでした。
「なっ!えっ?どうしてゴブリン?」
私はテレビで見たゴブリンの姿を覚えていたので、すぐに相手がゴブリンだと分かりました。
「まっ、魔物!ミズモチさん逃げますよ!」
魔物はダンジョンから出れません。
ダンジョンから出れば逃げられるはずです。
ダンジョンの広さは約500メートル、全力で走ればなんとか逃げられると思って、ミズモチさんを抱きかかえて走りました。
私が思っている以上にゴブリンの足が速くて、すぐに追いつかれてしまいました。
しかも回り込まれてしまって退路を断たれます。
「くっ、どうすればいいのでしょうか?」
アンジュさんのブログにはスライムは最弱と書かれていました。
ミズモチさんを戦わせれば、絶対に勝てません。
「やるしかないようですね」
勝てないまでも、逃げるスキをなんとか作らねばなりません。
幸い、相手も私も素手です。
そして、最近調子の良い身体ですからね、やれる気がしてきます。
「ミズモチさん。ゴブリンさんと戦闘です。私がスキを作りますので、攻撃をお願いしても大丈夫ですか?」
ミズモチさんを戦わせるのは本当に嫌ですが、頼りない私一人では不安なので頼ることにしました。
私のお願いに対して、ミズモチさんはプルプルと震えて臨戦態勢を取っています。
ミズモチさんも魔物なのですね、やる気に満ちています。
「ふふ、心強いですね!」
ミズモチさんがいることで背中を守ってもらえる気がします。
私は勇気を持ってゴブリンと戦う決心ができました。
「私、ケンカもしたことないんです。だから、戦い方なんて分かりませんが、行きます」
ジリジリとゴブリンに近づいていくと、ゴブリンは私をバカにするように笑い方をしました。
「テレビで見た、見よう見まねタックル!」
腰を屈めて、某霊長類地上最強さんを真似てみました。
はい。上手くいくはずありませんよね。
思いっきり膝蹴りを顔面に喰らいました。
「痛っ!めっちゃ痛い!え~!物語なら、ここで私結構戦えるじゃん的なシーンじゃないんですか?めっちゃ痛いんですけど!」
鼻血と涙で視界は奪われ、痛みでパニックです。
「痛っ!えっ、髪?髪掴んでます?髪はダメですよ!私の髪は私の命ですよ!絶対にダメなところです」
私は頭を掴まれて、鼻の痛みを忘れました。
「髪はダメ!!!」
私は強引にゴブリンをフリほどこうして腕を振り回しました。
ラッキーなことに、その一発がゴブリンの顔面に当たり、手を離してもらえました。
私が作り出したスキをミズモチさんが追撃してくれました。
ミズモチさんはその柔らかなフォルムからは想像もできない速度で、ゴブリンに体当たりをしにいきます。
さらに、ゴブリンの顔面を身体に取り込んで窒息死させたのです。
「えっ?ミズモチさん!強すぎません?」
ゴブリンが窒息死すると、ゴブリンは消えて小さな宝石だけになりました。
「えっ?ゴブリンが消えた?」
鼻や髪に残る痛みは本物なので夢ではありません。
「ミズモチさん、ありがとうございます。ミズモチさんのお陰で命拾いしました。まさか、ここに魔物が出るなんて思いもしませんでしたが……はは、私が戦闘……」
今思い出すと身体が震えてきます。
魔物があんなにも恐ろしいなど思いもしませんでした。
手が震え、身体が震え、恐怖と痛みが今更実感してきて……プルプル……
「ふふ、慰めてくれているのですか?」
ミズモチさんが私の足下に来てプルプルと震えています。
ゴブリンを倒してくれた。
ミズモチさんがいなかったら、本当に死んでいたかもしれません。
私はミズモチさんを抱き上げました。
「ありがとうございます。ミズモチさんは命の恩人ですよ」
私は改めてミズモチさんを抱きしめてお礼を伝えました。
すると、私とミズモチさんの身体が光り出しました。
頭の中に有名なレベルアップ音がなりました。
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