第4話 暴走

「目を閉じているんだ。大丈夫。何も心配いらないよ」


 俺は帽子を整えながら立ち上がると、TNKの怪物を遮るように少女の前に立った。人の衣服から抜け出したそれは、既に二階建ての家ほどもある巨大なTNKへと姿を変えていた。


「ポコポコポコ……こうナッたらもう手段は選ばン!!! 死ねえッッ! TNKハンター!!!」


「リンガ!」

「イエス。マスター」


 神を笑った為に、自らが嘲笑する三つの姿だけを許された堕天使リンガ。その一つは犬。その一つは人。そして残りのもう一つは──。


「アンジップ! 断罪剣シヴァ・エッジ‼︎」

「サーティフィケーションコンファームド。リンカネーションシークエンス──」


 再び彼女の姿が光に滲む。次に像を結んだその姿は、鏡のように銀色に輝く一振りの剣だった。


「──コンプリート」


 俺は目の前に浮かぶ断罪剣を手に取った。漲る天使の理力が俺の身体に浸透して、俺は一瞬だけその戦闘力を借り受けることができる。


「裁くは人。許すは神。されど許されざるを如何いかにとやせん──」


 祝詞のりとは俺とリンガとの契約の確認だ。正しく発せられたそれは俺とリンガの結びつきを強くして発する力を強化する。


馬手めてに天秤、弓手ゆんでに剣、胸に正義と慈愛の心。もって断ち切る悪邪のこん‼︎」


 しゃあああっっっ!!

 巨大TNKは大蛇のように唸りを上げて飛び掛かる。


 跳躍一閃。


「……アーメン」


 真っ二つになった巨大TNKはその切り口から光の粒子を吹き出し見る見る内に萎んで行く。そして遂には塵一つ残さずに、完全に消た。 


***


「あー……またやっちまった」

「何がですか? マスター」

 女の姿に戻ったリンガが隣に来てそう問いかける。

「お前を剣にするといつもこうだ。回収すべきTNKを昇天させちまう」

「私、テクニシャンですからね」

 普通なら笑いながら言う所なのだろうが、その機能を持たないリンガは真面目くさった顔でそう言った。


「でも、今回は違いますよマスター」

「なに?」


 眉一つ動かさず、美貌の秘書のような白いスーツの女は告げた。


「あなたは既に、真実をその手にされておいでです」

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