第2話 捜索

 S区二丁目の交差点。

 通勤通学・帰宅の時間帯は少女混み合ったりもするが、午前十一時を過ぎた今の時間帯は車の流れもスムーズで、徒歩や自転車の通行人もまばらだ。


「さあ、始めようか。リンガ」

「ワンッ」


 真っ白な毛並みのポメラニアンが元気よく返事をする。

 俺は依頼人から預かったエスメラルダの本体のハンカチをリンガに嗅がせた。


「フバウッ」

「よし。追跡開始だ」


***


「くうんくうん……」


 交差点から四キロほどの地点、住宅街の狭い路地でリンガが困ったように鳴いた。


「どうした。リンガ?」

「ワンバッハ」


 リンガが追跡を止めた地点。屈み込んでアスファルトを注視すると、何か液体で濡れた跡がある。顔を近づけると、その染みは強く臭った。


「……小便か」


 警察犬を撒くのにヤクの売人がそういう逃走手段を使うと聞いたことはあるが……まさかTNKが同じ方法を行うとは。依頼人から賢い個体だと聞いてはいたが、正直これほどとは思っていなかった。どうやらこの依頼、一筋縄じゃ行かなそうだ。


「TNKハンター、暖星綺狩人さんですね?」


 名前を呼ばれて振り返ると、そこには魔術師のようなローブを着た誰かが立っていた。


「あんたは?」

「TNKと人間の関係──そシてその未来を憂う者です」

「そりゃまた高尚だな。ご高説は間に合ってるぜ」


 そいつは身体を揺らした。笑ったのかも知れない。俺の警戒心のスイッチがマックスに振れる。


「この件かラ、手を引イて頂けませんか?」


 恐らく男……だがどこか言葉遣いが……イントネーションがおかしい。ローブの足元から僅かに覗くズボンはジーンズのようだが、靴はピカピカに磨いた黒の革靴で、しかも左右を反対に履いている。

なんだ? こいつは。


「嫌だ……と、言ったら?」


 次の瞬間、ゆら、とローブの人影が三人に増えた。そして三人が同時に襲い掛かって来る。


 だが、俺から見れば三人が三人とも素人の動きだった。


 全力で掴み掛かってくるのだが、動きが大振りで丸わかりだ。腰の位置が高く動く都度自分の動きに振り回されて次のモーションまでに大きなロスがある。そして三人いても動きはバラバラで全く連携が取れていない。


 俺は一人を引き倒し、一人のアゴを掌底で突き上げて、最後の一人の顔面に回し蹴りをお見舞いした。だが、最後の一人は俺の蹴りの威力をスエーバッグで減衰させて受けたもののノックダウンは免れて、よろけるように三歩退った。


「くっ……」


 そしてそのまま仲間二人を置いたまま一目散に逃げ出した。


「逃すか! 追うぞリンガ‼︎」

「ワンッ」

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