第7話

「キシュ! キシュ! キシュ! キシュ!」


 白銀色した金属製のバケモノアリは、綺麗に列をなして壁沿いを進んでいく。


「エイッ!」


 乙花おとかは、まるで体操選手のリボンのように『いばらのムチ』を操って、先頭のバケモノアリに、ムチの先端をシュルシュルと巻き付けると『いばらのムチ』を持った右手をぎりりとにぎる。

 左手が、淡い緑色のオーラにぽわんと包まれる。


「緑のLv1植物操作マニュピレーション!」


 みしみしみしみしぃ……


 『いばらのムチ』は、乙花おとかの右手と呼応するように、ギリギリとバケモノアリをしめつけていく。


 パキャ!


 バケモノアリの硬い硬い装甲は、まるで生卵のようにあっけなく砕け散り、まるで黄身のような黄色く濁った溶液をしたたり落とした。


「さあ、ドンドンいくよぉ!」


 パキャ! パキャ! パキャ! パッキャオ!


 乙花おとかは『イバラのムチ』で次々とバケモノアリをにぎりつぶしていく。


 完全に無双状態だ。


 キラリン キラリン キラリン キラキラリン


 にぎりつぶつされたバケモノアリからは、次々とちっちゃなメダルがこぼれ落ちていく。

 俺は、乙花おとかの無双プレイをボケーを見ていたら、背中から声が聞こえてくる。ちっちゃなメダルの妖精カノトだ。


 ……出たり引っ込んだり忙しいやつだな。


「ホラホラ、とおる! ちっちゃなメダルを集めて集めて!

 便利なアイテムをゲットして、乙花おとかちゃんをサポートしちゃおう♪」


 メダルの妖精カノトに言われるがまま、俺はバケモノアリの残骸からちっちゃなメダルをかき集めていく。

 20体ほどの死体からちっちゃなメダルを集めただろうか。突然、メダルの妖精カノトがアカペラのファンファーレを歌い出す。


「ぷわぁん、ぱかぱーん! おめでとーございまーす!!

 ちっちゃなメダルを300枚集めたよ!

 ごほうびとして、この『キャラクター図鑑』をあげちゃうよん♪」


 俺は、メダルの妖精カノトの前にフワフワと浮いている、分厚く古ぼけた本を手に取ると、ズッシリとした厚みを感じながらページをパラリとめくる。


———————————————————————————————————


キャラクターファイル:0001

名前:田中さやか

種族:人間

性別:女性

死没:2019年4月19日 享年3歳

身長:93.8cm

体重:13.53kg

好きなモノ:おとうさん

趣味:おしゃれ

死因:交通事故による内臓破裂。

(母親の自転車に乗っていたところ、80代の老人が運転する車が、アクセルとブレーキを踏み間違え、時速80キロで衝突。母親と共に犠牲となる)


———————————————————————————————————


キャラクターファイル:0002

名前:なし(サビ猫)

種族:ネコ

性別:メス

死没:2048年8月5日 享年4歳

体長:69.7cm

体重:3.53kg

好きなモノ:にぼし

趣味:毛づくろい

死因:猫エイズによる病死

(近所のボス猫にうつされた)


———————————————————————————————————


 本の中には、俺がまったく知らない人物や動物たちの情報がずらりと書き込まれている。けれど、全員がすでに死んでしまっているようだ。

 俺は、ペラペラとページをめくりつづける。すると、ようやく最終ページに知っている人物が登場した。


———————————————————————————————————


キャラクターファイル:0100

名前:逆村さかむら紘孝ひろたか

種族:人間

性別:男

死没:2058年11月5日 享年17歳

体長:159.4cm

体重:53.4kg

好きなモノ:卯月うづき乙花おとかのオッパイ

(絶対Eカップ以上はあるハズだ。ああ、むしゃぶりつきたい!)

趣味:白戸しらととおるをイジメいたぶること

(あの反抗的な瞳を見ると、余計にいたぶりたくなる。凡人のくせに!)

死因:身体切断によるショック死。

(登校中、日課の白戸しらととおるイビリを行った後、その現場を片思い中の卯月うづき乙花おとかに見られそうになり、あわてて立ち去ろうとした際に、ダンジョン発生時の衝撃波に巻き込まれて死亡)

使用可能スキル:黄のLv1筋力強化ストレングス

        黄のLv2重量増加ボリュームアップ

        黄のLv3肉体硬化ハードニング

        黄のLv4肉体肥大化ヒューヂュ


———————————————————————————————————


逆村さかむらが、100番……目? これって、もしかして……!!」


 俺は、口元にまで出そうになった薄気味悪い想像をあわてて引っ込める。


「んふ? 気がついちゃった??」


 ちっちゃなメダルの妖精カノトは、目を細ぉくしてニマニマと笑っている。

 ビンゴだ。間違いない! ちっちゃなメダルの正体は……!!


「そう。ちっちゃなメダルは、死んだ生命体の魂を具現化したモノなんだ♪

 んふ? なんだか気味が悪いよねぇ?

 そぉんな気味悪いメダルを集めるのが趣味なんて、とおるってめっちゃヤバいヤツだよねー♪ んふ♪ んふふ♪ んふふふ♪」


 メダルの妖精カノトは、さらに目を細く細ぉくして、ニマニマと笑いつづけている。

 俺は、背中がヒンヤリとしていくのを感じた。


乙花おとかちゃんは、アリンコをドンドン倒していってるよ!

 とおるも、ちっちゃいメダル集めなきゃ!

 ほらほら! 急いで! 急いで!!

 んふ♪ んふふ♪ んふふふ♪ んふふふふふふふふふふふふふふふふふふ♪」


 ちっちゃなメダルの妖精カノト……。

 乙花おとかそっくりの見た目にダマされていたけれど、ひょっとしたら俺、とんでもなくヤバいヤツにとり憑かれちまったんじゃあないのか??


 ゾクリ。


 背中の寒気は、さらにさらに強くなっていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る