今日も一日グリュックアウフ!

翌朝


時計が8時という時を告げる教会の鐘の音が響いて、イフカダ地区まで聞こえた。

そのイフカダ地区の貧民街に入る前に建てる宿屋の中にあるロビーで集まった冒険者の4人とダンジョン案内人兼通訳、スケト・タチバナ。


「おはようございます!皆さん...よく休みましたか。今日からダンジョンへのです。昨日はあくまでこの地区までの案内でしたが、これから実際のダンジョンに入ることになりますので、その前に必須である【入牢前安全教育】を受講していただきます。」と説明したスケトに対して、「え?」というポカーンの顔をした4人。

特に二日酔いがひどい戦士の男は気分の悪さを抑えながら、必死にリアクションしようとした。

「これはこのダンジョンが初心者向けのために必須事項になります。これを受けていただかないと、入牢することができません。受講済の証としてこのバッジを渡します。すでに分かることもあると思いますが、それはご了承くださいね。」と淡々と説明したスケト。

それが必須だと聞いて、仕方なく聞く戦士の男と真面目そうに聞こうとした残りの3人。

そこからしばらくスケトの安全教育が始まった。

ヴィオにも分かるように母国語を交えながら...


「まずはこの地下ダンジョンの概要ですが、すでに発覚したのは地下と言っても10階層があります。ご存じの通り、深い階層に行けば行くほどモンスターのレベルが高くなります。しかし、ここでは最深階層でも初心者が対処できるぐらいのローレベルのモンスターしか出現しません。ところが、希にハイレベルのモンスターも出現しますので、ご注意ください。次はこのダンジョンだけの注意事項ルールです。このダンジョンはかつて重罪人用の監獄だったため、脱走を防ぐために罠が仕掛けられました。そして、今でも全てのトラップがまだ取り除かれませんので、一応私が入手したマップにはトラップの居場所をしるしとして書いておきますので、進むときには慎重にしてくださいね。」とここまで説明したスケトだが、それを聞いた3人の冒険者と一人だけで眠たそうな顔をした戦士の男を見て、また続きを述べた。


「あとは基礎のことになりますが、必要な装備と点検です。こちらのダンジョンでは最低限の装備であれば問題なく入牢できますが、皆さん...装備は点検しましたか?」と問いかけたスケトに対して、聞いていた4人は戸惑いながら、お互いを見つめている。

「武器には錆やひどい汚れや破損がないか確認が必要になります。また、防具には破れたり擦れで薄くなったり、凹んだりしないか今確認してください。お互い確認してもいいです。もし問題があれば、入る前に武器屋と防具屋に寄って、修理や買い替えるが必要な場合があります。」

しばらくして、4人がお互いの武器と防具を確認して、特に問題がなかったと言われた後にスケトは次の話題に移った。


「次はアイテムの補充です。各自は回復アイテムを持ってください。回復液ポーションは自分が収納できる本数まで持ってください。後で薬屋で買い足します。余分は僕が背負っていきます。あとは異常状態バッドステータス...」とここでスケトは自分の手の甲を4人に見せた。


「すでにご存じかと思いますが、バッドステータス、およびバステにかかったときには手の甲には何かしらの絵や文字などのマークが現れます。例えば、一般で知られるのは髑髏ドクロのマーク、【毒】というバステです。消毒しない限り、そのバステが続けて、体が徐々に弱体化します。その場合は治療魔法キュアやアイテムを使えばすぐに治ります。手の甲を見ると、どんな種類のバステか分かりますので、確認を怠らないでください。気づかないときにかかってしまった場合もありますから...」とここまで説明したスケトだが、ここで前より真剣なトーンで話し始めた。


「最後に非常時の行動です。万一命の危険を感じることがある場面と遭遇した場合は...迷わずに速やかに避難してください。そして、仲間のことよりまずはしてください。」と言ってから、4人の顔が驚きが隠せない表情に変わった。気が引き締まった感を感じさせる雰囲気を察知したスケトは最後に4人に話した。


「これで教育が以上になりますが、何か質問とかがありますか?」

何が言いたそうな顔をした戦士の男だが、そのときはただ言葉を飲み込んで何も言わなかった。

「...ないようなので、これで入牢前安全教育が終了します。ご静聴、ありがごうございました。では、今日も一日!ご安全にグリュックアウフ!」

「グリュック...アウフ...?」と首を傾けて不思議そうに思う4人

「って何?」と聞いた戦士の男。

「インナムレグ帝国の炭鉱夫が使われた...炭鉱に出入りするとき、仲間への掛け声です。その意味は「欲しい成果が得られますように!そして、無事に戻ってこられますように!」ということです。この国の言葉にすると、【ご安全に!】と同じですね。そのご安全にもまたインナムレグから伝わったと言われています。これは、ダンジョンにすれ違うときにもよく冒険者同士が使う言葉です。やはりダンジョンは炭鉱と似ていて、危険が多くて、無事に帰還できる保証なんてありません。だから...せめて、同じ冒険の仲間には無事に戻ってこられるようという願いを込めて生まれた掛け声です。成果が得られることは大事ですが、何より大事なのは【命】です。」とスケトは真面目にその言葉の意味を説明した。

「少なくとも僕は皆さんが無事に帰還することをそれより嬉しいことはないと思っています。」と言葉を加えたスケトは優しい笑顔を4人に送った。

気のせいか...その笑顔の中にはどこかで切ない気持ちを感じさせる。

「では、改めて...今日も一日!グリュックアウフ!!」と少し大声で言って、拳を上げたスケトにつられて、4人も手を上げて、「おお!」と返事して拳を上げた。


入牢前安全教育が終了し、これからダンジョンへの入牢冒険がようやく始まる。


しかし...スケトは一つだけ4人に言っていなかった内緒の話がある。

それは、先ほど4人に見せた彼の手の甲にはあるマーク...がある。

決して誰にも見せられない...というより、だった。

それはスケト本人しか見えなかった小さなハートの形をするマーク、2列で5個ずつ...合計10個のマークが彼の手の甲に印された。

これは【うつ】だと彼は自分自身にしか見えないそのバステに名前をつけた。

なぜそう呼ばれたか彼の過去から見ないと、知ることはできないが...

それは後に分かることになります。

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