第25話 黒曜石を取りに行こう(with明日乃、一角、真望)

【異世界生活 11日目 7:30】


「お、もう起きたのか? もう少し寝ていていいんだぞ」

俺は起きてきた明日乃あすのにそういう。明日乃あすのは昨日3交代の見張りの真ん中なので睡眠時間が前半3時間、後半4時間と2等分されている。

 しかも後半4時間は俺といちゃいちゃしていたから実質2時間半も寝ていないと思う。


「だって、りゅう君が一緒じゃないと熟睡できないし、りゅう君が起きているって考えたら早く起きたくなっちゃった感じ?」

明日乃あすのが可愛いことを言ってくれる。昨夜は俺が最後の見張りだったので、明日乃あすのは最後、一人で寝ていた感じだ。

 というか、2人で一緒のシェルター(家)寝るのが当たり前みたいな流れ、本当にいいのか?


「昼間、こっそり他の女の子とエッチな事するのはいいけど、夜はダメ。夜は私と寝てね」

明日乃あすのが俺の表情を見て考えを読まれたのか、訳の分からないツッコミを入れる。


「じゃあ、今から、ちょっと流司りゅうじクン借りちゃおうっかな?」

麗美れいみさんがそんな冗談を言いながら起きてくる。


「ダメです。自然な感じで、こっそりやってください。その方が私も気が楽だって気づいたんで」

明日乃あすのがそう言う。それはそれでおかしいんじゃないか?

 明日乃あすのもなんか強い女の子になったな。

 というか、こっちの世界で兎の耳が生えたせいか、性格もだいぶ変わった気がする。

 俺はしみじみそんなことを考える。


 明日乃あすのはそんなこともお構いなしに、朝食を作り始める。朝食と言っても昨日採ってきたバナナを焼くだけだが。とりあえず、俺も手伝ってバナナを焼く。


「干し肉、もうなくなったのか?」

俺は明日乃あすのに聞く。


「今日、黒曜石探しに行くでしょ? その時の非常食で最後だよ」

明日乃あすのが残念そうにそう言う。


「もう一匹クマが出るといいわね。そろそろクマの頭の案山子を隠す?」

麗美れいみさんがふざけてそう言うがみんなゴメンだ。って顔をする。あの時は運よく勝てたが、また同じクマ、もしくはもっと大きなクマに会ったら勝てる気がしない。

 

「まあ、今日、黒曜石を探しに行く時になにか食べられそうな獲物がいたら仕留めよう」

一角いずみがそう言う。


「そういえば、黒曜石と言えば、秘書子さんに聞いたら少量でいいなら西に2時間くらい海沿いに歩いたところに川があって、その川岸に、川の上流、山の方から流れてきた黒曜石があるらしいからそれを拾いに行ったらどうかって提案があったよ。前に教えてもらった山の方は片道で半日以上、泊りがけでいかないと無理なくらい遠いところらしいから」

俺はそう言って近場の探索を勧める。


「そうだな。日用品くらいの黒曜石ならそれでいいかもしれないな。そして、仲間が7人だったか揃ったら改めてそこまで行ってみればいい」

一角いずみがそう言い、みんなも賛成する。


 東の川か。いつも行っている川は北の川、泉から流れ出している川だからまた、別の水源、東の山から流れ出る川っぽいな。そして東の山には黒曜石が大量に採れるところがあると。


 そんな感じで、今日は近場の河原に流れてきた黒曜石を拾いに行くことになった。

 麗美さんは歩くのが面倒臭いとキャンプに留守番だ。石板に医学知識を残すという楽しみもできたみたいだしな。


 とりあえず、朝食を食べて、日課の剣道の練習、というより木の槍の訓練をし、作業のための道具や荒縄、お弁当の干し肉、焼いたバナナ、そして水筒を持って出かけることにする。

 一角いずみは弓矢と木の槍を、それ以外のメンバーは護身用に木の槍を片手に出発する。

 参加するのは麗美れいみさん以外、俺、明日乃あすの一角いずみ真望まもの4人だ。



【異世界生活 11日目 10:00】


「西に行くのは初めてだね」

出発して早々、明日乃あすのが楽しそうに言う。


「そうだな、行くところといったら北の森かすぐ南の海岸くらいだったもんな。俺は少し東の海岸も歩いたけどあっちは何もなさそうだったけどな」

俺はそう言う。


「北東の方角にはもっと色々ありそうだね」

明日乃あすのがそう言う。

 そうだろうな、山があって、反対岸があるだろうし、できれば島を一回りして、島の大きさくらいは把握したいところだ。


「お前ら、おしゃべりするのは勝手だけど、警戒は怠るなよ」

一角いずみが全く喋らないと思っていたら、結構真剣に探索をしていたようだ。


「そうだな、悪い」

俺は素直に謝る。


 そのまま4人で海岸沿いを歩く。

 俺と一角いずみが前衛、明日乃あすの真望まもが後衛だ。本当なら真望まもが前衛に立って一角いずみが後衛で矢を放てばいいんだろうけど、一角いずみのレベルが一番高いのと、真望まものレベルがいまいちで戦闘経験もないのでしかたない。


 途中、海岸が岩で阻まれたので、迂回、まあ、ゲームみたいなオートマッピング機能があるので、地図を見ながら進めば方向を見失うことも現在地もキャンプの位置も見失わないので楽といえば楽だ。

 なんか、変にサバイバルなくせして、こういうところはゲームっぽいんだよな。さすが異世界転生ってやつか?


 そんなことを考えつつも、地図を見ながら順調に目的地に進む。

 途中、カモメっぽい鳥がいっぱいいたが、明日乃あすの曰く、不味いらしいので捕まえるのはやめた。雑食性で特に肉食に近い動物は基本不味いのが多いかもな。

 ちなみに卵は普通に食べられるらしい。


「多分、さっきの登れなそうな岩場の上に巣があるのかもね」

明日乃あすのがそう言う。もしかして、玉子食べたいのか?


 結局、行きの道中では食べられそうな鳥も獣も現れず、黒曜石が流れてきていると言われる河原に到着。ここから上流に歩きながら黒曜石探しって感じかな?



【異世界生活 11日目 12:30】


「お昼だし、ご飯食べてから散策しようよ」

明日乃あすのがそう提案する。

 確かに2時間休み休みだが歩いてきたし、一度、休憩も必要だな。 


 河原のひらけたところに座ってみんなでお昼ご飯を食べる。焼いたバナナと干し肉だ。


「干し肉、そのまま食べると結構キツイな」

俺はそう言う。

 クマ肉の独特の臭みと干したことによる臭みの倍増、かなり臭みのあるビーフジャーキーを食べている感じだ。


「ちょっと、周りを散策して山菜でも集めて料理しようか?」

明日乃あすのがそう提案するが、火をつけるのが面倒臭そうだし、森の散策も予定外の行動だし避けた方が良いかもしれないな。


「まあ、今日は黒曜石探しが目的だから、我慢しよう。夜、キャンプに帰れば火は使えるしな」

俺はそう返事する。


「干し肉はもうないけどね」

真望まもが余計なことを言う。

 早めに黒曜石が見つかったらちょっと探索して動物や鳥を狩るのもいいかもしれないな。


 一時間ほど昼食をとりながら休憩し、河原の探索を始める。下流の川のせいか川幅もあり、歩いて渡るのは無理そうな川だ。とりあえず、対岸は無視してこちら側の岸だけを探索することにした。


「橋とかも作らないと自由に島を歩けないかもね」

明日乃あすのが対岸を見てそう言う。

 

「将来的にはそう言う作業も必要になるかもな。もしくはいかだを作って海岸沿いを移動するとかも考えないといけないかな? まあ、竹がいっぱいあるから、いかだも比較的簡単にできそうだけどな」

俺はそんな話をしながら河原を歩き、一角いずみに真面目に探せと怒られる。


 とりあえず、鑑定スキルで大ざっぱに探してみるが、うん、無理だ。目に見える石全部に解説がついた。


 とりあえず、黒っぽい石を探しながら歩く。


流司りゅうじこれ見て、ねえ、これ」

真望まもが石を拾ってちょっと自慢気に俺に見せてくる。

 緑色のちょっと変わった石だ。鑑定すると『孔雀石』。そして解説には銅が精製できると書いてある。


「孔雀石、別名マラカイト。緑色の縞模様の鉱石で古代エジプトでは質のいい物はアクセサリーとして使われたり、加工が容易という事で銅の原料として使われたりしたこともあります。現代では宝石としての価値はあまり高くなく、銅の精製にも非効率で不適、置物などに使われています」

秘書子さんが石について詳しく教えてくれる。

 まあ、綺麗な石くらいの扱いか。それより、銅が精製できるのは気になるな。


「どう? すごくない?」

真望まもが少し自慢気な顔で俺に言う。


真望まも、他にも落ちていたら拾っておいてくれ。将来的に銅製のお鍋とか作れるようになるかもしれないからな」

俺はそう言う。

 他のメンバーにも聞こえていたみたいで、真望まもが問い詰められ、結果、黒曜石探しとマラカイト探しになった。

 特に明日乃あすのは銅のお鍋と聞いて黒曜石より孔雀石に集中している気がする。

 別に、銅がすぐに作れるようになるわけじゃないんだけどな。


 しかも秘書子さんにさらに聞くと、ここにマラカイトがあるということは上流に銅鉱石の鉱脈がある可能性があるとのことで、一応将来の為に銅鉱石の鉱脈をマップにマークしてもらった。

 あと、川底を漁れば、少量の砂金や砂鉄も取れるそうだ。ちょっと魅力的な話だ。


 そんな感じで秘書子さんと話をしていると、仲間たちはどんどん先に言ってしまい、一角いずみにサボるなと怒られる。情報収集も大事だぞ。


 とりあえずは、黒曜石だな。

 

「りゅう君あったよ。黒曜石っぽいよ」

明日乃あすのが嬉しそうに声を上げる。

 俺も急いで明日乃あすのの側に行く。


「これだよ」

明日乃あすのが嬉しそうに黒い石を指さすが、


「で、でかいな」

明日乃あすのが見つけた黒曜石はなんか中途半端にデカかった。

川に流されてきたからか丸い球状なのだがなんかでかい。バスケットボールを一回り大きくしたくらい? 一人で微妙に持てるか持てないかってくらいの大きさだ。持ち上げてみると、持てないことはないが軽く10キロは越えてるな。


「とりあえず、割って細かくして持ち帰るか」

一角いずみがそう言う。


「まあ、細かくし過ぎても用途に困りそうだから4当分できたら理想的だな」

俺はそう言う。


流司りゅうじ、私と持ち上げてそこらへんにある大きな岩に落としてみるか?」

一角いずみがそう言う。


「そうだな。それが一番早そうだ」

俺は一角いずみの意見に賛成し、2人で黒曜石の塊を持ち上げ少し運び、大きな岩の上で気をつけながら左右に振って、投げる。


 ガコンと大きな音がして2つに割れる。細かい破片も出た感じだ。


「どうだ?」

一角いずみが俺に聞く。

 俺は落ちている破片を見てみる。いい感じで割れている。まるでガラス瓶を割ったみたいな鋭さがある。


「おおっ、これならカミソリとしても使えそうだね」

黒曜石を一番欲しがっていた真望まもが破片を拾って嬉しそうに観察する。


「危ないから、先を触るなよ」

俺が注意するが、


「痛っ!」

真望まもの人差し指から血が流れる。


「ほら言わんこっちゃない」

俺は呆れてそう言うと、真望まもの人差し指を咥えて汚れやゴミを落とすように舐める。


「つぅ!!」

真望まもが声にならない声を上げて顔を真っ赤にする。


「悪い、痛かったか?」

俺がそう言うと、


「もう、傷ぐらい自分で舐められるって」

そう言って、一度躊躇してから自分の人差し指を舐める真望まも


「包帯とかないのが厳しいな」

俺はそう言う。


「そうだね。麻布とか作れるようになったら包帯もできるし、布作りは早急な課題だね」

明日乃あすのがそう言う。ちょっと不機嫌そうな声で。

 ん? なんかあったのか?


 そんな感じで、黒曜石が1:2くらいで割れたので、大きい方をもう一回投げて3等分になった。


 とりあえず、一番大きい石を俺が運び、次を一角いずみ。一番小さい石を明日乃あすのが運び、飛び散った破片とみんなで拾った、銅が含まれている孔雀石? それを集めて、真望まもが持って帰ることになった。

 真望まもは右人差し指咥えたまんまだしな。


「黒曜石、私にも少し分けてくれよ。矢のやじりにしたいからな」

一角いずみが少し嬉しそうにそう言う。やじりの無い矢に少し不満だったようだ。


「とりあえず、真望まも、大丈夫そうか? 血止まりそうか?」

俺は気になって聞いてみる。


「薄皮切れただけだし、少し舐めておけば治るわ」

真望まもが指をくわえながらもごもごとそう言う。

 まあ、大丈夫そうだな。

 

 とりあえず、真望まもの様子を見ながら、明日乃あすのの体力に気をつけながらキャンプに帰る。

 銅が含まれた鉱石と上流に銅の鉱脈があるのが分ったのは大きいな。将来的には銅のお鍋とか作れるかもしれない。


 帰る途中、日が暮れたせいもあるのかイノシシがエサを探して森から出てきたようで遭遇、一角いずみの矢で怯んだところを俺の投擲でとどめを刺す。とりあえずお肉と毛皮をゲットだ。

 というか、黒曜石投げちゃいました。ごめんなさい。


 とりあえず、俺がイノシシの見張りをして、一角いずみ明日乃あすの真望まもに先に黒曜石を持ち帰らせる。

 待っている間に血抜きだけ済ませて、3人が返ってきたら、イノシシを木の棒に縛り付けて俺と一角いずみで担いで運ぶ。

 明日乃あすの真望まもには運びきらなかった黒曜石、俺がイノシシに投げて割れてしまった黒曜石を運んでもらう。

 

 イノシシ肉をゲットして何故かホクホク顔の明日乃あすのだった。


 キャンプに着く頃には18時近くなっていて、陽も沈む寸前になってしまった。

 とりあえず、明日乃あすの真望まもに海岸にたき火というか、かがり火を焚いてもらい、明るくして、イノシシを海で洗いながら解体して20時過ぎ。

 脂身を焼きながらみんなで手分けして赤身を薄切りにして海水につけまくる。

 また干し肉ができてバナナ生活から遠ざかることができそうだ。


 そして、黒曜石も手に入ったし、少しだけ道具の質も上がりそうだな。

 今日行ったところに行けば黒曜石ももう少しありそうだし、また無くなったら補充に行こう。 


 次話に続く。

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