第12話 川を探しに行こう(with明日乃)

【異世界生活 3日目 8;00】


 ステータスウインドウの時計についているアラーム機能で目を覚ます俺。この世界に落とされて、もう3日目か。


「異世界、しかも無人島で目覚まし時計に起こされるっていうのもなんだかな」

俺は愚痴を言いつつ枝と葉っぱでつくったシェルターから外に出る。


「いっそのこと、この、ステータスウインドウって奴を使用禁止にした方がサバイバル生活を楽しめるかもね」

昨晩、最後の見張り役&たき火の番をしていた一角いずみがそう言う。

 まあ、ステータスウインドウがないならないで色々困るんだが。


 俺は賛成とも反対とも取れそうに鼻で笑うとたき火のそばに座る。

「おはよう。何か変わったことはなかったか?」

俺は一角いずみに挨拶をする。


「変わったこと? 変わったことと言えば、昨日の夜、見張りを交代する時に、明日乃あすのの体からお前の匂いがプンプンしたくらいかな? お前達そう言う関係だったのか?」

一角いずみが顔色変えずにそう言う。

 

 俺は豪快にせき込む。

「い、いや、こっち来てからというか、元々好き同士だったというか、何ていったらいいか、なあ」

俺は必死に弁明するが、言った張本人の一角いずみは顔色も変えず、興味なさそうな顔をして石を磨いている。

 俺も薄々気づいていたが、けもみみが生えた時に、鼻も少し良くなってる気がしていたが、一角いずみもかなり鼻が利くようになっていたのか。


「ああ、石の鍋を作っていてくれたのか」

俺は誤魔化すようにそう言う。

 一角いずみは見張りの間、くぼんだ石の内側を他の石で擦り、穴を深くして塩づくり用の鍋を作ってくれていたようだ。


「ああ、明日乃あすのも石斧みたいなものを作っていたみたいだからな。私も今日は塩づくりの予定だからその道具くらい作ろうかと思って」

一角いずみがそう答える。

 よかった。なんか、誤魔化せたようだ。


「で、明日乃あすのとは付き合っているのか?」

一角いずみが横目でにらみながらそう言う。


「あ、ああ、付き合っているみたいだな。お互い好きだったと気付いたのは昨日みたいだが」

俺はそう答える。

 今日、俺は一角いずみに殺されるかもしれない。こいつは明日乃あすのの従妹で同性でありながら、明日乃あすのの事が大好きだからな。


「そうか。明日乃あすのの事を泣かせるなよ」

一角いずみが静かにそう言う。

 意外な反応に、俺が反応に困る。


「おはよー、りゅう君、一角いずみちゃん。どうしたの? 何かあったの?」

明日乃あすのも起きてきたが、微妙な二人の空気に首をかしげる。


「いや、なんでもない。おはよう。明日乃あすの

一角いずみが何もなかったように明日乃あすのに挨拶をする。

 俺もそれにならうように明日乃あすのに挨拶をする。


「とりあえず、俺は、昨日地面に埋めた肉を掘り起こしてくるから、明日乃あすの一角いずみは肉を干し肉にするのによさそうな籠、魚の一夜干し作る網みたいなものを作ってくれ」

俺はそう言って、肉の埋めてあるところに向かおうとする。


「一夜干しを作る網?」

一角いずみが首をひねる。

 明日乃あすのもよく分かってないようだ。父親のサバイバル本には干し肉や一夜干しの作り方はなかったのか?


「こんな感じの四角形で3段くらいの棚があって、風がよく通る感じの鳥かごみたいなものを作って欲しいんだよ。これをヤシの木にでも吊るしておけば風で乾いて干し肉ができる。って感じか。鳥につつかれないように網の目は細かめにな」

俺はそう言って、地面に直方体の絵を描き中に2段の棚を描いて見せる。


「ああ、これなら、テレビか何かで見た気がする。ナイロン製の網か何かでできていたけどそれを木で作ればいいんだね」

明日乃あすのが一夜干しの網を思い出したようだ。俺もそれだと頷く。


「荒縄の目の部分に枝を差し込んですだれみたいな物を作って、外側6面分と、中の棚2枚作って組み合わせればいい感じかな?」

明日乃あすのが思考錯誤しているようだ。多分大丈夫そうだな。


 とりあえず、荒縄も枝も足りないらしいので、明日乃あすの一角いずみは材料集めに行くようだ。

 俺は2人に一夜干しのかごづくりを任せて、キャンプのすぐそばに埋めた肉を取りに行く。


 目印に置いた石をどかし、木の棒で掘っていく。

 効率が悪いな。石斧みたいに平らな石と木を組み合わせてシャベルみたいなものを作りたいが、柄と石の部分をどうつなげたらいいか思いつかず、石斧で掘ればいいか。ということになった。今度、地面掘る為の石斧、平らで広い石を使う感じ? を作るといいかもしれないな。なんか、昨日から、石斧ばっかり作っている気がするが。

 結局、木の枝では効率が悪すぎて、平らで広い石を見つけてきて、それをシャベル代わりに手で直接持って掘った。


 結構、深めに埋めた肉をすべて掘り起こし、キャンプに戻る。

 明日乃あすの一角いずみも材料集めが終わったようで、二人で荒縄を作っていた。


「とりあえず、脂身の多い肉をもう一度焼き直して朝食にするぞ」

俺はそう言って準備をすると、


「おい、流司りゅうじ。ついででいいから、この石鍋使って海水も煮詰めてくれ。さすがに味の薄い肉は食欲が沸かない」

一角いずみがそう言う。こいつ、意外とグルメだな。


 俺は仕方なく、ヤシの実の殻を2つ持って海に行き海水を組む。効率の悪さに、やっぱり粘土で作った土器みたいなのが欲しいなと思った。

 

 キャンプに戻り、昨夜、一角いずみが作った少しくぼんだ石、石鍋っぽい物をかまどにのせて海水を入れて煮詰める。

 それを見ながら同時に肉を石包丁で食べやすい大きさに切り、枝に刺して串焼きのようにしてたき火の周りに刺していく。だいぶ手馴れてきたものだ。

 まあ、親父や明日乃あすのの父親と一緒によくキャンプに行っていたおかげもあるかもしれないな。

 そんな感じで、昔のキャンプを思い出しながら肉を焼きつつ、塩づくりもする。


「良い匂いだねえ~」

匂いにつられて明日乃あすのが寄ってくる。


「このあたりはもう食べられるんじゃないか?」

俺はそう言って、よく焼いたイノシシ肉を明日乃あすのに渡す。


「りゅう君も食べよ?」

明日乃あすのがそう言うので仕方なく、肉を焼きながら、俺もイノシシ肉の串焼きを手に取り、塩を少しかけて食べる。

 よく焼いてあるし、腐ってはいなそうだし、大丈夫そうだな。


 明日乃あすのと二人でたき火を囲んで朝食を食べる。


「おい、流司りゅうじ、私の分もよこせ」

一角いずみが怒り顔で寄ってくる。

 ごめん、忘れてた。


 一角いずみにもイノシシ肉の串焼きを渡し、それ以降はセルフで食べていく。


「やっぱり、塩はたくさん欲しいな」

俺は塩を使い切ってしまい味気の無い串焼きを食べる。


一角いずみちゃん、今日は塩づくり宜しくね。責任重大だよ」

明日乃あすのがそう言う。


「ああ、任せてくれ」

一角いずみ明日乃あすのに頼られて、嬉しそうに答える。

 こいつ、明日乃あすのには素直なんだよな。


 今日は動けるように腹八分目に押さえ、多めに焼いた肉を葉っぱに包み、お昼ご飯用の弁当を作る。


「飲み水用にヤシの実も取っておかないとな」

一角いずみがそう言う。

 確かに、昨日取ったヤシの実が今の朝食で尽きてしまった。


「一夜干しのかごができたら取りにいくか」

俺はそう言うと、


「もうできてるよ」

そう言って自慢げに直方体の鳥かごのような箱を見せてくる明日乃あすの


「おお、いい感じじゃないか」

俺は感嘆の声を漏らす。

 すだれのような網を6面並べたような、想像していた通りの一夜干し籠ができていて俺は明日乃あすのを褒める。


「私も手伝ったぞ」

一角いずみが不貞腐れる。


「なんだ? 一角いずみも俺に褒めて欲しかったのか?」

俺は一角いずみを冷やかすようにそう言うと、


「いや、いい」

一角いずみに丁寧にお断りされた。


 とりあえず、一夜干し籠もできていたので、俺がイノシシの赤身肉を石包丁で切り分けて干す役。明日乃あすの一角いずみはヤシの実を取りに行く感じになった。

 俺は、ヤシの実の殻の皿をあるだけ使って海水を汲み、残ったイノシシ肉の脂身を取り除きながら赤身を熱さ1センチ以下の薄切りにしていく。

 そして薄切りにした肉はヤシの実の殻に入った海水につける。

 とりあえず、半日くらい海水につけて塩分をしみこませたら干す。そんな感じだ。

 結構な量の肉があるので薄切りにするのも一苦労だ。しかも切れ味の悪い石包丁。時間がかかる。


 そうこうしているうちに、明日乃あすの一角いずみもヤシの実を持って帰ってくる。明日乃あすのが2個に一角いずみが4個。明日くらいまでは持つかな?

  

 そのあと、3人で肉の処理をして、とりあえず、赤身のすべてを海水につける作業までは終わった。


一角いずみ、15時くらいになったら、海水から出して、一夜干し籠の中にこの肉を並べて干しておいてくれ」

俺はそう言う。


「ああ、分った。流司りゅうじ明日乃あすのは川を探しに行くのか?」

一角いずみがそう答える。


「そうだな。そろそろ出かけないと夕方になりそうだし、明日乃あすのも水浴びしたくて仕方ないみたいだしな。まあ、ステータスウインドウにオートマッピング機能も付いているし、川がありそうな場所にマークもついている。マップ自体は真っ黒だけど、行く先と帰る場所、そして仲間のいる場所が分かるっていうのは凄くありがたいな」

俺はそう言って出かける支度をする。

 本当にオートマッピング機能はありがたい。こういうサバイバル生活で怖いのは探索時の遭難だもんな。

 

 昨日作ったなたっぽい石斧、明日乃あすのも作ってくれたもう1本、そして最初に作った石斧を大きな葉っぱに包み、風呂敷の要領で背中に背負う。明日乃あすのも同じようにヤシの実の外の皮をはがしたものも水筒代わりに1個入れ、弁当替わりの焼き肉も入れて葉っぱに包み背中に背負う。そして作業用の石包丁を1個ずつと護身用の木の槍をそれぞれ1本持って準備完了だ。


「それじゃあ、行ってくる」

俺は一角いずみにそう挨拶して森の中に入っていく。

 時間は11時。準備と干し肉の下ごしらえで結構時間がかかってしまったな。

 ちなみに川はキャンプから森の中を北に進むとあるらしい。

 まあ、森と言ってもジャングルのように行く手を阻むほどの木や草が生い茂る密林というより、日本の裏山っぽい雑木林の感じなので、陽も入って明るいし、地面も見えて歩きやすいのは助かる。


「あ、りゅう君、鑑定使うと、食べられる野草とかキノコとかわかるみたいだよ?」

明日乃あすのがそう言って森の中をはしゃぎまわる。

 たまに立ち止まってキノコや野草のようなものを石包丁で採取している。

 俺も興味本位で鑑定を使うと確かに野草の名前や食べられる場合は食べられるコメントがついている。便利だな。このステータスウインドウは。


「背負いかごみたいなのが欲しいね」

明日乃あすのがそう言う。


「そうだな。竹が一杯取れたらせおいかごみたいな物を作るのもいいかもしれないな。作りやすさからしたら長い葉っぱとかを編んだ方がいいか」

俺も同意する。

 明日乃あすのは大きな葉っぱをうまく折って、かばんのようなものを作り野草やキノコを入れて抱えている。


 俺も匂い消しになりそうな野草やネギっぽい野草をいくつか集め、とある植物に目が行く。


明日乃あすの、シャボンソウがあるぞ。葉っぱや花を水で揉むと泡立って石鹸になるらしい」

俺が明日乃あすのに声をかける。


「え? 本当?」

明日乃あすのが慌てて俺の方に駆け寄ってくる。

 

「秘書子さん曰く、根っこや茎を煮込むと液体せっけんができるらしいな。ただし、使うときは目に入らないように気を付けることだって。皮膚の弱い粘膜に触れると毒なんだそうだ」

俺は秘書子さんにシャボンソウの使い方を聞いて明日乃あすのに教えてあげる。


「すごいね。とりあえず、今日は葉っぱと花だけもらっていこ? お鍋みたいな土器がつくれるようになったら液体せっけん作りたいね」

明日乃あすのが予想以上に喜んでくれた。俺も嬉しくなる。


 そんな感じで山菜やキノコをとりながら森を進むと川を発見する。いや、川というより泉だな。綺麗な水が湧きだす小さな泉だ。そしてそこから細い川が東に向かって流れている。


「すごい、綺麗な水だよ。湧いているところの水、飲めるみたいだよ?」

明日乃あすのがそう言って大はしゃぎする。

 鑑定してみると湧き水も泉の淀んだところ以外は飲んでも大丈夫らしい。


 俺は、湧き水で手を洗い少し手で汲んで口に入れてみる。

 しびれや変な味はしない。というよりめちゃくちゃ美味い。

 少し様子を見て、体調も悪くならないようなので、


「毒ではなさそうだから飲んでみるか?」

もうひと口だけ飲んで、明日乃あすのにも勧める。

 明日乃あすのは嬉しそうに湧き水に飛びつき手で汲んで口に入れる。


「うわぁ、すごく美味しい。しかも、本当のお水を飲むの久しぶりだから体に染み渡るよ」

明日乃あすのが本当に美味しそうに水を飲む。


 明日乃あすのが水に夢中になっている間、周りを見渡すと、すぐそばに竹林もあった。


 俺は竹林に近寄り、石斧を葉っぱの風呂敷から出すと根元を叩いて叩き折る。時間はかかるし、折れた部分はボロボロで使い道なさそうだが石斧で叩き折ることはできそうだ。


明日乃あすの、俺はこっちで竹の採取と竹の加工をしているから、水浴びしていていいぞ」

俺はそう言って、倒した竹をなんとか綺麗に切断できないか色々試す。


「え、本当? じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな? りゅう君、見ちゃダメだよ?」

明日乃あすのが小悪魔スマイルでそう言って、荷物を置くと、泉をよく調べて危険がなさそうだったのか足をつける。


 俺は、明日乃あすのがこれから裸になることを想像してしまい、照れながらそっぽを向き、明日乃あすのが見えないように背中を向けて竹の加工に集中することにした。


 次話に続く。

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