第6話 迫りくるもの。初めての戦闘。
カサカサ。
遠くの藪で音がする。
「りゅう君?」
「気づいたか?」
俺は
「なんか、この耳のせいで音とか気配に敏感になっているみたい。りゅう君も?」
「ああ、やっぱりそうか。俺もやたら耳が良くなったと驚いていたところだ」
「
俺はそう言って、音のする方に、先をとがらせただけの木の枝を構える。槍と呼ぶには粗末すぎるそれを。
がさがさ。
そして現れる、敵の姿。まだ薄暗い、明け方の4時。
「オオカミだ」
俺は
大きな灰色の犬のような生き物。大きい。100センチは優に超え、大きい物は130センチ以上あるだろうか? 大型犬の類だ。そんな狼が3匹現れる。
しかも、藪の中にはもう2匹気配がある。
俺は改めて、槍を構えなおし、
まずいな。1匹ならまだしも、5匹だと囲まれたら
「
俺はそう言って
「こい!! オオカミ!!」
俺は、気合を入れて叫び、オオカミをけん制する。
そして槍を大きく横にぶんぶんと振り、突く姿もみせる。近づいたら危険であることを視覚で分からせるように。
攻撃が野生のオオカミに通用するのだろうか? 横薙ぎすれば当たりやすいだろうが致命傷にはならなそうだ。突きは当たり所が良ければ怯み、もしかしたら致命傷になるかもしれないが、避けられる可能性もある。
突きでけん制しつつ、横薙ぎって感じか?
俺はそんな感じで戦いをシミュレーションする。
そんな、武器による牽制が効いたのか、オオカミは警戒しながらじわりじわりと近づいてくる。明け方とはいえまだ暗い。そして野生の暗さだ。たき火が無かったら真っ暗だったかもしれない。
俺はたき火と
そして、飛び掛かってくるオオカミ。1匹は俺に。残りの二匹は左右から回り込むように
不味い。最初から俺より弱そうな
だが、俺も、向かってくるオオカミを無視して他の2匹を相手する余裕もないし、逆に悪手だ。
俺は確実に、俺を狙ってくるオオカミの顔を思い切り槍の横薙ぎで殴り倒す。
ぎゃん!!
オオカミが大きく吹き飛ばされて地面を転がり、立ち上がるもふらふらのようだ。なんだ? 思った以上に力が出た?
俺は急いで
オオカミが警戒して、後ろに飛び退き、俺と睨み合いになる。
だが、これでは、ジリ貧だ。最初に殴ったオオカミも、フラフラしつつも回復しようとしている。
そして、藪に隠れていた2匹。さらに大きいオオカミが現れる。
でかい。全長150センチ以上あるんじゃないか? 大型犬というより人の大きさに近いかもしれない。そんな大きなオオカミが2匹ゆっくり近づいてくる。
いや、どこに逃がす? 追いかけられて、背中を狙われるのが関の山じゃないのか?
俺は焦る。だが、1匹ずつ確実に仕留めるしかないのも事実だ。一度軽く息を吐き、冷静になり槍を構えなおす。
そして、目の前にいる、
ギャウン!!
手に伝わる肉を引き裂く感触。オオカミのはらわたに深く突き刺さる木の槍。
オオカミが俺と対面しつつ、
俺はそのまま走り、オオカミに全力で槍をねじり込む。地面にへたり込むオオカミ。
槍を抜き、他のオオカミをけん制するがそれまでだった。
最初に殴りつけたオオカミも回復し、1匹仕留めたことで、必死になったようで全力で飛び掛かってくる。後ろに控えていた2匹も1匹の仲間を失った怒りか、全力で俺と
ここまでか。
さすがに2対1では俺も自分の防御で精いっぱい。
俺は死を覚悟して
「何やっているんだ、馬鹿野郎!!」
一人の人影。
「
そうだ、
「ぼーっとするな。
そう、俺に怒鳴りつける
俺も、気を取り直し、槍を構えなおす。新たに飛び掛かってきたボスらしき大きなオオカミと、最初に殴り倒したオオカミに。
「りゅう君、私も戦うよ」
そう言って、
「すまない、そいつをけん制するだけでいいから、相手してくれ」
俺は
ギャン!!
キャン、キャン!!
そして同時に、もうひと回転、今度は下から上に、突き上げるように槍の尖った先とは逆、石突の部分でオオカミの顎をはね上げる。
オオカミが大きく空中で縦に一回転して転げ落ちる。
それを見た大きなオオカミ2匹と
「逃がすか」
俺は、一瞬、躊躇し、逃げ遅れた
突然の増援のおかげで何とか野生動物との戦闘に勝つことができた。
「
俺は
彼女は
そして、
「
そう言って、あたりを見渡し、大きな葉っぱを拾うと
「いや、本当に助かったよ。
俺はそっぽを向きながら改めてお礼をする。
「助かった、じゃない!!
そうだった、この子、
昔から
「もう大丈夫だよ。りゅう君。着替え終わったから」
そして俺達と同じように頭の上に獣の耳とお尻には尻尾。
「間に合ってよかったぜ」
どこからともなく聞こえる声。ああ、神様か。
声の方を振り向くと空に浮かぶ透明なおっさん。
「だが、緊急でお前たちの同級生の一人を降臨させたせいで、当分、俺の力はからっぽだ。この先、少し音信不通になるが、勘弁してくれ。そんな感じなんで、新しい仲間にはお前たちの方で説明しておいてくれよ」
そう言って、足早に去ろうとする神様。
「おいおい、ちょっと待ってくれ。一つだけ教えてくれ。この耳と尻尾はなんなんだ? そして二人とも、元の世界とは違う性格になっている気がする。これはこの耳や尻尾が関係しているのか?」
俺は慌てて一番聞きたかったことを聞く。
そのまま、去ろうとしていた神様が思い出したように、戻ってきて、
「ああ、それはけもみみだな。お前達は、元の世界の魂の10分の1を分霊してこの世界に転生させたって言ったろ? 実はその10分の1っていうのが野生の部分、動物の本能的な魂なんだよ。だから、その魂を象徴するような耳と尻尾が生えてしまう。そういう事だ」
神様が思い出したようにけろっと耳と尻尾の事を解説する。
「ちなみにリュウジ。お前の場合は『傲慢』。お前の中に隠れていた傲慢さが動物の本能と一緒に引き出されて、傲慢の象徴たる獅子の耳と尻尾が生えた。そんな感じだ。だから、現世同様、傲慢さを抑えるように謙虚に生きることを心がけろよ。傲慢すぎる男は女の子に嫌われるからな」
神様が余計な説明を付け加える。
「傲慢で獅子。まるで『七つの大罪』だね。そして対応する謙虚さは美徳って感じ?」
「なんだそりゃ?」
俺は聞いたことがない言葉を聞き、
「元はキリスト教の教え? 元は『七つの罪源』っていって、人間が陥りやすい、罪を犯しやすい感情や欲望をまとめたものって感じかな? で、後世の作家さんとかが、それぞれの大罪に悪魔を関連付けたり、架空の幻獣を当てはめたり、実在の動物を当てはめたりしたんだよね。りゅう君は七つの大罪のうちの一つ、『傲慢』が強く出ちゃって、獅子の尻尾や耳が生えちゃったってことかな? ちなみに関連する悪魔はルシファー。幻獣はグリフォン、関連する動物としては孔雀や蝙蝠なんて文学もあるわね。で『傲慢』に対する美徳は『謙虚』。確かに、りゅう君は元の世界じゃ謙虚な感じだったもんね。こっちの世界に来てだいぶ変わったよ?」
つまり、こっちの世界に来て傲慢になったから謙虚さを思い出して暮らせってことか?
「なんか、中二病臭い匂いがするな」
「私は中二病じゃないんだからね。これも異世界転生小説が好きって部活の友達が貸してくれた小説の話なんだからね」
「
「それじゃあ、
俺は
「私は多分、兎だから」
「また、機会があったら話すね」
「そうだ、神様に素材のありかとか聞くんでしょ? 神様、鉄とかはないんですか、できたらナイフが欲しいです。お鍋とかも。ダメならせめて、黒曜石。あと、竹とか川のある場所が分かると嬉しいです」
「ああ、これで最後だぞ。もう、俺の力残ってないからな。竹と川は森を進めばあるし、黒曜石はちょっと遠いな。海沿いに歩けばそのうち山が見える。その山を登れば黒曜石のとれる岩場がある。そして、ナイフや金属だが、この島に鉄はない。将来的にこの島を出て、他の島に移動すれば鉄鉱石のとれる島もあるが、まだ先だな。魔物もいるしな。あとものすごくたくさん祈れば、俺の力でナイフを作ることができるが、とりあえず、仲間を降臨させる方が先だろ? 人数増えれば祈りも増えるし、そしてナイフとかお鍋は相当な祈りが必要だぞ? 何カ月も何カ月も祈るくらいの力が必要だ」
神様がそう言う。そして、体がさらに透けて、向こうが見える。
「ああ、もう、時間切れだ。詳しくはリュウジ、秘書子さんに聞け。秘書子さんはリュウジとしか話せないが聞けば聞いたことは教えてくれるから、説明書のつもりで活用してくれよ」
神様はそう言うと、透明になって、消えてしまう。
「行っちゃったね」
「秘書子さんは俺にしか見えないのか」
俺はそうつぶやく。
「はい、私は神様と違い、リュウジの力を借りて、リュウジの脳に直接話しかけているだけなので、神の力の消費は少なく、また他の人には話を聞くことも姿を見ることもできません」
突然、現れる秘書子さん。
なるほどな。力を節約する為に俺にしか見えないようになっているのか。
ちょうどいいので、秘書子さんから色々聞こう。オオカミの死体も何とかしたいし。
次話に続く。
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