第4話
「卒業後は、どこで歌うのですか?」
俺がよこりゅう先輩に尋ねたのは、十二月の末。クリスマスシーズンも終わり、人々の意識が新年に向けられる頃だった。
合唱サークルから巣立っていく先輩たちの中には、社会人向けの市民合唱団に入って、活動を続ける者もいるという。それらしき一般の合唱団は市内にいくつか存在するので、よこりゅう先輩も、その一つを選ぶのだろう。
俺はそう思ったのだが……。
「大学を卒業したら、合唱も卒業だよ」
彼の口から出てきたのは、意外な返答だった。
「僕は器用じゃないからね。仕事をし始めたら、趣味に時間を
そう言われると、返す言葉もなかった。
社会人向けの合唱団もある以上、実際には、よこりゅう先輩が言うほど『無理』ではないはず。
しかし彼は、合唱の全体練習を野球やサッカーの練習試合に例えていたくらいだ。正規の練習時間以外に、個人練習に費やす時間も人一倍だったからこそ、こういう考え方になるのだろう。
よこりゅう先輩の気持ちは理解できるけれど、俺個人としては寂しく感じてしまう。
「なんだか勿体ないですね。よこりゅう先輩、こんなに歌が上手いのに……」
「そんな顔するなよ。ほら、人生は長いんだからさ。また何か新しい趣味を見つけるさ。もっと時間のかからない、簡単に出来そうな趣味を」
彼は優しく、俺の頭をポンポンと叩くのだった。
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