第2話
俺の三つ上の先輩であり、フルネームは横永竜太。同学年からは「よこりゅう」、後輩からは「よこりゅう先輩」あるいは「よこりゅうさん」と呼ばれていた。
普通、誰かと知り合う時は、まず顔と名前を認識するものだろう。だが、俺がよこりゅう先輩を知ったのは歌声からであり、一目惚れならぬ一耳惚れだった。
大学に入ったばかりの頃、新しくできた友人に誘われて、一緒に聴きにいった新歓コンサートだ。テナーソロのある曲が演目に含まれており、そこでソロを担当していたのが、よこりゅう先輩だった。
美しく澄んだ声が、コンサートホールの天井付近まで広がって、再び舞い降りてくる。そんな聞こえ方に感じられた。
後々いざ自分が歌う側に回ると「頭のてっぺんから声を出すような意識で」とか「遠くの光景を思い浮かべて、そこまで声を飛ばすイメージで」とか指導されたが、よこりゅう先輩の歌声こそが、まさにその体現だった。
人間の体は、これほど素晴らしい響きを発することが可能なのか……!
あまりにも感動したために、それまで音楽とは無縁な人生を送ってきたにもかかわらず、俺はその合唱サークルに入ることを即決した。
ちなみに、同行の友人は「ちょっと自分の趣味とは違う」という理由で、別のクラシック系サークルを選んだらしい。そのまま俺とは疎遠になった。
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