1-10 鏡の倍返し

アホな友達が自分の唯一の切り札をこれから戦うであろう人にばらされたアシュレイの気持ちを考えると、流石に意地悪して勝利したら可哀想なのでさっきのことは一旦忘れようとルークは深呼吸をした。





ちらっと数メートル先で準備をしているアシュレイを見ると彼は口をぎゅっと結び、澄んだ青色サファイアの瞳に涙を浮かべてこっちを見ていた。


その様子は今にも大声を上げて泣き出しそうな赤ちゃんの顔にそっくりだったのでルークはぎょっとした。





すらっとした細身の男性の体型と、女の子とも勘違いするような声に柔らかい物腰に白い肌のアシュレイ。


青色の瞳は、黒色に薄くピンクがかったエレンの目やラティの緑色エメラルドの瞳、ルークの紫色アメジストの目よりも一段と透き通った青色であり、見ているとどこか惹き付けられる不思議な魅力があった。






試合開始のブザーが鳴った。アシュレイが緑術を使い、うねうねと動く数本の草のつるがルークの足を転ばし手足を拘束しようとした為ルークは火術を行使し、蔓に火をつけた。


火は導火線のようにチリチリと音を立て、炎は蔓が伸びているアシュレイの元へ迫っていった。




すかさずアシュレイは風術で会場の地面の砂ごと風でルークに返してきた。


「げほっごほっ」


瞬きする前に目に砂が入り、砂埃を吸ってしまい咳き込みながらルークは氷術を使い砂埃を氷に閉じ込めた。





次に緑術を使おうとした時、ルークの背中を冷たい雫がつーっと落ちていく感じがしてゾワゾワっと鳥肌が立った。



アシュレイの方を見ると彼は目を閉じ手の平をこちらに向けて立っていた。

『心を読む』最中なのだろうか。


ルークは彼の辺りにひょうを数十個と降らせてみるとアシュレイは目を閉じたまま緑術を使い、長い蔓が雹を全てはじいてルークに帰ってきた。


どうやらアシュレイは『心読』の異能を使っている時は術を使う際に手の合図も要らず視界を塞いでも”見える”らしい。


そして何より反応速度が早くなっている。






ルークが水術を使うと同時に心を読んだアシュレイが風で攻撃してきて自分が出した魔法を自分が受けてしまう。まるで鏡で光が反射するかのようだ。


どうしたらアシュレイに魔法が当たるのか。





「…俺も風術使えるんだった」


どうせ返されるのならば倍返しで返してやる。


ルークは水術を使い波を起こし、アシュレイが風で返してきた時にルークはより魔力を込めて風術を行使し、更に水術を加えて台風のように勢いをつけてアシュレイへ力強く放った。





水などの液体はほかの物質と違い、同じ動作を加え続けると次第に威力が増す特殊な性質を持っている。

流れるプールもそれを応用したものだ。


最初は微力な遠心力を持っただけだった液体が次第に人を流せるくらいの威力を持つようになる。


ルークが返した波も文字通り倍返しとなってアシュレイを襲った。





アシュレイははっと目を開け守術を使う前にその攻撃を受けた。


アシュレイはぐったり倒れたまま動かない。五秒経って試合終了のブザーが鳴った。






待機所に戻ると椅子に座って暇そうに足を組んでいたラティがぱっと振り返り

「おかえり」

と言ってルークを迎えた。


「オレは今度はエレンとかー。どれくらい強いんだろうな。まあ、頑張ってくるぜ!!」

と言い、ラティがルークとすれ違った。



「アシュレイって大丈夫…?」


ルークが尋ねるとラティは振り返らず手をヒラヒラと動かし、


「あー、アシュレイなら大丈夫っしょ。エレンと戦った後に普通に立ち直ってたから。

四聖星候補と底辺が戦ったら魔力差が時に命の危険に繋がる時もあるけど、同じ四聖星候補しかいないんだから皆死なないよ簡単には」


と言って口笛を吹きながらラティは部屋を後にした。

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