1-7 バケモノのアイツ

ルークはゼフィール生まれだったが、四聖星に人気であり王都であるスぺクタル・フェリックの守り神を目指していた。


勝った順に早い者勝ちで守る都市が選べるが、だいたい自分の故郷か王都を選ぶことが多い。





「ルーク・フォルスさん、待機所Cでお待ちください」

という係の人の声で現実に引き戻された。

「っはい」


待機所Cという札が掛かる部屋に入ると、中には今回のバトルの出場者でごった返しな状況だった。


皆それぞれグループで固まって、


「めっちゃ緊張するんやけど!!」

「10位以内に入ったら周りに自慢しに行く!」


とか正直どうでもいい話をしていた。





部屋の中の人の密度が高い、暑苦しい、息がしづらい。


ルークは部屋の端に何脚かある椅子の一つに座った。

体重でゆっくりクッションが沈む。

思ったよりも椅子がふかふかしていて落ち着かなかった。






ルークはずっと友達がらず、騒がしい教室内ではその雑音から避けるように読書や勉強を黙々としていた。


待機所Cも教室と同じような騒がしさで、顔には出さないものの正直早くこの場を去りたくてそわそわしてくる。




ルークは気を紛らわす為、部屋の斜め上に設置されたモニターを見た。


モニターには、闘技場で戦っている人達の様子がリアルタイムで映されている。

大人の男の人と、薄ピンクの髪に水色のリボンを結っている中学生くらいの女子が戦っている。



あれ.....あのピンクの奴何処どこかで見たことがあるような...。


同じくモニターを見ていた知らない黄色の髪のチビの男子が


「あ!あの女の子凄いんだってな。自分より背の高い人の攻撃をするりと簡単によけちゃうらしいぜ。今連勝中で、四聖星候補って他の人が言ってた!」


と、黄色髪男の隣に立ってるベビーフェイスなのに背がそれなりに高くもやしみたいに細身な黒髪の男子に話していた。

...ふぅん...まぁ最終的に俺が勝つんだけど、

とルークは謎の自信を持っていた。





画面に映るピンク髪の女は相手に攻撃をあまりしないで避けてばかりだった。

避けるということは攻撃のパワーが無く、避けることで相手の体力を消耗しているとも考えられる。


あいつと戦う時には一方的に、向こうが疲れるまで攻撃してやる。

四聖星に相応しいのは男で、女は家事をして引っ込んでるのが役目だってこと分からせてやる。ルークはそう思った。




その後ルークも何度かエスペランスバトルで知らない人と戦ったが全勝、楽勝。

勝ちが重なりルークは愉快な気持ちになった。

ぶっ潰してやると言ってきた相手が無様に負けていくのを見るのは気持ちがよく、ルークを高揚感に浸らせた。





戦いを終える度に待機所に戻り、別の人がドアから呼び出される。

何度かそれを繰り返した。

魔力も体力もまだ平気だ。

待機所の中の人数は戻る度に減っていった。



エスペランスバトルは敗者復活戦は無く、一発勝負である。


ルークは次に呼ばれるまで本を読もうと、肩にかけていたトートバッグから分厚い小説を取り出した。


ルーク達が住む惑星の近くに”地球”という別の惑星がある。

そこには魔術師などはおらず、魔法が使えないからこそ面白い製品・物語が作られていた。


今日持ってきた小説も”地球”で出版されたものだ。


魔術師たちはたまに修学旅行で”地球”に正体を隠して旅行することがある。

ルークはまだ地球に行ったことがなく、いつか行ってみたいと思っていた。


読んでいる本の中に氷のシャンデリアがある宮殿が出てきた時にふと過去がよみがえった。


...あのピンク髪のやつ、俺が小学生の時何処かで...。




「あっ」


無意識に声が漏れ、慌てて口を塞ぐルーク。


周囲を見回す。

大丈夫、誰も気にしていない。

ルークのある記憶がどんどんハッキリとしたものになっていく。




小学生の時、体育館に行ったらアイツが馬鹿でかいシャンデリア作ってたんだ、そうだ、あいつだ。

ルークは本から目を離しモニターを見た。見たい人とは違う知らない人が映っていた。


───今俺が十四歳で中学三年生、シャンデリア事件は俺が小学四年生?のときだから五年前か。




あの時、小さな体で身長の倍以上の物を作っていて......アイツは危険だ。


あんなに小さくて大きな物を作るなんて普通じゃない。


そもそも術を発動してもハッキリとした形にするのは大人でも難しい。

それなのに”あいつ”はハッキリした形のものを作っていた。




ルークは眉を寄せた。

待てよ、アイツ、具現化の”異能”持ちだった気が.....


ルークはモニターの中継の記憶をさかのぼった。


もしや、あの女、”避けていた”のは相手の攻撃が自分に当たることじゃなくて、自分の大きい魔力が相手に当たって怪我をさせることではないだろうか。


国の中でも魔力が強い者が集うこのエスペランスバトルで、”女”の性別を持つ者が他の男に”手加減”しているということか。


ルークは指が肉に食い込むくらい拳を強く握った。



───アイツはバケモノだ。


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