エスペランスバトル

1-6 ルーク


エレンが氷のシャンデリアを落とした年からおよそ5年がたった。





今日は街中がテレビや街頭モニターの画面に釘付けになるエスペランスバトルの日。


エスペランスバトルとは四聖星シエルとなる4人の守り神を決める魔術の戦いのことであり、今日───5月1日時点で中学一年生以上ならば出場資格が得られる。





この日を待ちわびて会場に足を運ぶ一人の男子がいた。

名前はルーク・フォルスといった。


すらっとした細身の高身長イケメンであり、さらさらとなびく栗色の髪に紫色アメジストの瞳をもっている。


色白で顔のパーツが整っておりモデルのようだが、瞳の奥には確固たる強い意志があり、目にかかった前髪から覗く若干つり目気味の目からはツンとした性格の冷たさが伺える。





5年ごとに開催されるエスペランスバトルに、前大会はルークは9歳だったため出られなかったが、今回は中学三年生だから出場出来る。



ルークは小さな頃から四聖星になるのが唯一の夢であり、目標だった。




一人っ子のルークを座学・実技どちらも一位にすべく父母は厳しく育て、ルーク自身も『一位』にこだわり努力してきた。


その甲斐あってか、小学生の頃から今まで小テストでは100点以外を取った事がなく、定期テストでは2位の人と大差をつけ毎回学年ダントツで一位を取っていた。




小学生の頃は親に褒められたいと励んでいた勉強の成績が、中学生に上がると自分の努力を注ぐものであると同時に100点を継続することがプライドの高さを上げ続ける原因となっていった。


それ故に徐々に周囲から孤立していき、孤高の存在となっていた。





また、ルークの両親は風術しか使えないが、ルークは生まれつき突然変異種である四聖星の卵でもあった。


四聖星の卵は一つのものしか操れない両親から一千万分の一の確率で産まれてくる。これは一つの惑星に一人いるかいないかの確率であり、ルークの両親はこの奇跡をとても喜んだ。


しかし、四聖星の卵でありながら頭も良いという天才は、噂が学年に広まると、百点を取る度にズルをしたか疑われ小学生の時はいじめられていた。




四聖星の卵として生まれたことは変えられない体質であり、自分は努力でも一位に成れると証明するために勉強を頑張っていたのにそれが周囲には理解されなかった。





中学に進級すると目立つ委員会も係も避けるようになり、無口の影が薄いいわゆる”陰キャ”とカテゴライズされる地位に属した。



必要な時以外は喋らなくなり、友達と言える存在ももちろんいなかった。




そんなルークの唯一の友達は本であり、一日中読書と勉強に費やす日々を送った。


今日のエスペランスバトルにも分厚い本を御守り代わりに鞄に入れてきた。


「頑張ってね」

「頑張れよ」

と背中を押してくれた両親に

「行ってきます」

と言って晴れた空に足を踏み出し、ふーっと息を吐きながら不安を断ち切るようにルークは一歩一歩会場に向かって歩いていった。







エスペランスバトルは中学一年生から上の歳の人で、自分の実力を知りたい人や四聖星シエルになりたい人が会場の係の人に申し込んだら参加出来る。


別に強制ではない。


四聖星になったら有名人になれるし、少し偉い立場に立てる。

欲しいものもくれるとの噂がある。





ルークは貧しかった家を一生懸命働いて支えていた両親へ、期待された四聖星になって欲しいものをあげて親孝行したいと思い申し込んだのだ。


自分を虐めた奴を見返したい気持ちもあったし、同じ強い魔力を持った仲間の中なら自分の居場所を見つけられると考えていた。






このバトルはトーナメント形式で行われる。


参加するのは毎回国民の五分の三人くらいだ。

それ以外の人は家や街のテレビ等で皆で集まって観戦する人が多い。

国の中で一番視聴率が高いバトルイベントとなっている。





エスペランスバトルは運も勝敗を左右する要素だ。

誰と戦うかはクジ引きで決定するが、火を操る人と水を操る人で戦うと99パーセント水の魔術師が勝つ。

魔力の威力の差が大きければ大きい程、怪我をしたり致命傷を食らうことがある、少し危険な戦いだ。



魔術師は生まれつき「魔力」というものを持っており、心臓と同じくらい大切な存在だ。


魔力が大きい者ほど『異能』と呼ばれる、光から派生した魔術とはまた別の特殊魔術を操れる能力を持っている確率が上がる。




ルークは物を透かして見る事が出来る『透視』の異能の持ち主だった。

透視が出来ると言っても規模は小さく、壁一枚や人の体の一人分しか透かすことが出来なかったので使い道もなく、ルークは、他人の身体を透かし見るような変態でもないので異能は滅多に使わなかった。





エスペランスバトルは国の首都であるスぺクタル・フェリックに所在する、皇族が住むアンヴァンシーブル城の近くにある、コロッセオの形に屋根が付いたような見た目の闘技場で行われる。


ルールはシンプル。

対戦相手が自分の攻撃を食らって五秒経っても立ち上がれなかったら自分の勝ち。



勝った順に首都の『スぺクタル・フェリック』、街が空中に浮いていてドラゴンが移動手段の『ゼフィール』、AI搭載の施設が並ぶ近未来的なデザインの街『アストル』、自然豊かで静かな森や丘がある『ピュルテ』の4都市の中から自分が守る都市を選べる。


街の守り神として5年間、その都市の安寧を護らなければならない。

それが魔力が強い者の使命つとめであり、誇りである。




その守り神となった4人のことを人々は四聖星───シエルと呼ぶのだ。







【お知らせ】近況ノートの方に挿絵を載せたので良かったら見てみてください。

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