水溜まり
@shihou
第1話 いびつな水玉の告白
桐生なんかと付きあっている君へ。
あの日、話すことができなかったことを告白する。
小学2年の冬休みのことだ。
あいつと一緒に、あれを森の中に隠したんだ。
15年も過去の事なのに、あの日の事が忘れられないんだ。
メールを打っていて、ふと手を止めた。
(だって、元カノだろ?元カレからこんな過去の懺悔を送られてきたらキモイだろ。)
1LDKの殺風景な部屋の片隅のPCの前で、西尾は苦笑いする。
きちんと整頓された部屋がPCの明かりにうっすら照らされている。
はっ、と日が落ちてしまっているのに気づく。
(真っ暗だ。目がチカチカする。)
PC用の眼鏡をはずし、あわてて部屋の電気をつける。
(まったく、たった5行にどれだけ時間をさいたんだ。)
彼女には迷惑をかけてしまった。
あろうことか、あの事を中途半端に打ち明けてしまった。
(でも、彼女にはきちんと話しておかないと。)
きちんと全部理解させた上で、口止めをしなければならないのだ。
なのにメールは、核心にちっともふれていない。
(別れたんだから、概要のみをもっと事務的な文言で打とう。)
改めてメールを読み返す。
-桐生なんかと付きあっている君へ。-
(ハハッ。未練たらたらじゃないか。)
(分かれてしまったものは仕方がない。彼女には、幸せになって欲しい。だけど、なんであいつなんだよ。大人の癖にいまだにお坊ちゃま風吹かしてるし、年上にも平気でマウントとってくるし、友達面するし。いいやつなのかも知れないけど…。)
桐生を嫌っているわけではない。
自慢したがりで鼻につく所があるが、悪意があるわけでは無いので、聞き流せる。
気前も良く、人懐っこい。良くしゃべるが、人の話を聞くことも出来る。
西尾とは真逆に位置するともいえる人間だ。
(なんでだよ。)
同じ言葉が頭の中で繰り返される。
その間、時間は進んで行く。
急いで、メールを送りたい。送らなければならない。
(あいつが何を考えているかわからない以上。あいつはヤバイから。)
(彼女を巻き込んでしまう事になるかも。)
頭の中に色々な感情が入交り始める。なんだか気持ち悪さを感じ始める。
(だめだ。今日はもうこれ以上書けそうもない。)
大きく息を吹き、PCの電源をおとす。
デスクトップが真っ黒になると、少し心も息を吹く。
しばらく黒くなった画面を見続けていたが、
(どう伝えよう。)
慌てて首をふり、席を立ちあがる。
(今日は書けない。)
が、そのまま、また画面を見て言葉がでる。
「あの日…。風が強くて、手袋をしてても指先が冷たかった。早くその場を離れたくて必死に土をかけて…落葉を集めて…塞いだ。」
「森から出たら、雲一つない晴天だった。空の青がどこまでも深くて、綺麗だった。あいつがモタモタしている間に見とれていたら、あんまり深くて吸い込まれるかと思ったっけ。」
デスクトップのモニターの色が、部屋いっぱいに滲んでいくような気がした。
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