アレテー

白野 音

話す

 辛い日々が続いた。朝起きてすぐに時計を確認する。8時か。ギリギリ間に合うか間に合わないかの時間。急いで私はエナジードリンクを飲み干して学校に向かった。

 1時間かけての登校。馴れた道だけど年末なので工事が多く、いつもより時間をがかかってしまう。ああ、もう、なんでもう少し早く起きられないんだよ私は……。


 ギリギリの登校後すぐに数学や英語の授業を受ける。頭を使う強化が多く眠くなってしまうが、寝てはいけないと私自信を叩いて起こす。少しでも単位を落としたら奨学金がもらえなくなってしまうから。

 一日4コマの授業を受け終わり、また1時間かけて家に帰る。家に着くころには17時。次のバイトが18時だからすぐ準備して家を出る。


 態度の悪い客、仕事の遅い高校生。ストレスはマッハで溜まっていく。接客をやる飲食なんかやるんじゃなかった。

 21時、閉店になり閉店作業や掃除をする。朝やお昼のパートの人たちは大変だからと自分の仕事しかせずに帰っていく。そのため昼からしないといけない掃除がどんどん溜まってこっちにしわ寄せがくる。機械についた粉や汚れを落としていく。

 客と接客しない時間、そして一人で掃除する時間はストレスの解消でもあった。一人の時間なので考え事も自ずと多くなっていく。就職のこと、大学のこと、高校の友達のこと、友達にひどいことをしたこと。幸せになるのが怖くて友達を拒絶したこと。

 今になればバカなことしたなって思う。でもその時は必死だった。生きることに必死だった。もちろん今も必死に生きてはいるが、高校時代よりはきっと楽だろう。


 やっとバイトが終わって家に帰るともう着くころには1時半。お風呂に入ったり歯磨きをしたら2時。明日も学校なんだ、早く寝ないと。


 こんな生活が続いている。

 エナジードリンクで無理やり延命している。私は無理をしている。きっと。

 少しでも嫌なことを言われると病んでしまう。いや、病むなんて言葉は好きじゃない。それだけで色々と辛くなってしまう。


 1週間、2週間。睡眠時間は平均5時間を切っていた。バイトでは少しミスが目立つようになり、足がふらつくことや、口の中に吐いてしまうことが増えてきた。


 家に帰ってベッドに入る。ふと左を見るとゲームセンターで取った小さなぬいぐるみがあった。手を伸ばし、抱きしめる。

 ああ、嫌だ、こんな生活。目指したい職業に向けて学校に行ってる。じゃあ辛くないなんてそんなのは嘘。目指したい職業のためにバイトで稼いで資金にしてる。辛い。好きなことが好きじゃなくなってしまう。

 そんなことを考えていると頭痛と吐き気が襲ってきた。すぐに起き上がり袋を取り出して吐く。その時には涙が止まらなかった。


 少し落ち着いたときに私しかいない部屋、背中のところから声が聞こえた。

「大丈夫?」


 その日から私はぬいぐるみと話せるようになった。

 

 

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アレテー 白野 音 @Hiai237

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