肇がキレた?
「みんなが顔を揃えての会議は久しぶりね。」
綾は弟三人の顔を見て微笑んだ。
「俺、いつもパソコン越しにみんなの顔見ながらの会議だったから、やっぱりいいなこういう風に揃っての会議って・・・」
「俊、何子供みたいなこと言ってるんだ。」
肇は相変わらずクールにそう言った。
「フフフ、では始めましょう。私からは五つ議題があります。時系列で話していきますね。一つめは麻布の旧西園寺邸についてよ。もう20年、空き家状態です。私が定期的に人を入れて管理してきましたので、朽ちてはいません。ここを今回、タローたちに貸そうかと思っています。」
「住めるのか?」
「ええ、ほんの少し手を入れれば大丈夫です。出来ればここにいるみんなで一度行って、家財等に関しては相談したいの。まず、貸すことに関しては問題ある?」
「いや、ない。」
「僕もないよ。綾姉があの家に手を入れていたなんて知らなかった。」
「そうね。いつでも使えるようにって思っていたの。では、貸す方向で話を進めます。では次、タローたちに支援する金額についてです。これは出来れば、肇と俊に決めてほしい。金額以外にも家の提供や服の提供もあるからそのあたりを検討して金額を決めて欲しいの。」
「俊、お前が提案しろ。」
「わかった。」
「ありがとう。では次、俊、ロスに支店出せない?」
「フッ、綾姉、僕もこの後この話をしようと思っていた。出すよ。でもね、一つ条件がある。」
「何?」
「綾姉、ロスに来てくれ。俺と暮らそう。」
「はっ? お前何言ってるんだ?」
肇は声を荒立てた。
「日本には兄さんと巧が居ればいいだろ。アメリカには俺と綾姉がいれば何でもできる。姉弟4人、日本とアメリカ2人づつでいいじゃないか。それに俺はこれから綾姉を公私ともに支える。」
「バカなことを言うな!」
肇は机をたたいて叫んだ。
「俺は綾姉が好きだ。姉弟だろうが、好きなもんは好きなんだ。それに綾姉は仕事でも歳がある。これからは俺が綾姉と一緒に居る。」
「俊、ダメだ!」
「なんでだよ。兄貴だって綾姉のことが好きで、好きすぎて一緒に居れないって家出て直ぐに結婚したじゃないか。俺は知っているんだ。」
「何言ってる。俊! とにかく俺は許さん。」
肇は立ち上がり会議室から出て行ってしまった。
「あーあ、兄貴があんなに声を荒立てたのって初めてだ。」
「俊、あなたも話の持っていきかたがあるでしょ。」
「綾姉、今俺か言ったこと本心だよ。でもね、僕の計画は違ったんだ。巧に声を上げさせたかった。」
「俊さん・・・」
「巧、お前さ、いつまで俺らに遠慮してんだよ。たしかにお前とは血がつながってはいない。でも子供のころから一緒に暮らしてお互いのことこれだけわかっているんだ。家族だろ。それに仕事上ではこれ以上ない頼れる相棒だ。それなのにお前はいつからか俺のこと、〝俊さん〟なんて呼びやがる。子供の時みたいに〝俊〟て呼べよ。」
「・・・」
「それにさ、さっきだってグッと食いしばって黙ってた。お前の口から〝ダメだ! 綾は織のモノだ!〟って聞きたかったんだ。」
「俊は知ってたの?」
「綾姉の顔を見ていればわかるよ。初めはウソだろって思っていたさ。でも綾姉がいつまでも綺麗で生き生きしているのは巧のおかげだってわかったんだ。」
「俊たら・・・」
「巧、俺は綾姉をロスに連れては行かないから安心しろ。でも、軌道に乗るまでは少し借りるけどな。」
「俊さん・・・」
「コラ! 今言ったばかりだろ。呼び捨てにしろ。優秀な弁護士さんよ。」
「俊、ありがとう。俺、綾さんを支えていくよ。」
「ああ、頼むぞ。綾姉がババーになってもな。」
「俊、ありがとう。あのね、私ここのところずっと悩んでいたの。それは西園寺グループにとってはあなたが先程言ったように私がロスに行くのが一番いい。でもね、私がそれを決断できなかった。それは巧とは離れられないから・・・これだけ他人のことに関してはドライにいろいろ仕掛けてきたのに、いざ自分のことになったら決められなかった。だからね、俊、巧・・・私このタローたちの映画の仕事が終わって、ロスの支店も軌道に乗ったら引退しようと思います。」
「綾姉何言ってるんだ!」
「待って、聞いて俊。それにね、私達の両親が仕事から手を引いた年に私も近づいているのよ。若い人に譲って行かなくてはね。」
「それは違うんじゃないか・・・いつも綾姉は歳なんて関係ないって言っているじゃないか。まだ結論出さないでくれ。」
「綾さん・・・僕もそう思います。」
「二人ともありがとう。でも私の気持ちは決まっています。」
綾は二人に笑顔を見せた。
俊はその夜本社の社長室にいる肇のところに来た。
「兄貴、さっきは悪かった。」
「なんだよ、そんなに簡単に謝ることなのかよ。」
「今度は冷静に話してくれないか。」
「ああ。なあ俊、聞いていいか? 姉さんの相手は巧だろ?」
「兄さんも気が付いていたのか。」
「ああ、いつだったか俺もお前もいないクリスマスがあったんだ。たしかまだ巧が高校生の時だ。俺は夜遅くに家に帰った。その時の二人の様子がなんか変だった。それから疑うように二人を見ていた。正直巧に嫉妬したよ。俺も血がつながっていなかったらなんて思ったこともあった・・・」
「そんな前からか・・・」
「ああ、お前の言うとおりだ。俺は逃げ出した。」
「でも兄貴は結婚したじゃないか。俺はどうしても比べてしまっていまだに結婚できない。」
「そうだな。まあ、嫁と子供には救われたな。」
「そうか・・・俺も結婚するかな。」
「誰かいるのか?」
「ああ、ニューヨークにいる日本人だ。今彼女とは良い感じた。」
「そうか。そろそろいいんじゃないか。」
「料理が旨いんだ。家庭料理を作ってくれる。それが癒される。」
「そうか。それが一番だ。よかったな。」
「ああ、それでさ。昨日は巧の為に仕掛けたことだった。綾姉にはロスの立ち上げにに手を借りるけど連れて行くつもりはない。」
「わかった。それなら一人連れて行って欲しいのがいる。」
「誰?」
「長男の信也だ。」
「幾つになった?」
「来年4月に卒業だ。だからすぐには役に立たないだろうが、お前のところで育ててくれ。」
「ああ、わかった。もう俺らもそういう年なんだな。綾姉にも俺にも子供がいないから兄貴のところの子供頼りだな。」
「ああ、頼むよ。」
「綾姉とはどうする? 俺が話すか?」
「いや、俺が話す。」
「わかった。兄貴、綾姉はこの仕事が終わったら引退しようと思っている。でも俺は出来る限り綾姉には今まで通り俺たちを叱咤激励して欲しいし、好きなように仕事をして欲しいんだ。兄貴はどうだ?」
「ああ、俺もそう思うよ。」
「よかった。だったら頼むよ。それなら俺はそろそろニューヨークに戻る。」
「わかった。」
その夜、綾はTransformerにいた。
「巧、ごめんね。」
「何がですか?」
「あなたを独り立ちさせてあげられなかった。」
「そんなことないですよ。僕は子供のころから綾さんにあこがれていて、ずっと綾さんに認められ力になれる男になろうと決めていました。だから弁護士にもなれたし、会計士の資格も取ったし、綾さんにもしものことがあったら困ると極真空手もやった。全て綾さんがいたから出来たことです。」
「思い出すわ。まだ巧が高校生の時、なぜか家に私と巧しかいないクリスマスの日、いきなり巧が震えながら私に告白したの。私は驚いた。私も巧のこと大好きでどうしたものかと迷っていた時だった。・・・その時キスしたわね。」
「ファーストキスでした。」
「そうだったの?」
「そうですよ。僕は綾さんだけです。」
「そっか・・・」
「綾さんがどうかは僕は聞きたくないので話さなくていいです。」
「フフフ、はい。」
「綾さん、僕はずっとこれからも綾さんの側にいて支えていきたい。だから、引退何なんて考えないでください。」
「うーん、そうね・・・」
「まだ、なにか隠しています?」
「巧には隠せないか・・・あのね、父の具合があまり良くないの。」
「心臓ですか?」
「そう。それもあったから早くに引退して、残りの人生を楽しむんだってオーストラリアのゴールドコーストに移住したのよ。でも最近あまり良くないみたい。母は明るい人だから大丈夫って言っているけど私は不安だったら帰ってきたらって言っているの。帰ってきたら私が世話をしたいと思っているの。父が心臓が悪いことって肇も俊も知らないのよ。」
「そうなんですか?」
「ええ、巧には話したけどね・・・」
「そろそろお伝えした方がいいのでは?」
「そうね。そうする。」
「巧・・・ありがとう。やっぱり巧といると安心する。」
「綾さん、僕は安心できませんけどね・・・それで、今日はどうします?」
「フフフ、今日は巧のとこかな。ねえ、ロゼのシャンパンある?」
「ありますよ。持っていきます?」
「そうね。それとなんかつまみと・・・」
「わかりました。5分待ってください。」
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