授業中 \シカ娘! キューティーレーシング!/ とスマホが鳴り響いてしまいオタ迫害されると思ったら、クラスのギャルと急接近したんだけど。
第2話「絶滅危惧種じゃないかなそれ。一時期のニホンジカみたいな」
第2話「絶滅危惧種じゃないかなそれ。一時期のニホンジカみたいな」
《今度の土曜日ヒマ?》
彼女の秘密を知ってしばらく経ったある日、人知れず毎日やり取りをしているメッセージアプリに、そんなメッセージが届いた。
《暇じゃないよ》
《行く?》
《行く》
《じゃ、9時に現地の駅で待ち合わせね》
《断ることは許されぬか》
《屈したそちが悪い》
ということで聖地秋葉原。この日は『シカ娘!』のリアル謎解きイベントの開始日である。
アプリと位置情報を使い、提示された謎を解きながら街を巡りゴールを目指すのだが、クリア特典もあるためファンならば参加必須である。
楽しみにしていただけに普段以上に胸がドキドキし、昨晩は6時間しか眠れなかった。
「よっ! お待たせー」
明るい声とともに肩に衝撃。振り向くと当然、彼女がそこにいた。
「ううん、全然。1時間しか待ってないよ」
嘘です。2時間前には来て下見してました。
「殊勝な心掛けだな。褒めてつかわす」
「恐悦至極」
いつもメッセージアプリでやっていた、ニホンジカちゃんを真似たやり取り。
学校ではほとんど話すことがなかったから、声に出すのはなんだか新鮮で心が弾む。
それにしても……目の前の彼女はもちろん普段の制服姿ではない。
校則ギリギリアウトの明るい髪は二つに結ってキャップをかぶり、“死舞谷” や “覇羅宿” で見られるような、おしゃれなパーカーにショート丈のキュロット姿だ。
正直もっとギャルギャルしく、かつ校則違反ものの胸の谷間を拝めるような姿で来るのかと恐れていたが、少々大人しくて意外というか、意外過ぎて胸が苦しくなってきた。
どうした僕の心臓。誰だ僕の名前をDESUノートに書いたのは。
「私服、思ったのと違うんだけど」
彼女がくりっとした目を僕に向ける。
「なんかこう、チェックのシャツにケミカルウォッシュのジーンズで、バンダナ巻いてる感じ?」
「絶滅危惧種じゃないかなそれ。一時期のニホンジカみたいな」
僕の方はスタンドカラーの長袖シャツにロールアップの綿パンという、何の変哲もない姿。
私服は母親と妹が勝手に買うのでセンスのほどは知らん。
「ま、結構似合ってんじゃん」
「チェックのシャツにケミカルウォッシュのジーンズ、バンダナスタイルにすればよかった」
「それはそれで見てみたいかな」
「じゃ、行くか」
「うん。うーーー、シカだっちゃ!」
「うーーー、シカなべ! シカなべ!」
アニメ版のオープニング曲にすっかり洗脳されている僕たちは、休日の賑わう秋葉原へと分け入った。
◇ ◇ ◇
「はーーー、なんか疲れたぁ」
「最後をここにして正解だったね」
「ナイス判断。褒めてつかわす」
「恐悦至極」
僕たちはスタンプラリーをこなし、最後の一か所であるコラボカフェに来ていた。
「いっただっき……あ、写真写真と」
食事の前に、フードの写真を撮るのは当然のマナーだ。僕も彼女に負けじと撮影する。角度を変え、寄りも引きも。
いや別に、決して彼女を撮りたいとかではないぞ。あくまで風景としての記録であり、多少鼻息が荒くなっているのはコラボメニューの仕上がりが素晴らし……
「ねぇ」
「は、はひ!」
「なにキョドってんのよ。ほら、撮って。シカポーズ」
「はい……撮れた」
「お、結構よく撮れてんじゃん! あとで送って。キミも、はいポーズ。あは、いい感じ!」
送られてきた写真はなかなかに間抜けで、我ながら恥ずかしい。
そう思いながら真面目に悩んでいると、パシャリと音が鳴る。
「あ、いや、ほらっ! 悩んでるなーっと思って」
「なぜ撮る」
「ま、いいじゃん。あははは。ほら、食べよ!」
手を合わせていただきますをする彼女。
スプーンやフォークを手に嬉しそうに食べ、コラボドリンクを口にする。
僕もキャラクターが印刷されたモナカにアイスを乗せて食べていると、なんだか嫌な気配を感じ、なにごとかと周囲を見回した。
男、女、男、男、女、男、女……へー、このゲーム結構女性ファン多いんだーじゃなくて、おひとり様から寄せられる恨みがましい視線。
しかもそれは、彼女ではなく僕に向けられている気がする。ええい、南無三ッ!
「どしたの?」
いいのだ、君は知らなくていい。そのまま輝いていてくれ。日光の如く。鹿だけに!
―― しかしこの時僕らは全く気付いていなかった。恨みがましい視線に紛れた、スマホのレンズに。
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