第2話 ウィザーズレース

 日が落ちかけ、夕焼けに染まり始めている空の下、1周1キロはあるレーストラックの練習場。

 ここはウィザーズレースを行なう為の場所だ。

 そこに3人の少年がいた。



「おいロイド! さっさとやれよ!」

「とっとと動いてよね」

「わ、悪い!」


 俺、ロイドは急いで練習場の道具を片付け始めた。

 使い終わったタオルの洗濯や、破れた服の補修ほしゅうなどやることは幾らでもある。


 時間はそろそろ夕方で空も赤くなってきていた。

 夏だから寒くはないけれど、夜が更ければ汗をかいた服が冷たくなるだろう。


 次は何を片付けようか、そんなことを考えているとさらに声をかけられた。


「最速最強の男、ニクスを目指すんだろ? 補欠なんだからそれくらいやれよな!」

「そんなんじゃ一生この田舎で暮すことになりますよ」

「今やるって!」


 俺を急かすのはジャック。

 人相が悪く、金髪をかなり伸ばしていて目つきまで悪い奴だ。

 だけど、俺達のウィザーズチームで一番飛ぶのが速い。

 魔力量も多くてレースの勘も素晴らしい。


 もう一人はケビン。

 丸眼鏡をかけていて、髪は水色でおかっぱ、全てのことにきっちりとしている。

 魔力量が少なくて直線はそこまで速くないけれど、コース取りが上手くこのチームでは2番目に速い。


 ジャック達から言われるままに急いで片付ける。


 彼らはそんなことを言いながら、自分たちの荷物を片付け始めた。

 そして、ちょっとした軽口を言ってくる。


「お前みたいな雑魚が俺達チームにいられるなんてありがたいと思えよな!」

「そうですよ。ジャックは来年中央の試験を受けに行くんですからね」

「え!? そうなの!?」


 思わず手が止まる。

 怒られるかと思ったけど、ジャックは得意げになって話す。


「ふふん。当然だろ? 俺様はこんな田舎で収まる器じゃねぇ。来年は首都のセントリアにいって、そこでこの国一番のウィザード養成学院。アストラリアウィザード学院に入るんだからな!」

「ええ! あそこに!?」

「そうだ。いいだろう。父ちゃんが試験を受けに行ってもいいって言ってくれてんだよ」

「いいなぁ」


 アストラリアウィザード学院。

 この国でプロのウィザードになりたいのであれば、まずはここに入らなければならない。

 そう言われるほどに多くの有名なウィザードを排出した学院で、入ることも大変な場所だ。


 俺もニクスの様にこの学院に行きたい。


「ま! 流石に金がねぇから俺様しか無理だけどな」

「僕はいけないから、お土産とか話を聞かせてくださいね」

「勿論。たっぷり聞かせてやるぜ。俺様の武勇伝をな!」


 ジャックがチームメイトのケビンにそういってから、俺に方に向く。


「そんじゃ後はやっておけよ!」

「僕たちは帰るからよろしく。あ、それと、次のレースも君は補欠だから」

「そんな。たまには出してくれても」

「まともに飛べるようになってからに決まってんだろ?」

「そういう訳です。できるようになるまであなたはずっと補欠ですよ」

「分かった……」


 俺は練習が終わり、帰るジャック達を見送って片付ける。


「よし、片付けは……俺の練習を終えてからだな!」


 俺はレースに出れない悔しさをごまかす様に、自分が使う道具を出して一人で自主練習を始める。


 今はまだ補欠……でも、俺はいつかニクスの様に最速最強のウィザードになるんだ。

 だから、もっと速く、そして、レースで勝てるように練習をする。


 俺は鞄から本を取り出して軽く読む。

 それは最強最速のウィザード、ニクスが書いた本。

 線をこれでもかと引き、何十回と読み直している為にかなりボロボロだ。


 それから俺は、日がたっぷり沈み、姉が迎えに来てくれるまで練習をつづけた。



「もう……そんなになるまで……。洗濯せんたくする身にもなってよね」

「姉ちゃん」


 姉が迎えに来てくれて、俺は練習が終わりだと理解した。

 もしここで逆らえば夕飯が抜かれる。

 かなり頑張ったのだからそれは許してもらいたい。


「早く着替えておいで、ここの片付けはやっておいてあげるから」

「ありがとう。姉ちゃん」


 姉は綺麗な黒髪をかきあげると、さっさと行ってこいとでも言うように俺をしっしと追い払う。

  ちょっと厳しい顔つきをしているけれど、かなり美人でよく男にいい寄られている。

 無表情で「興味ない」とバッサリと切って捨てるまでがセットだけど。


 俺は姉を怒らせないようにすぐに着替えて戻ると、片付けは姉が終わらせてくれていた。


「うわ。流石姉ちゃん」

「魔法を使えば簡単でしょ?」

「そうだけど……。魔力は出来る限りウィザーズレースの練習に使いたくて。俺、補欠だから……」

「もう、分かってるわよ。ちょっと言っただけじゃない」


 俺は魔法の使い方が上手くない。

 そのため、今もチームでは補欠のままだ。

 でも、いつかきっとニクスの様なウィザードになる。

 そう決めて今も練習をしていた。


「それじゃあ飛行魔法をかけるわよ」

「うん。よろしく」

「『飛べフライ』」


 姉が詠唱すると、俺の体と姉の体が青白く輝き浮かび上がる。


「制御は自分でしなさい」

「分かってる」


 ウィザードになるのであれば、この魔法は必須。

 だけど、今の俺は練習で魔力を使い過ぎてほとんど飛べるだけの魔力が残っていない。

 姉はそれを知っていて俺にもかけてくれる。


「それで、次のレースも厳しそうなの?」

「うん。でもアントンがちょっと体調が悪いらしくて、代わりに出れるかもしれない」

「そう。良かったじゃない。で、アントンって誰?」

「僕たちのチームの3人目だよ。ちょっと太めの」

「ああ、確かにいたわね」

「あれで結構すごいんだよ! 意外と細かい所に気が付くから妨害とか的確で……」

「はいはい。わかったら今は早く帰るわよ」

「はーい」


 俺は、姉に急かされるように、飛ぶ速度を上げた。


******


 ***とある女性の話***


「はぁ~なんでアタシがこんな田舎に来ないといけないのかね」


 彼女は薄い服を身にまとい、その抜群のスタイルを見せつけるかのようだ。

 しかし、彼女にその気は一切なく、ただ純粋にその格好の方が楽だからそうしているだけに過ぎない。


 綺麗な金髪を適当に背中に流し、めんどくさそうに頭をかいている。

 肌は透き通るような白い肌をしていた。


 「しかも……少し田舎を見て休め……気になるやつがいたらスカウトしろだなんて……いるわけないだろう……。ていうか……何でこんな場所なんだよ……」


 彼女は綺麗なエメラルドの瞳を何もない周囲に向け、何かを探しているようだ。

 しばらく探していたけれど、見つからなかったのか視線を空に上げる。

 すると、やっと見つけたのか飛び上がった。


「『飛べフライ』」


 彼女は魔法を使って飛び上がり、2人の男女に声をかけた。


 一人は綺麗な黒髪の女性。

 無表情だけれど、きっちりと金髪の女性を警戒している。


 もう一人はざっくばらんに髪を切った黒髪の少年で、元気そうな目は綺麗な水色で彼女を不思議そうに見ていた。

 練習の後なのかすこし体がボロボロだ。

 ただし鍛えられているのかいい体だ、と彼女は思う。


 そんな2人に、金髪の女性は話しかける。


「ちょっといいかい?」

「はい? 何でしょう?」


 黒髪の女性が答える。

 その時にさりげなく後ろの少年の前に出ていた。

 きっと少年のことを大切に思っているのだろう。


「ここらへんでウィザーズレースってある? 小さくてもいいんだけど、とにかくこの町じゃなくてもいいから。情報があったら欲しいんだけど」

「ウィザーズレース……」


 黒髪の女性は少し考える仕草をした後に少年の方を向く。


 それを理解したのか、少年は明るく答えた。


「それなら3日後にあるよ!」

「お、本当? ちょうど良かった。場所とか分かる?」

「うん! この先にある場所でやるんだ!」

「そう。ありがと。それと、泊まる場所ってない?」

「それなら……家が宿屋をやっていますが、一緒に来られますか?」

「お、それは丁度いいね。是非泊まらせてもらうよ」

「それではこちらへ」


 3人は一緒に飛び、彼らの家に向かう。


「ねぇ、そこの君」

「俺? 俺はロイド」

「そう、アタシはシルヴィア。なんでそんなにボロボロなの?」


 彼女はやはり気になっていたのか彼に質問をぶつける。


「俺、ニクスみたいなウィザードになりたくってさ! だから練習を頑張ってて、見て! この本も沢山読んで練習してるんだ!」


 ロイドはボロボロの本を彼女に差し出す。


 彼女はそれを受け取り、パラパラとページをめくる。

 それはかなり読み込まれていて、更に大事そうな所には線が引かれていた。


「……っていうことは体も鍛えてるの?」

「当然だよ! じゃないとニクスの様にはなれないからね!」

「……ふーん。はい」

「うわっとと。投げないでよ!」

「世界最速最強になりたかったらそれくらいの反射神経は必要だよ」

「……それもそうか」


 彼は納得して頷く。


「それでこんな時間まで練習を?」

「そうだよ! 大事なのは気合いだ! ってニクスも言っていたから! その為にはちゃんと練習をやらなきゃいけないんだからね!」


 そういう彼の笑顔は明るく、心の底から信じている様だった。


 彼の笑顔に金髪の女性はそっと視線を逸らす。


「頑張ってね」

「うん!」


 3人はそれからすぐに目的地に到着した。


******


「はぁ~! 緊張する!」


 シルヴィアさんと知り合ってから数日、ついにウィザーズレースの大会の日になっていた。

 アントンは何とか来てくれて、チームとして戦うことになっている。


「よし! 行くぞお前ら!」

「はい」

「う……うん」


 しかし、アントンの体調は悪そうだ。

 いつもは黒地に雷の柄の入ったピチピチのユニフォームを着ているのだけれど、今は少し余裕がある。

 それに、顔色もかなり悪い。


「おい! アントン! しっかりしろよ! 今日は絶対に負けられないんだからな!」


 ジャックがいつにも増して気合の入った顔をしている。


「今日って何かあるのか?」


 俺は不思議に思って聞く。

 補欠だから杖の準備をしたり、装備の確認をしたりしながらだけれど。


 ジャックは機嫌がいいのか笑顔で答えてくれる。


「ああ、今日はセントラリアのそれもアストラリアウィザード学院のスカウトが来てるらしいぞ。ここで活躍をしておけば声がかかるかもしれないってもっぱらの噂だ」

「そんなことってあるの?」


 俺は信じられず思わず聞いてしまう。


「ああ、マジらしい。時々そうやって田舎から有望な選手を集めてる。あのニクスもそうやってアストラリアに行ったんだってよ」

「そうだったんだ……」


 あのニクスも……。


「ま、それで行くのは俺だからな。そこで見ていろ」

「うん……」


 それから数分後、試合の時間が近くなると、俺はレース場の中にはいられない。

 姉たちが待つ場所に向かった。


「ただいま姉ちゃん」

「お、帰ってきた。さ、さっさとレースの説明して」

「ええ……前にもしたじゃん」

「いいから」

「もう……ジャック達の試合が始まるから、それを見ながら話すよ」

「ええ」


 ウィザーズレース。それは3対3で行なうレースで、どちらか先に1人でも1番でゴールした方のチームが勝利となるスポーツだ。

 自身の固有魔法を使って速度を加速させたり、仲間をサポートしたり、敵を妨害して相手より先にゴールを目指す。


 フィールドは楕円形を想像してもらうといいだろうか?

 楕円形の、太い方を真っすぐにして、その真っすぐになっている部分の中央から同時にスタートする。

 外側のチームは内側よりも10m程先の位置から始まり、内側のチームと飛ぶ距離を一緒にするようになっていた。

 しかも、ずるができないように、内側と外側には頑丈な結界が張られていて、ついでに飛ぶ選手にも防御魔法がかけられている。


 両チームとも準備ができたのか、審判が確認する。


『レディ……フライ!』


 そして、審判の合図と共に6人が同時に飛び出し、魔法を使う。


「『紫電になれライトニングチェンジ』! 『飛べフライ』!」 

「『水流よ我を運べウォータースライダー』!『飛べフライ』!」

「『大地よ我を運べロックスライダー』!『飛べフライ』!」


 相手チームも同じように魔法を使って、宙に浮く。


 ちなみに、固有魔法とは生まれて来た時から魂に刻まれるものと言われている。

 基本的には1人1つ。

 一生その魔法と付き合わなければならず、変えることは出来ない。

 一応、基本的にどの種類の魔法にも推進力を得る魔法はあるので、ウィザードになることはできる。

 そんな属性がない魔法、『飛べフライ』等は無属性魔法と呼ばれ、ほとんどの人が使うことができた。


 開始の合図と同時に飛ぶ6人を見て、姉が聞いてくる。


「ねぇ、あれは何をしているの?」

「ああやって移動系の魔法で推進力を得て、前に向かって進むんだ。それとほぼ同時に飛行魔法を使って、推進力を調整したり、チーム同士で力を合わせて進むんだよ」


 ジャック達は息のあった様子で地面すれすれを隊列を組んで飛ぶ。

 ジャックが先頭、その両後ろにケビンとアントンを従えた態勢だ。


「それで、あのままゴールまで競うの?」

「ううん! それだけじゃないんだ! アントンを見ていて!」


 俺がそう言うと、アントンが新たに魔法を発動する。


「『砂の嵐よ巻き起これサンドストーム』!」


 彼が魔法を唱えると、敵チームは妨害を受けて速度が落ちる。


「攻撃もありなのね」

「妨害だよ!」

「そう。じゃあもう終わり?」

「そんなことないよ! 相手も強いんだから!」


 俺がそう言ってコースを見ると、敵チームの妨害が始まろうとしていた。


「逃がすかよ!『火の玉よ飛べファイアボール』!」


 しかし、その妨害はケビンが読んでいた。


「そんな行動は読めていますよ。『水の障壁よ防げアクアウォール』」

「なに!?」


 火の玉はケビンの魔法に止められてしまった。

 途中からは相手チーム3人の相手をケビンとアントンがして、ジャックは1人加速してゴールする。



「ゴール! 勝者チーム雷電ジャックロード!」

「いよっしゃあああああ!!!」


 ジャックが右手を上げて喜んでいる。

 相手はそこまで強い相手ではないけれど、それでも勝利は嬉しい物だと思う。


 出たいな……。


 俺がそんなことを思っていると、隣でぽつりとシルヴィアさんが呟く。


「ふーん。田舎にしてはそこそこやるみたいなんだね」

「何言ってるんだよシルヴィアさん! ジャックはすごく速いんだよ! ここらへんで1,2位を争うくらいには強いんだ!」

「あれよりも速い奴がいるの?」

「かなりいい勝負だよ! 多分決勝で当たる相手が水魔法の使い手で、水の制御が凄くて速いんだ!」

「へぇ」

「もう少ししたら出るから、その時に見てみるといいよ!」

「ああ、分かった」


 シルヴィアさんが少し面白そうに俺のことを見ていた。


「おい! ロイド! さっさと準備しにこい!」

「あ! 悪い! すぐに行く!」


 しまった。

 完全に観客になっているというか、見ているだけの人間になっていた。


 俺は急いでジャックたちの元に行くと2人の表情は重たい。

 ジャックは不機嫌そうな表情をして、ロビンは普段あんまり変わらない表情を固くしていた。


「どうしたの? あれ? アントンは?」


 いつもなら真っ先にこちらに寄ってきて、食い物と飲み物を要求して来るアントンがなぜかいない。


「アイツなら医務室に行った」

「ええ! 大丈夫なのか!?」

「問題はない。ただの食い過ぎで腹を壊しただけだ」


 それは大丈夫なのか。

 と思わないでもないけれど……いつものことか。


「それで、次の試合からはロイド。お前がアントンの代わりに出ろ」

「……いいの?」

「他の奴を入れて足を引っ張られるよりはお前の方がマシだ」

「……分かった! 準備してくる!」

「待て。俺達の戦い方はしっかりと分かってるんだろうな?」


 ジャックがかなり厳しい目で見てくるけれど、分かっている。

 ちゃんとその為に毎日練習をしていたし、それに加えて色々な個人練習もしていたのだ。


「ならいい」


 そう言ってジャックが背中を向けるけど、思い返したようにこちらを向いて詰め寄ってくる。


「いいか、この大会は絶対に負けられねぇ。あの水遊び野郎には当然として、スカウトの目に止まるには一番でゴールするしかねぇんだ。分かるな」

「あ、ああ」

「絶対に邪魔だけはするなよ」

「分かってる」

「行くぞケビン」

「ええ」


 ジャックはそれだけ言うとすぐにケビンを連れて休憩室に向かった。


 それから俺は2人の準備をして、少し体を動かすために会場の外を走る。


「はっはっはっはっはっは」


 しっかりと体を温めて、本番にはしっかりとやらなければならない。


 俺は少し走ってから控室に戻った。


「遅え、何やってたんだ」

「ちょっと体を温めてて」


 控室に入るなりジャックに怒られた。


 ケビンもさっさとしろと、目で訴えかけてくる。


 俺は稲妻柄いなずまがらのユニフォームを着ると、それだけで嬉しくなる。

 今まで補欠としてやってきたけれど、遂に試合に出られるのだから。


 一人で感極まっていると、ジャックが近付いて話しかけてくる。


「ロイド。お前の役目は敵の妨害だ。俺様はいつもの様に速攻でゴールを目指す。アントンの様にとはいわねぇけど、魔力は多いんだそれなりの働きはしろよ」

「分かってる」

「それでは行きますよ」


 俺達は控室を出て、コースに向かっていく。


 外に出ると、レース場を囲むようにそれなりの人々がこちらを見て手を振っている。


「頑張れー!」

「負けんなー!」


 観客は田舎のジュニア級ということなのにそれなりの人がいて、コースに立つと皆の姿が見えて嬉しくなる。

 こんな大勢の中でコースを飛ぶ……。

 何て最高なんだ!


「おら、行くぞ」

「……ああ!」


 そんなことは気にせずに進むジャックの背を俺は追う。

 ただ、ちょっと緊張しているのか歩きにくい。

 どうしたというのか。


「ロイド、手と足が同じ感じに出ていますよ」

「え!?」


 ケビンに言われて固まり、ゆっくりと視線を降ろすと確かに右手と一緒に右足が前に出ている。


「…………」


 やばい。緊張しているとわかったら心臓がドキドキして来て本当にやばい。

 マジでやばい。

 どうしたらいいんだろうか。


 どうするべきなのか。

 何をしたらいいんだ。

 頭が真っ白になるけど、どうにか進んでいたようで、スタート位置につく。


 位置につき、ドキドキした気持ちでスタートの瞬間を待つ。


「レディ……フライ!」

「『紫電になれライトニングチェンジ』! 『飛べフライ』!」

「『水流よ我を運べウォータースライダー』!『飛べフライ』!」

「え、あ、えっと」


 ジャックとケビンはいつもの様に隊列を組む。

 しかし、俺はてんぱってしまい、いつも練習で使っていた魔法を全力で使う。


「『焔よ駆け抜けよファイヤーストレイト』!『飛べフライ』!」

「はぁ!?」

「何をしているのですか!」


 俺はいつも練習で使っている魔法で空に上がり、そして炎をまとって加速する。

 その速度は毎日練習しているだけあって抜群ばつぐんに速い。


 『焔よ駆け抜けよファイヤーストレイト』は体を炎と同化させて、体重を軽くし、後ろに炎を噴出ふんしゅつさせて推進力を得るという魔法。

 加速力にかけてはかなり上位に入る。


 俺はジャックの背中も一瞬で追い越し、このレース場で一番に踊り出る。

 後ろから来る相手チームの妨害魔法も俺の速度には追いつけない。

 俺が最速。

 そして最強なんだ!


「やった!」


 俺は舞い上がっていた。

 俺より前に誰も居ないという快感に。

 まるでニクスになったかのような感覚に。

 そして、初めての公式戦ということに心から浮かれていたのだと思う。


 圧倒的な速度で真っすぐ、直線に進み続け。


 ドン!


 俺は、次の瞬間には意識を失っていた。

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