男子中学生と風俗嬢

阿賀岡あすか

第1話 プロローグ



 私――七瀬まゆは男性の性欲を満たすことで得られる報酬で生活をしている。


 平たく言うならば風俗嬢である。

 お金のために花びらを散らす毎日である。


 世の中には必要のない仕事は存在しないという理論で考えると、まぁ、私のような存在でも世間とやらの役立っていると言えなくはないかもしれないけど、少なくとも自分のおかげで世間が潤滑に動いているという実感を感じたことはないなぁ。


 所詮は有象無象の風俗嬢に一人。60分一万五千の私なんていくらでも代役がいる。


 私自身、それでいいと思ってるけどね。



 心をいつもフラットに。出来るだけ人と深い関係を結ばずにいれば、心の中の大切なものを増やさずいれば、今以上に辛い思いをしなくていい。


 これを私は『心のミニマリスト』と呼んでいる。



 心震わす感動的な瞬間が訪れない代償に、身軽で淡々とした日常を得る事が出来る。



 現代の風潮的にも、私自身にもこの生き方が合っている気がする。


 何も起きず。何も得ず。手を伸ばさないから、何もつかみ取らぬまま一生を終える。



 淡々と生きて、淡々と死ぬ。出来れば三十代で眠るように死にたい。

 そんな訳で、心の中の重いモノを捨て去って空っぽになった頭には――たっぷりとアルコールを詰め込んで。


 ヘラヘラと千鳥歩きで。鼻歌交じりで。


 春の心地いい風に風呂上りの少し湿った髪を靡かせながら、夜道をジャージ姿で徘徊するのであった。


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