傷を癒す

淡雪

第1話 7歳

 『彼女』は突然やってきた。


「いらっしゃい」


 私は笑って出迎える。


「こんにちは」

「こんにちは。怪我をしてるわね。どうぞお入りなさい」


 私は促す。


「あ……。おじゃまします」


 幼い外見にそぐわない遠慮がちな態度だった。


「さあ、怪我を見せて。手当をしましょう」


 私は椅子に座りながら、彼女にも向かいにある椅子に座ってもらおうとした。しかし、


「あの、だいじょうぶ。わたし、立てるから」

「いいのいいの。遠慮しないで、さあ」


 彼女が人に優しくされることに対して慣れていないのは充分知っている。そして、心の底では誰かに優しくされたがっていることも。


「これでよし。温かいもの持ってくるわね」


 私は、持ってきたマグカップのうち一つを彼女に渡す。


「……」


 彼女は黙ってホットミルクを飲んでいる。蜂蜜がたっぷり入っているので、きっと彼女の口に合うだろうと分かっていた。


「さて、落ち着いたようだし、お風呂に入りましょうか」

「――おふろ? やだ」


 そうよね。俯いてしまった彼女を見て思う。


「大丈夫。私も一緒に入るわ」



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「ふ〜ん、ふふん」

「随分と気持ちが良さそうね?」


 私がいることにすっかり安心したのか、彼女は鼻歌を歌っていた。

 流石、子供だ。本来なら、こうやって傷をすぐ癒してあげればけろりと忘れてしまえるのだ。


「さあ、そろそろあがるわよ。湯冷めするといけないから、良く拭きましょうね」


 素直に風呂から出てきた彼女を、抱きしめるようにしてごしごしと拭いてやる。

 恥ずかしそうにしているけれど、もう全く怯えてはいない。



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 最後に、準備していた夕食を出す。


「わあ……!」


 所謂『キャラ弁』を見て、彼女は目を輝かせる。友達の間で流行っていて、とっても羨ましかったのよね。


「おいしい!」

「それはよかったわ。焦らずゆっくり食べていいのよ」


 そう言って、私もキャラ弁を口にする。



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「さあ、寝ましょう」


 灯りを消して、私のベッドに促した。


「うん」


 疲れたのか、彼女は眠そうに目を擦りながらベッドに潜り込んだ。


「ねえ」

「なあに?」

「手を握ってもいい?」


 上目遣いで聞いてくる彼女に、私は微笑む。


「ええ、もちろん。おやすみなさい」

「おやすみなさい」



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 翌朝。


「またくるね」


 そう言って、彼女は小さく手を振った。


「――ええ。またね」


 彼女は、数年後にまたここに来る。

 それまで私は、待っていよう。

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