善心悪心
梅緒連寸
⬜︎
「僕がそれに気がついたのは11歳の時で、カッとなって同級生を殴り殺しちゃったんだ。本当に些細なきっかけだった。思い出せなくなっちゃうくらいに。僕は、これはいけない事をしてしまったと思って、彼を丁寧にクッキングペーパーで拭いてあげて、まだ免許持ってなかったんだけど、近所に停めてあった日本車を盗んで、彼を助手席に連れ込んで、最寄の警察署の前まで乗り付けたんだ。罰を受けるべきだと思ったから。でも変だった。何人のお巡りさんに同級生を殺したと話しても、皆同じような返事しかしないんだ。『それが何か?』って。僕は全くわからなくなって、車を盗んだことも、無免許運転をした事も、障害者用駐車スペースに停めてることも、全部洗いざらい話したんだ。でもやっぱり変わらなくて、僕はうんざりして警察署を出たよ。今度はその同級生の家まで行った。僕はチャイムを押して、人が出た途端に謝り倒したよ。でも同じだった。彼のパパとママは頭が抉れちゃった自分の息子を見てこう言ったよ。『ああ、帰りが遅いと思っていたんだ!連れ帰ってくれてありがとう』変だろ?その家庭が冷たかった訳でもない。彼らは平凡に暮らしていた親子だったんだよ。とにかく僕はなんの咎も受けない。誰も僕を罰しない。何日か後に彼の葬式に参加したけど、皆さめざめと、『あの子っていいやつだったよな』とか言うんだ。この僕が殺したことを知っているのに!それから僕のほんとうの人生が始まったよ。好き放題やった。この世界は僕が王様の世界なんだって思ったから。でも、やっぱりいつかは飽きてきちゃうものなんだよねえ。ある日、たっぷり満足したから、死んじゃおうと思って、ピストルを咥えて引き金を引いたんだ。驚いたよ。僕はぴんぴんしてる。その時気が付いたんだ、この世界が僕を罰するために存在してるんだって」
善心悪心 梅緒連寸 @violence_
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