第5話:年末の予定は?

「クリスマスも終わったし……もう今年も終わりだねー」

「そうね」

「で、小枝の年明けまでの予定は?」

「えーっと……」


 朱莉に言われ、考える。

 けれど、特別これをやりたいということは決まってなかったりする。

 そこでとりあえず、何も考えずに言い並べてみることにした。


「まず仕事納めが二八日だから……二九日は、大掃除かなぁ。普段できない細かいところやっちゃいたい」

「あー、そうだね。私もそのつもりだった」

「三〇日は買い出しかな? 元旦はあんまりお店開いてないし、最低その日分までは食料確保しないと」

「うんうん」

「大晦日はゆっくり過ごすつもり。せっかくのまとまった休みなんだし、一日くらい何もない日があってもいいでしょ。――ま、とりあえず年末はそんな感じ」


 そこまで言って、「で、そう言う朱莉は何すんの?」とバトンを渡す。

 朱莉も「んー」と天井を見ながら考えている様子で話し始めた。


「私はまあ二九日は大掃除だとして……三〇日は年明けのバーゲン前に目ぼしいもの見つけたいし、いくつかショップ回ろうかなと」

「なるほどね」

「三一日は何も考えてないなぁ。蕎麦か何か食べようかなとは思ってたけど。あとは年末特番でも見るか、それとも年明けに向けてどこか神社でもいくか迷ってるくらいかな」

「ふぅん……」


 じゃあ、私とそこまで変わりない感じか。

 まあ年末にやることなんてそう変わらないよね――と考えていたところで、ふと自分がしていたであろう勘違いに思い至る。


「朱莉、あんた今年は帰省しないの? 去年、一昨年は帰ってたけど……」

「そうだけど……あれ? 言ってなかったっけ?」

「聞いてないよ!」

「ごめん、ごめん。えっと、今年はナシにしたんだ。ほら、少し前にうちの姉夫婦のところに子供産まれたでしょ? まだ小さくて移動できないだろうから見に行くって言っててさ。実家に誰もいないんだよね」

「なるほどね」

「ま、私は別に帰れない距離じゃないし、またの機会でいっかって――ってそういえば小枝も帰らないの?」

「うん。私はまあ、帰省ラッシュに巻き込まれるの嫌だから、成人の日のところの三連休でいいかなって……」

「ということは……」

「年末年始は二人ともずっとこっちってこと?」


 顔を見合わせ「あー……」と声を重ねる。

 そしてどちらともなく苦笑いしてから、提案する。


「それなら、改めて一緒に予定たてよっか?」

「うん……そうだね」

「朱莉はやりたいことある?」

「おせち食べたい!」

「なら、三〇日はショップ回ってから、材料の買い出しだね。三一日に準備ってことで」

「いいの? それだと小枝がゆっくりできないけど」

「その代わり先に作っておけば、新年始まってからはゆっくりできるでしょ。一人だとさすがに作る気しなかったけど」

「まあ、たしかに。あ、小枝は何かしたいことないの?」

「んー……じゃあせっかくだし……」

「せっかくだし?」

「大晦日は出来ればすき焼き食べてみたい」

「すき焼き? なんで?」

「前にネットで見たんだけど、結構そういう家あるっぽいよ。実家は蕎麦一択だったから、密かな憧れだったんだ~」

「じゃあそれ採用で」

「いいの? 蕎麦じゃなくなっちゃったけど」

「いいよ、そんなの。私は作るの面倒だから蕎麦って言ってただけだし」

「そっか。じゃあ……」


 その後もそんな感じでお互いの希望を言い合い、予定をどんどん詰めていく。

 一人では面倒でやりたくないことでも、二人一緒なら楽しい予定へと変わるから不思議なものだ。

 突如充実してきた年末に期待を寄せつつ、私は一年間空白のままだった二〇二二年のスケジュール帳、最後の一コマを埋めた。

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