第3話:もし家を建てるなら。

「へー。友里ゆり、家建てるんだ」


 SNSを見ていたとき、大学時代の共通の友人である友里の投稿が目に留まり、思わず呟いた。

 すると横並びにソファに座っていた朱莉が、感心するように「へぇ」と短く漏らした。


「友里、結婚も卒業と同時だったもんね。去年は子供も生まれたし。いや~、順風満帆って感じ」

「そうだね。落ち着いたら一回、顔見に行きたいなぁ」

「新居も見せてもらわなきゃ」

「そうそう」


 そんなことを言いながら、朱莉と笑い合う。

 そしてふと、気になった。


「ねぇねぇ。朱莉は家派? マンション派?」

「ん? 私かー」


 朱莉は考えるように顎へ人差し指を当て、上を見た。


「特にこだわりはないかな。実家はマンションだったから慣れてるし、家は家で憧れあるし。小枝は?」

「私はどちらかと言えば――家? 実家がそうだったから」

「あ、そうなんだ。じゃあいずれはここ、出て行かないとね」


 にししっと朱莉は笑い、「理想はあるの?」と続けた。


「理想?」

「ほら、よく知らないけど家ってきっと高いでしょ? 建てるにしても買うにしても『こういうところはこだわりたいっ!』みたいなの、ないの?」

「そうだなぁ」


 少し考えて、答える。


「やっぱりキッチンかな」

「ああ、ここはそんなに広くないしね」

「そうそう。そこまで不自由って感じはしないけど、もう少し広かったらなーっていうのはやっぱりあるよ。コンロも出来れば三口欲しいっ」

「二口だとちょっと足りないよね。主菜とお味噌汁作ったら埋まっちゃうし」

「そうそう。あと出来ればIHがいいな。掃除が簡単だから」

「軽く拭けるしね。あと、小枝はお風呂も広い方がいいんじゃない? ほら、よく長湯してるし」

「あー。そうだ。思いっきり足伸ばして入りたいっ!」


 なんとなく盛り上がってきた私たちは、その後もあれやこれやと要求を重ねていく。


「小枝、庭はどう? いる?」

「迷いますねえ。管理はちょっと面倒だけど、犬飼って庭にドッグラン作るのとか、よくない?」

「お、いいね。犬種は?」

「柴っ!」

「じゃあそこそこの大きさ欲しいね。小さいと走れないし」

「だね。――あ、立地は? 朱莉は都会育ちだから……やっぱり街中?」

「いやー。そこは別にこだわりない。けど、田舎すぎるのは嫌かな。コンビニまで車で三〇分かかるとか」

「それは私も勘弁。というか、私は通勤時間短くしたいな。そうだなぁ……最低三〇分以内。出来れば一五分くらいで」

「あ、私もそう。ギリギリまで寝たい」

「あとあれ大事! 床暖房! なかったらマンションより冷えそうだし」

「確かに小枝はその方がよさそう」


 そしてあらかた出きったところで、メモに過剰書きして二人で見る。


「「うーん……」」

「小枝、これ見てどう思う?」

「高そう……」

「だよね……」

「だいたいの目安調べてみよっか? 住宅会社のホームページとかに施工例載ってるでしょ」

「――――げっ。この条件満たそうと思ったら、安く見積もっても五千万円以上かかりそう」

「五千万!? この地方で!?」

「だって……でも、納得じゃない?」

「まあ……」

「そもそもさ……仮にだよ? 仮にもしこの家を二人で建てることになったとして、私らってローン組めるの? 夫婦でもないのに」

「――いや~……どうなんだろ? わかんない」

「ねー」

「「…………」」

「「お金貯めなきゃな~……」」


 未来がどうなるにせよ朱莉と二人で暮らす限り、このマンションを出るのはかなり先の話になりそうだ。

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