第28話 部長たちのターン

「それじゃ、風太君。始めるよー」

 用意に少し時間はかかったものの、部長たちのターンが始まった。

 いつものように、緩い声で部長は俺に話しかける。こんな事態だというのに平常運転を保てるのはある意味恐怖なのだが。

「時間もないし、説明はいらないよね?」

「いや部長、そこだけはしてくれないと困りますよ!?」

「んー、まとめるのめんどいし間宮君おねがーい」

「はっ!」

 部長の一歩後ろに控えていた側近君が答える。彼はアイマスクを手にしながら、やけに張り切った様子で俺のもとへやってきた。

「いいか、一度しか言わんからよく聞け。これを装着したらお前はすぐに寝る。以上だ!」

「いや何の説明にもなってないんだが!?」

 正直気が気じゃないが、俺が何か動きを見せる前に側近君の手が耳をとらえる。気が付いたときには、すで俺の視界は真っ暗になっていた。

「さぁ、寝ろ!」

「寝ろって言われてもなぁ……」

 何が起こるのかヒヤヒヤしていたが、特段変わった様子はない。部長の発明品なら、すぐに効果が発揮されてもおかしくはないはずだが。本当にただのアイマスクなのだろうか。

いや、待て。目元に不自然な熱が……。

「あっつ!!」

「待て! もう少しの辛抱だ!」

「我慢してたら死ぬわ!」

 拘束された腕を全力で引きはがす。慌ててアイマスクを外すと、そいつからは肉でも焼いていたのかと疑うレベルの煙が立ち込めていた。

「……部長。説明はいいですからこいつの名前だけ教えてくれません?」

「んー……その子はねぇ、ホットアイマスクの熱(ねつ)眼(がん)君だよ」

「熱どころか焼きなんですが!?」

 これまで部長の発明品を何度も見たり試してきたりしたが、ここまで命の危機を感じたのは初めてだ。あのまま着けていたらどうなっていたか……想像もしたくない。

「んー、まだ改良が必要かぁ。残念」

 そう言いながら、部長は本当に悲しそうにその場にへたり込んだ。持っていた枕を床に置くと、彼女はふてくされたように睡眠の姿勢に入る。

「あはは! 部員を危険な目に遭わせるなんて、部長の風上にも置けないわね!」

「お姉ちゃんを馬鹿にしないでくださいよ!」

「そうですよ。あなただって経済的に睡眠部を終わらせかけた前科があるんですからね」

「そ、それは今言うことじゃないでしょう!?」

 ますます水瀬さんの評価が落ちたところで、部長たちのターンが終わる。開幕からこんな調子なのだから、本当に命がいくつあっても足りない可能性も出てきた。

 頼む、この際どっちに軍配が上がってもいいから生きて帰らせてくれ……!

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