第一章 2-2
そこは今まで立ち寄った宿場町が比較にならぬほど、人や物で活気に満ち溢れていた。
街道を引き継いで都市を貫く大通りは、大型の荷馬車で八車線分ほどに拡張され、両脇には食糧品や雑貨品などの露店、武具や服飾品などの専門店、酒場や娼館などの娯楽施設が立ち並び、訪れる大勢の人々で賑わっている。
王都の中心部で育った彼女にとって、それはつい先日まで見慣れた光景であった。しかし、数週間にも及ぶ旅路がいつしか彼女の目を懐かしさよりも新鮮なものへと変えていた。
王国の四方に位置する五大諸侯の領地は、その広大な面積も
ヘグリは陸路における王国の玄関口であり、そのまま街道を北上すれば帝国との国境、また東に進めばモノノベ領に突き当たる。北方からの交易品はこの地を経由して王都や各地へと運ばれている。
早速、二人は今夜の宿を探すことにした。交通の結節点であることから商隊や旅人のための旅宿が多く、豪商御用達の
二人は
「いいえ、そこでは御二方には相応しくないでしょう」
彼女が扉に手を伸ばしたとき、唐突に背後から声を掛けられた。思わず頓狂な声を上げそうになりながら振り返ると、そこには華美な意匠が施された
歳は彼女よりも五つ、いやもう少し上だろうか。
背後には対象的に飾り気のない
「オユミ様ではございませんか。お久しゅうございます」
男の正体に気付いた彼女は
男の名はオユミ=レイ=キノ、このキノ領を統べるオイワ将軍の子息にして、世継ぎと目される
「御顔をお上げください。天人地姫とその倍従者で有らせられる御二方が、私ごときに
それでは見目麗しきご尊顔が
彼女はその
「お気遣いを頂き深謝申し上げます。重ねて、入領の御挨拶が遅れましたことをお詫びいたします」
そうして、彼女は一度上げた頭をまた下げる。自分でも内心では面倒だと感じているが、これもまた貴族としての務めである。もうミストリアは飽きてしまったのか、二度目は付き合ってはくれなかった。
「お詫びすべきは当方にございます。御二方には我が領地の村を救って頂いたと聞き及びました。天人地姫の御手を
その言葉に彼女は僅かに眉を
彼女は心中に押し込めていた不信感が、ふつふつと湧き上がっていくのを感じていた。自分でも愚かだとは分かっている。それでも、あの魔物の脅威に怯える村人たちを見て、大人しく黙っているほど人間が出来てはいない。
「茶番はその辺にして、言いたいことがあるならはっきり言いなさい。ああ、レイニーへの求婚だったら大歓迎よ」
彼女の表情の変化を察したのか、ミストリアが先手を打つように割って入った。
オユミも護衛の兵士たちも、突然のミストリアの放言に唖然とした様子であった。尾行が露見していたのも
しかし、先ほどの物言いは歳相応の少女、それも些か品性に欠けるものであった。引き合いに出されて憮然とする彼女につられるように、オユミもまた自嘲的な苦笑いを浮かべると
「どうか我が家にお
薄々勘付いてはいたが、やはり屋敷への誘いであった。しかし、今更この誘いを断れるはずもなく、二人は互いに諦念を交錯させた後、溢れるような笑みに転じて快諾したのであった。
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