透明人間と存在の証明

間野 ハルヒコ

物騒シリーズ

素朴実在論。


 古代ギリシャに始まる存在論のひとつで、「この世界は自分の眼に見えたままに存在している」という物騒な考え方だ。


 何が物騒かわからない?

 いやいや、物騒だよ。


 1632年にガリレオ・ガリレイが地動説を紹介した時どうなった?

 1687年にアイザック・ニュートンが万有引力を提唱した時はどうなっただろう?


 見えないものは存在しない。

 だから信じられない。


 そんな素朴な考え方は、素朴ゆえに残酷だ。


 だからガリレオは裁判にかけられ、ニュートンはオカルトだと批難された。

 わたしに至っては、存在をまるごと消されてしまった。


 正直、殺人よりタチが悪いと思う。



 殺していないから、罪に問えないし。

 存在しないのだから、探しようがない。


 そうなったらもうおしまいだ。

 本当に誰にも認識されなくなる。


 これが物騒でなくて何なのだろう。


 ああ、そうだ。

 わたしは外側ガワを根こそぎ食われて、透明人間になったのだ。






 深夜0時。

 社内の端で、パソコンに目を凝らす。


 ネットゲームの画面だ。

 中世風の森に剣士や魔法使いプレイヤーが集っている。


 別にさぼって遊んでいるわけではない。

 これがわたしの仕事なのだ。


 プレイヤーの輪の中に、中世らしからぬ女子高生の姿があった。

 大きな本を抱えた委員長らしいデザインだ。


 ゲームマスター専用アバター。

 主に、運営がイベント説明をする際に使用されるキャラクターだ。


 わたしは用意しておいた文句をコピーしてテキストチャットに貼り付ける。


 エンターキーを押すと「これにてイベントは終了です。みなさん討伐ありがとうございました」といった当たり障りのない言葉が広域チャットに表示された。


 プレイヤーたちの他愛もない会話が、わたしの発言を押し流していく。


 MMORPG、いわゆるチャット機能を内蔵したネットゲーム。


 やることと言えばモンスターを倒し、経験値を集め、より強力なモンスターを倒す。

 その繰り返しだ。


 得られるのはサービスが終了すれば失われるただの数値。

 そんなものの為に皆、躍起になっている。


 一体、何が面白いのだろうと思う。

 わたしは外部委託作業員として、このゲームの管理を任されているに過ぎない。


 管理権限を外部に委託しているところを見ると、このゲームを設計した開発者もあまり興味はないのだろう。


 わたしがこの仕事を続けている理由は服装が自由だからだ。


 高校時代、学級崩壊を起こしたクラスの馬鹿どもに自傷行為を強要されたので、露出ができない。手首がズタズタなのでいつだって長袖だ。


 だからたとえば、人前に出て接客するような仕事はわたしにはできない。

 実際、面接では何度か落とされた。


 差別的だと思うけれど、仕方のないことなのだろう。


 だって、ほら。想像してみて欲しい。


 野菜売り場で傷ついた野菜と、傷のない野菜があるとして。

 あなたはどっちを選ぶだろう? 値段が同じなら、答えは明白だ。


 一度、傷がついた人間は必要とされない。

 だって、きれいな肌をした人間はいくらでもいるのだ。


 だから、騙すしかなかった。


 この会社には長袖を着て入社した。

 傷のことは黙って、笑顔を貼り付けて自己紹介をした。


 なぜ、こんなことをしないとならないのだろう。


 わからない。そんなことはわからない。


 わかっているのは、これからもずっとこの傷を抱えて生きなければならないということだけだ。




 画面の中で、委員長然としたキャラクターが微笑む。

 わたしよりずっときれいな顔立ちをしていた。身体には傷一つないのだろう。


 この仕事なら、容姿はキャラクターで代用できる。手首の傷に気づかれることもない。


 仕事内容もプログラムをいじり、あらかじめ用意したテキストを流すくらいだ。

 徹夜ばかりのつまらない仕事だけれど、それでもまだ最初のうちはマシに思えた。


 最初のうちは。


 ふと、チャットの流れが速くなっていることに気づく。

 一部のプレイヤーが広域チャットで長話をしているのだろう。


 よく見てみると、その内容が問題だった。

 タチの悪い上級者が初心者を脅しつけて、レアアイテムを渡すよう言い含めているのだ。


 かなり乱暴な言葉を使っているのか、禁止ワード対策が働いて文章のほとんどが***に変換されていた。暴言と脅迫だ。


 左腕の傷がうずく。

 かつて自傷行為を強要された日々を、わたしは思い出していた。


 気味の悪い羊頭の学生服たちがわたしを取り囲んでいる。

 差し出されるのは血の付いたカッターだ。


 お前も切れ、お前もと。

 意味のわからないことをメエメエ言っている。


 なんだ、ずいぶん悪夢らしく脚色されているじゃないか。

 妙に客観的な感想を吐いて、職務に戻る。手が震えていた。


 画面を見ると、初心者が交換ウインドウを開いてアイテムを譲渡しようとしている。


 広域チャットに「【定期】アイテム詐欺にご注意ください」と注意書きが表示された。時間経過で流れる自動メッセージなんて誰も気にしない。


 脅しつけられた初心者は、言われるがままにレアアイテムをゴミと交換する。


 委員長然としたアバターは、目の前で起こる出来事に関心を示さない。

 運営わたしにプレイヤー間の取引に干渉する権限はないのだ。


 それを理解している悪質なプレイヤーは運営の前であっても強奪行為を繰り返す。


 アイテムを渡さなければいいだけ?


 それができれば苦労はしない。

 わたしが自傷行為を強要され、断れなかった時と同じだ。


 脅しとはそういうものだ。


 わたしは悪質なプレイヤーのIDをブラックリストに追加していく。


 こんなことに意味は無い。

 ブラックリストを作ったところで、特にアクションを起こす予定はない。


 柔軟な対応と言えば聞こえはいいが、つまりは何もしないということだ。


 そういえば、担任の先生もそんな感じだった。

 クラスメイトもみんな不干渉を貫いていた。


 一度、当事者として関わってしまえば、責任が生まれる。

 誰も責任を取りたくないのだ。


 そして、それはきっと。正しいのだろう。

 これが正しい運営なのだ。


 でも、たまに考える。

 わたしはいつまでこんなことを続ければいいのだろう。


 こんなクソみたいな世界を、クソみたいに管理し続けるのが、わたしの人生なのか。そんなわたしの人生に意味はあるのか。そんなことを考えていた。


 今思えば、徹夜の連続で思考力が低下していたのかもしれない。

 何もかも嫌になったわたしは、暴れるだけ暴れて、PCの電源を切った。


 わたしが上司に怒られたのは、その翌日のことだ。




 管理者用アカウントでユーザーに怒鳴り散らすとはどういうことだ。

 その上、強制ログアウトさせるだと。

 これは越権行為だ。相応の処罰を下さざるをえない。


 上司の言葉は至極もっともだった。

 どんなに卑劣な人間でもプレイヤーはお客様だ。


 汚い言葉で罵ってはいけないし、プレイを妨害してもいけない。


 ルール以前に常識的にダメだ。

 そんなことはわかっている。


 でも、常識以前に人として。

 不正行為を見逃していいのだろうか?


 本来、人を楽しませるはずのゲームで、人が傷ついている。

 それを放置して、放置し続けていいのだろうか?


 言いたい言葉を飲み込んで、わたしは頭を下げる。

 いい機会だ、こんな仕事辞めてしまえ。なんて思いながら。


 携帯電話が鳴り響き、わたしを罵っていた上司に緊張が走る。

 うちの会社に管理を委託している、委託元からの電話だ。


 ネット上でも騒ぎになっているようだし。さぞ怒り心頭だろう。


 上司が申し訳なさそうな声を出した。

 頭をぺこぺこ下げながら、「あの、その」と要領を得ない声が響く。


「え、本当ですか!?」


「え、ええ。そう言っていただけるなら、こちらとしても。もちろん彼女もやる気です! 前々から思っていたのですが、ああいう気骨がある人間は必要なんですよ!」


 わたしが知らないところで重大な取り決めが行われているような気がする。


 妙に和やかな雰囲気で、電話を終えると。

 上司はにこやかに、こんなことを言った。


「いやぁ、さっきは悪かったね。ところで、新しい仕事があるんだが」




 今思えば、この頃が一番幸せだった。

 後は落ちていくだけなので、お先は真っ暗なのだけど。幸せに違いなかった。


 わたしの新しい仕事は、管理用アバターを使ってネットゲーム内を巡回し、プレイヤーと交流するというものだ。


 不正行為への怒りから管理者権限を行使したわたしは、SNSではブチギレ委員長の名で親しまれ、ニュースにすらなっていた。


 話題のキャラクターに会えるとなれば、興味も湧くのだろう。

 皆、わたし見たさにゲームを始め。プレイ人口は激増した。


 そして委員長然としたわたしのキャラクターモデルを見て、女神だとか、美しいとか、委員長様とか言うのだ。


 ふと、昔。哲学の授業で聞いた素朴実在論のことを思い出した。


 端的に言えば「世界は自分の眼に見えたままに存在している」という素朴な考え方だ。


 わたしを見にきたプレイヤーは美麗な委員長のキャラクターを見て、喜んでいる。実際どうかなんて知らないままに。


 わたしの腕がリストカットでズタズタだけど、見えないから問題にならない。

 こんな醜いわたしでも、美少女の外側ガワをかぶれば、ちやほやしてもらえる。


 外側ガワは作り物でも、中身はわたしだ。

 潔癖で、よく怒る。不正義が嫌いな、本来のわたし。


 高校時代、クラスをまとめられなかった罪なんてわけのわからない理由で手首を切らされて、心が折れる前の委員長わたしだった。


 死んだと思っていた自分は、まだ生きていた。

 ここなら、わたしは、わたしらしく振る舞っていいのだ。


 当時のわたしには知る由もないことだけど。

 実はこの頃、売り上げの低迷から委託元はサービスを終了する予定だった。


 どうせ滅ぶのなら、最後に何か面白いことをやってやろうと客寄せパンダを用意してみたところ、物の見事にアイドルになったというわけだ。


 結果、新規ユーザーも増え、売り上げも好調。

 ブチギレ委員長セットなる課金アイテムは飛ぶように売れたし、わたしが関わるイベントは目に見えて参加者が増えた。


 売り上げが回復すると、追加要素が増えてゲームから単調さが軽減した。

 多様性がプレイヤーを呼び、消費の循環が生まれる。いい流れだ。


 別に委託元はこのゲームを愛していないわけではなかった。

 ただ、お金と時間リソースが足りなかったのだ。


 わたしはいつの間にか、このゲームのことが好きになっていた。


 ずっと心を痛めていたプレイヤー間の詐欺にもメスが入った。

 遂にブラックリストが活用される時が来たのだ。


 悪質なプレイヤーのアカウントを凍結する試みが実施されると、プレイヤーはブチギレ委員長の裁きと言って囃し立て、画像投稿サイトにはわたしが悪人を氷結させるファンアートが溢れた。


 アカウント凍結はかねてからわたしが提言していたものが、ようやく採用されたものだ。一見過激なファンアートもあながち間違いではない。わたしはにやりとした。


 ああ、そうだ。

 この時はすべてがうまく回っていた。


 そして、回りすぎてしまった。


 上司がにこやかに。しかし、申し訳なさそうな声で言う。


 色々言って居たけれど、ようはこういうことだ。


 ブチギレ委員長の中の人を交代する。

 新しい中の人は売り出し中の声優で、中の人としてテレビ番組にも出る。

 アニメ展開やバーチャルシンガーとしての道も企画している。


 そして、わたしは本来の業務に戻る。

 お疲れ様でした。


 委員長の性格はわたしが元だけど、キャラクターの著作権は委託元が有している。

 あくまでわたしは運営用アバターを操作していた外部委託作業員でしかない。


 無理を承知で食い下がった。

 それほどまでに、わたしは委員長わたしでいたかった。


 筋違いなのはわかっている、歌の練習もするし、テレビにも出る。


 実力が伴わないというなら、諦める。

 どうかせめて競わせて欲しい。


 上司の答えに、わたしは息を詰まらせた。


「こんなこと言いたくないけど。君の腕、リスカでズタズタじゃない」


 ああ、なぜ。

 なぜ忘れていたのだろう。


 左腕の傷が鈍く痛む。


「バラエティ番組での露出も決まっているんだよ。企業イメージ的に君を出せるわけないだろう」


 痛い、痛い。

 痛すぎて、どうにかなってしまいそうだ。


「あの会社は社員を自殺させるようなところなのかと思われたら、どこも仕事をくれなくなる。これは君だけの問題じゃないんだ。気持ちはわかるけど」


 いつも調子のいいことを言う上司が、本気でわたしを心配していた。

 上司は悪くない。委託元の判断も、間違っていないのだろう。


 わたしは素朴実在論のことを思い出していた。

 存在論のひとつで「この世界は自分の眼に見えたままに存在している」という考え方だ。


 人は見えているものの奥にある真実に、さして興味がない。

 だから、見えたものを見えたままに判断する。


 わたしの内面になんて、誰も目を向けてはくれない。

 この腕の傷を見た人々は、軽々にレッテルを貼るだろう。


 なぜなら、そう見えるから。


 ああ、そうだ。

 わたしは、この傷を、ずっと抱えて生きていかなければならないのだ。


 なんてことしてくれたんだと、高校生のわたしに叫びたくなる。

 ただ、断ればよかっただけだ。


 他の人も手首を切ったからなんて、馬鹿みたいな同調圧力に屈しなければよかっただけだ。


 ただ、何を言われても自分を傷つけなければよかっただけだ。



 はは、無理だ。

 無理だよそんなの。


 そんなことはできなかったんだ。


 過去は消えない。

 永遠の呪いとなって、わたしを蝕み続ける。


 耐え続けるしか、他にないのだ。

 言葉を飲み込むと、涙が零れた。


 心配した上司が珈琲でも飲むかと言ってくれた。


 この人は悪い人じゃない。委託元もプレイヤーも、誰も悪くない。

 悪いのは我が儘を言っているわたしの方だ。


 その日は特別に早退させてもらい、翌日にはいつも通り出社した。

 一週間ほど働いたら糸が切れたように動けなくなったので、病院に行くと長期の療養を勧められた。


 わたしは会社を辞めた。



 自傷痕のある20代ニート、実家暮らし。

 我ながら、ひどい経歴だ。


 ちやほやされて舞い上がって、勘違いして、外側ガワをとられただけで心が壊れた、どうしようもないやつ。


 親に会うのも気まずくて、誰にも会わないように暮らしていると、まるで自分が透明人間にでもなったような気がする。


 今では、かつて自分が運営していたゲームにプレイヤーとしてログインしている。


 やることと言えば、モンスターを倒すことだけ。


 モンスターを倒して、経験値を集めて、またモンスターを倒す。

 その繰り返しだ。


 そうやって何も考えずに同じことを繰り返していると、不思議と心が落ち着いた。


 ただ最適な行動を取り続けるだけで、冒険者ランクは上がり、仲間にもてはやされるのだ。


 わたしが運営していたMMORPGは非生産的でも、無意味でもなかった。

 少しずつ増えていく数値パラメーターに心が満たされる。


 こうして救われていた人も結構いるのかもしれない。

 今更ながら、いい仕事だったなと思う。


 そろそろバイトでもしたいけれど、この傷だらけの腕で雇ってもらえるだろうか。


 そう考えると恐ろしくなる。

 面接に行く勇気なんて出るわけもなかった。


 動画投稿サイトを観ると、外側ガワをかぶった声優があの委員長を演じていた。バラエティ番組に出演していたところを観るにかなりの美形だ。


 手首の傷がなくても、勝ち目なんてなかったな。


 動画投稿サイトにコメントが流れていく。


 あの時、助けていただいた初心者です!

 次の企画何やるの?

 委員長ー! 結婚してくれー!


 そこに立っているのはわたしじゃない。

 それでもファンは喜んでくれる。


 見えているものしか、見えないから。


 だから入れ替わっていることにも、気づかないし。

 気づいていても気にしない。


 わかっていても、つらいものだ。


 そんな時、委員長を演じている声優からメールが届いた。


 開いてみると「役作りの為に一緒にお茶をしたい」といった内容がとても丁寧な言葉で書かれていた。メールアドレスは前の上司から聞いたらしい。


 どういう神経をしているのだろう。

 これ以上、わたしから何を奪おうというのか。


 わたしが怒りに駆られていると、もう一通メールが届いていることに気づく。


 思い出したくもない、高校時代のクラスメイト。

 水沢からのメールだった。


 あの女はクラスの大多数が自傷行為を強要しあうきっかけを作った元凶だ。

 最後には本当に自殺した生徒まで出て、学級は崩壊。

 水沢自身も自殺未遂を起こしている。


 学生時代のメールアドレスを使い続けるものじゃないな。


 読まずに削除してしまおうかと思ったけれど、何か引っかかるものを感じる。

 メールを開くと、水沢の近況とお願いが書かれていた。


 あの事件を題材にして本を書こうとしている作家がいるらしい。

 一言で言えば、取材の打診だった。


 ある種の罪滅ぼしなのかもしれない。

 ちなみに水沢はコンビニバイトをしながら作家の助手をしているらしい。


 手首がズタズタでもコンビニで働ける?

 だとすると、わたしが面接に落ちたのは傷のせいではなかった可能性が。


 ああ、なぜ気づかなかったのだろう。

 傷がなくても、面接に落ちることくらいあるはずだ。


 傷があるからダメなのだと、自分にレッテルを貼っていたのはわたしだ。

 臆病で居続けるために傷を利用しているだけなのではないか。


 そうしていれば、努力しなくて済むし。

 嫌なことがあったら、全部傷のせいにできるから。


 自己嫌悪に陥って、ベッドに横になる。




 一通目のメールの差出人。

 あの声優のことを思い出す。


 とてもひどいことを思いついてしまった。


 手首の傷を理由に役を奪われた。

 そう言って作家に売り込めば、そうして本にでもなれば。

 わたしは自分の存在を証明できる。


 でも、それは上司や声優に虎をけしかけるようなものだ。


 きっと、虎は大暴れするだろう。

 会社だってただでは済まない。


 そんなことが、わたしのやりたいことだったのだろうか。

 そういうことをする人に、わたしはなりたかったのだろうか。


 わたしにはあの声優が極悪人みたいに見えているけれど、それは本当に事実なのか?

 ただ、そう見えているだけなのではないか。


 溜息をつく。


 虎をけしかけるのはやめた。

 そんなことをしても、わたしは幸せになれない。


 わたしも、みんなみたいに生きたかった。

 見えているものを素朴に信じていたかった。


 それができたなら、どれだけ楽だろう。

 でも、そんな風には生きられない。


 わたしは目に映るものがすべてではないと知っている。

 だから、確かめないと気が済まない。


 これ以上、勝手なレッテルを貼りたくないのだ。


 生真面目なわたしは、どこまでいっても委員長なのかもしれない。


 ああ、そうか。


 潔癖で、よく怒る。不正義が嫌いなわたし。

 それは証明するまでもなく、まだ残っているようだった。


 水沢から来たメールを放置して、声優に返事を書く。

 


 ――さん、ご連絡ありがとうございます!

 是非、協力させてください!


 わたしはいつでも大丈夫ですが、ご都合のよいお日にちなどはありますか?

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