第17話

 勇者達と魔王の戦いは終盤に入った。その頃には戦いの命運は逆転していた。



「こ、こんな馬鹿なぁッ!!」



 魔界に建設された魔族たちの本拠地である魔王宮殿にて、一人の魔族の女性が追い詰められていた。血まみれの彼女の叫び声が響く。


 その女は魔王ターレナ・コロク。そして彼女を追い詰めていたのは、人類連合軍と人類全体の希望である七人の勇者達だった。



「魔王よ、もうこれで終わりにしよう……」


「き、貴様ぁ……!」



 勇者の一人、セイブンが魔王に向けて宣言する。この戦いと、人魔の戦争の終わりの時を。



「この一撃で、すべてを終わらせる! 今こそ、全人類の力を一つに!」



 セイブンは聖剣を握り直して上に向けると、聖剣から強い光が発生する。彼の言った通り、全人類の力が集まっているのだ。具体的には、全人類と魔力のパスを繋ぐことで、繋がった一人一人から微力の魔力をもらっているのだ。



「こ、これは………まさか、本当に全人類の魔力を結集させたというのか………!」



 更に、世界中の全人類から集められた魔力は聖剣を核とした巨大な剣になった。魔王にとどめをさすために聖剣の力の全てを引き出したのだ。瀕死寸前の魔王には、そんなものを防ぐことも避けることもできなかった。



「お、おのれぇ、これが、忌まわしき聖剣の……」


「魔王、覚悟! はあああああ!!」


「うわああああああああああ!!」



 セイブンは魔王に巨大な剣を容赦なく叩き込んだ。ためらいなく振られた剣は、魔王を光の中に呑み込み、その命を奪った。



「ま、魔王たる……わ、妾が……そんな……」


「そう、終わったんだ……」


「……………………」



 魔王ターレナ・コロクは死んだ。勇者たちによって倒されたのだ。そして、その亡骸は消滅した。身に付けていた衣服と装飾品を残して。


 この後、勇者たちは魔族側に魔王の死を宣言した。信じようとしない魔族たちには、魔王が身に付けていたネックレスを証拠として見せつけてやった。魔王が肌見放さず身につけていたネックレスのことは大元帥はもちろん幹部級の魔族たちはよく知っていたため、いやでも魔王の死を認めざるを得ず、魔族側の士気は大幅に下がった。これ以上の戦争をできなくしてしまうほどに。


 こうして、長年続いた人魔大戦は終わったのだ。魔王の死によって、魔族の敗北が決定的となったのだ。






 魔王の死から半年後。地上と魔界、双方で戦争の終結が宣言された。人類の勝利だ。それと同時に世界全体で人類と魔族の和睦が決まったことも発表された。


 和睦のことは連合軍上層部により決定されたことだ。ただ、上層部の協議で和睦ではなく魔族の根絶あるいは隷属という意見も多かったが、人類も魔族もこれ以上の戦いは困難であり、何よりも勇者たちが人類と魔族の共存を望んだことで和睦となった。


 和睦の際、魔界は残った魔王軍大元帥がまとめることとなり、最年長のドラクン・エモンを最高議長とした魔界政府が立ち上げられることとなった。魔王に次ぐ実力者である彼ならば適任だろうということで反対意見も少なかった。


 しかし、和睦に反対する意見は人類側にも魔族側にもいる。それに戦争がなくなっても残る問題や新たな問題もある。そういうことに対処するのは、やはり勇者なのだ。

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