第11話

 帝都は無事だった。しかし、帝都を守る過程で多くの兵士や騎士が喪われてしまった。彼らの犠牲はあまりにも重い。ストレング・ライスに勝利したセイブンはそう思わずにはいられなかった。勿論、他の勇者や仲間の兵士や騎士も同じ気持ちだった。



「……畜生!」



 仲間たちの亡骸を前にセイブンは悔し涙を流さずにはいられなかった。ただ、サルク・リバーを倒した後のような気持ちを今一度痛感するが、今は亡き続けている場合じゃないも理解していた。



「オルカート! 俺にできることはないか!? 負傷者を運ぶことでも、死んだ人を弔うのだってなんだってする!」


「落ちついてセイブン。今は君も休んだほうがいい。さっき気が付いたばかりじゃないか」



 オルカートの言う通り、セイブンはさっき起きたばかりなのだ。しかも体のあちこちが包帯を巻かれたり治療を受けた後がある。セイブンもストレング・ライスと戦った傷跡が痛々しく残っているのだ。



「でも、でも……俺は……ぐうっ!?」


「……まだ傷は一切癒えていない。サルク・リバーと戦ったばかりなのに、ストレング・ライスとまで戦ったんだ。これ以上はもう無理しすぎだ。命令だ、君も休め。誰か、セイブンを運んでくれ」


「……くそ」



 セイブンは近くにいた兵士に運ばれていった。その後ろ姿を見つめながらオルカートは今後の戦いについて考える。



(サルク・リバーにストレング・ライス……二人もの大元帥が打ち取られた魔王御軍は相当な痛手を負ったはずだ。彼らの動き方を考えると巻き返すためにまた大きく動く可能性が高い。そうなる前にこちらから打って出たほうが得策かもしれない。魔界に侵入し魔王を……そのためには七勇者全員の力が必要だ。特にセイブンは必要不可欠、今は彼にしっかり休んでもらわないと……)



 オルカートの頭にはすでに、魔界に入って魔王を直接討ち取るという計画が浮かんでいた。





 ストレング・ライスが打ち取られてから一か月、七勇者全員を含めた少数精鋭が集まって魔界に進行し、全ての元凶と言える魔王の討伐に向かった。



「まさか、また魔界に足を運ぶことになるとはな……」


「バイパー殿は魔界に言ったことがあったのでござるか?」


「ああ、少数精鋭で魔王を倒すっていう作戦でな。失敗したのに生き残っちまったわけだ」



 スプリング王国の勇者バイパー・ヴェノムの『また魔界に足を運ぶ』という発言に驚いたのは、アズマ王国の勇者エアスト・ノスモルだ。二人とも以前の戦いで重傷を負っていたが、今は十全に戦えるまでに回復している。



「へぇ~、それじゃあボク達は二回目ってわけだね。人類が魔界に入るのは。歴史的偉業になるかな?」


「ポエイム、無駄口を叩くな。歴史的偉業になるかは魔界に入った後に魔王を討伐できるかだろう」


「そうだぜ、俺達七人に人類の命運がかかっているんだ。気を引き締めていこうぜ!」


「でも、不思議ね。もう魔界は目と鼻の先にあるのに、魔族が一人も見当たらないなんて、何かおかしくない?」



 ウィンター帝国の勇者たちも五体満足で体力も魔力も万全。七勇者はいつでも戦う準備は整っていた。



「皆、気をつけて。何か近づいてくる!」


「「「「「「っ!!??」」」」」」



 魔界への入り口から現れたのは、竜の角を生やした青い毛皮の狸の獣人だった。

 


「遂に人類が魔界に入ってきたか。しかし、そう簡単に侵入を許す我らとは思われては困るな」


「な、何者だ!?」


「吾輩の名は『ドラクン・エモン』。魔王軍大元帥の一人だ」


「「「「「「「ッッ!!??」」」」」」」



 魔王軍大元帥ドラクン・エモン。その名を聞いた勇者たちは戦慄した。その名はかつて人類連合軍が魔界に侵入した時に初めて遭遇した魔王軍大元帥だった。



「バイパー殿……!」


「間違いねえ、本物だ……あの時のバケモンだ……!」



 エアストが振り返ると、バイパーが震える声で本物だとハッキリ口にした。そんなバイパーの頭の中では、彼がかつて仲間たちと共に魔界に侵入して返り討ちにされて撤退を余儀なくされた過去が浮かんでいた。

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