とあるバーにて

@calmdown0117

第1話

JR神戸元町駅を北に500メートル程上がった場所の建物の二階に、全面ガラス張りの窓にキャンドルがぼうっと灯る 少し怪しげな店がある。


少し緊張しながら、その扉を開けると、無精髭をはやし、撫で肩で痩せた身体にしっくりとスーツを着こなしたマスターが佇んでいる。


19時オープンのその店は、お客様はまだ誰もいない。


しんと静まりかえった その店はオールドスピーカーから優しい音色が心に染み込んでくる。


まるで、カラカラのスポンジに少しずつゆっくりと水分が染み込んでくる感じだ。


マスターが「いらっしゃいませ」と丁寧にお辞儀をし、「好きな音楽は何でしょうか?」と私に問いかける。私はジョニミッチェル、everything bad the girlと答える。


「ほほう」と一言。


寺尾沙穂の「a case of you」の後に

次が原曲の

ジョニミッチェルの 「a case of you」です。

と一言。


決して多くを語らない、絶妙な距離感と一つ一つの曲に対して音量が調整されていく、仕事の丁寧さ。


所作の美しさ。


約2時間の音楽旅行はまるで迷宮の物語に入り込むように、私の心を奪っていく。


何と美しく、優しく、ときに哀しい旋律。


キャンドルの灯りとともに、想い出される 

思い出たち。


素晴らしい


世の中にこんな店があったなんて。


深い感動とともに、また来ようと心に決める。


そう、この店はレコード バー


きっと今宵も誰かが 魂を半分置いて帰るであろう。







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