みんなの鼻歌

そうざ

Everyone's Hum

娘「ララ~ンラララ~ンララ~ン♪」

母親「……あ、それ、聴いた事あるわねぇ」

娘「お母さん、この歌、知ってるの?」

母親「CMソングか何かじゃなかった?」

娘「う~ん……今日、学校でクラスの男の子が歌ってたんだけど、その子もタイトル知らなくて、誰か知らないかって訊いてた」

母親「結構、有名な筈よ……ええと……あ~出て来ないわ」

娘「ララ~ンラララ~ンララ~ン♪ この曲、好きになっちゃったっ」


               ◇


母親「フフ~ンフフフ~ンフフ~ン♪」

課長「何だい、さっきから鼻歌なんか歌って。俺に会えてそんなに嬉しいのか?」

母親「そりゃ嬉しいわよぉ。週末に会えるなんて滅多にないしね」

課長「ご亭主は海外出張、娘さんは修学旅行。タイミングが良かったな」

母親「フフ~ンフフフ~ンフフ~ン♪」

課長「……それ、何て曲だっけかな?」

母親「それが分からないのよ。娘も知らないって」

課長「会社の部下が歌ってたような……まぁ、どうでも良いか。それより早くベッドに行こう。逆上せちゃうよ」

母親「もっとゆっくり浸かりましょうよぉ、フフ~ンフフフ~ンフフ~ン♪」

課長「君は良くても、俺は近場のゴルフ場に行ってる事になってるんだから、そんなに長居は出来ないんだよ」

母親「はいはい、後ろ暗い関係だもんね……」


               ◇


課長「ヘヘ~ンヘヘヘ~ンヘヘ~ン♪」

チンピラ「痛っ」

課長「ヘヘ~ンヘヘヘ~ンヘヘ~ン♪」

チンピラ「おいっ、ぶつかっといて知らん顔で行く気かっ?!」

課長「えっ……あ、どうもすいません。気が付きませんでした」

チンピラ「てめぇ、鼻歌なんか歌ってるからだろうがっ!」

課長「アウッ……す、すみませんっ。許して下さ、アガッ。治療費出しますからっ」

チンピラ「何だ、これっぽっちっ。全然足りねぇなぁ!」

課長「そんな、これ以上はとてもっ……イデッ」

チンピラ「おらおらっ、さっきの鼻歌を歌ってみろやっ!」

課長「ヘヘ~ン、ウグッ。ヘヘヘ~、ゲブッ。勘弁して下さ、オゴッ」


               ◇


チンピラ「ハハ~ンハハハ~ンハハ~ン♪」

風俗嬢「チュパチュパ……お客さん、ご機嫌でちゅね~」

チンピラ「鼻歌が出ちゃうくらい、おネエちゃんの舐め方が気持ち良いって事だよぉ」

風俗嬢「ふふっ、嬉し~。チュパチュパ……そのお歌、何ていう曲でちたっけ?」

チンピラ「う~んと、う~んと……ワカンナ~イ。ハハ~ンハハハ~ンハハ~ン♪」

風俗嬢「微妙にさっきと違ってまちゅよぉ~……ドラマの主題歌とかかなぁ。洋楽っぽくないでちゅかぁ?」

チンピラ「ん~~……それよりもっと舐めて舐めてっ」

風俗嬢「はいはい。チュパチュパ……気りらるらぁ《きになるなぁ》」


         ◇


風俗嬢「ルル~ンルルル~ンルル~ン♪」

ホスト「お待たせぇ、ごめんねぇ」

風俗嬢「遅いじゃ~ん。他の客と浮気してたのぉ?」

ホスト「悪ぃ悪ぃ、でも怒ってはないよね? だってご陽気に鼻歌なんか歌ってたじゃん」

風俗嬢「ああ、このメロディー? ルル~ンルルル~ンルル~ンって、仕事中も思わず歌っちゃうくらい頭に染み付いちゃってんだよね。曲名、知らない?」

ホスト「えっとね、えっとえっとちょい待ち、知ってるマジで知ってるから。友達がカラオケで歌ってたんだっけなー」

風俗嬢「3、2、1……ブ~~。はい、罰ゲーム。ドンペリ、イッキねーっ」

ホスト「いつからクイズになってんだよぉ~。しゃーない、いかせて頂きまーす」

風俗嬢「それそれっ、ルル~ンルルル~ンルル~ン♪」


         ◇


ホスト「チュチュ~ンチュチュチュ~ンチュチュ~ン♪……あ、もしもしぃ」

祖母「はい、もしもし」

ホスト「あ、俺。誰だか判る?」

祖母「やぁねぇ、可愛い孫の声は忘れないわよ」

ホスト「お米が届いたよ。いつも仕送りありがとう!」

祖母「うんうん、体が資本だから、しっかり食べるんだよ。東京の生活はどうなの? 仕事は上手くいってる?」

ホスト「順調、順調~っ。チュチュ~ンチュチュチュ~ンチュチュ~ン♪」

祖母「何だい、その歌。東京で流行ってるの?」

ホスト「まーそんな感じ。婆ちゃん、聞き覚えない?」

祖母「さぁ~、婆ちゃんは古い人間だからねぇ、そんなハイカラな歌は判らんよぉ」

ホスト「だよね~♪」


         ◇


祖母「ツツ~ンツツツ~ンツツ~ン……爺様。今日はね、昼間、東京のサトシから電話があってね。元気そうだったよ。何だかよく分からんけど、接客業をやっとるんだと。爺様ももうちょびっと長生きすれば孫の立派な姿を見られたのになぁ……ツツ~ンツツツ~ンツツ~ン……これね、東京で流行ってんだって。サトシが教えてくれたの。題名を聞き忘れちゃったわねぇ。良い歌でしょう。ツツ~ンツツツ~ンツツ~ン……♪」


               ◇


祖父「パパ~ンパパパ~ンパパ~ン♪」

閻魔大王「おいっ、ジジィ。地獄の門前で鼻歌など歌うな」

祖父「あぁ、すみません。婆様が仏前で頻りに歌うもんで、いつの間にか癖になってしまいまして」

閻魔大王「現世の歌か……はて、聴いた事があるような、ないような……」

祖父「閻魔様もそう思いましたか? どうか題名を教えて下さい。気になって気になって、このままじゃ死んでも死に切れません」

閻魔大王「ん~~~」

祖父「閻魔様でもお分りになりませんか?」

閻魔大王「待て待てっ、直ぐに思い出すっ、閻魔の名に掛けて思い出すっ。思い出すまでお前の処遇は保留じゃ」


               ◇


閻魔大王「フフ~ンフフフ~ンフフ~ン♪」

鬼「なるほど、確かに何処かで聴いた事があるような曲調ですな」

閻魔大王「閻魔が嘘を吐く訳にはいかんからな、適当な事は言えん。何とかちゃんと曲名を調べて来てくれっ」

鬼「分かりました。鬼が出るか蛇が出るか分かりませんが、必ずや」


               ◇


鬼「タタ~ンタタタ~ンタタ~ン♪」

桃太郎「はてさて、喉元まで出掛かっているのだが……異国の歌謡のように聞こえなくもないが、はてさて」

鬼「あんたは俺よりも人間界の世情に通じてるから、知ってると思ったんだけどな」

桃太郎「いつも拙者の敵役を引き受けてくれる鬼殿の頼みとあらば、何としても力になりたいのはやまやまなのだが……え~っとぉ~」


               ◇


桃太郎「クク~ンククク~ンクク~ン♪」

犬「ワォン?」

桃太郎「やっぱり犬に訊いても埒は開かぬか。猿や雉でも結果は同じであろうし、うちの爺さん、婆さんなんか論外だし……弱った弱った」


               ◇


犬「ワワ~ンワワワ~ンワワ~ン♪」

小学生「何だ、この犬。歌ってるみたいに聞こえるぞっ」

犬「ワワ~ンワワワ~ンワワ~ン♪」

小学生「すっげえっ。明日、学校で皆に教えてやろうっ」

犬「ワワ~ンワワワ~ンワワ~ン♪」

小学生「あれ、この歌、聴いた事あるかも」

犬「ワワ~ンワワワ~ンワワ~ン♪」

小学生「ババ~ンバババ~ンババ~ン♪」

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