第8話 歓迎会

 迷宮から出た時には、すっかり夜になっていた。

 俺たちは寄り道せずに、それぞれの店に戻った。

 ビルヘルム堂のテントは半分閉じていて、ガイド業務は終わっている事を示していた。

「なんだ、ずいぶん早く帰ってきたな。夜明ししてからだと思っていたぞ」

 カウンターのオヤジが、びっくりした様子で聞いてきた。

「そうだな。もう少し早く戻るつもりだったのだが、偶然アリスと会ったので、二人で一層の最奥部までいってきた。まあ、話しはあとだ。中に入れてくれ」

 俺が笑みを浮かべると、通用口が開かれてラグが顔を出した。

「シュナイザーさん、お疲れさまでした」

 ラグが笑みを浮かべた。

「ありがとう、今回は変わった事はなかったな」

 俺は独りごちて、通用口からテント内に入った。

 ラグが元通り蓋を元通りに閉め、猫缶黒印を開けてくれた。

「いつもすまないな。オヤジ、一層でマンイータが出たぞ。三層から上ってきたはぐれ者だと思うが、一応警告を出してくれ」

 俺は猫缶の中身を一気に食った。

「そうか、無事でなによりだった。さっそく連絡しよう」

 あとはオヤジの仕事…というか、機械がデカすぎてオヤジにしかできない、無線とやらを使った会話で、各店舗にマンイーターへの警告を告げた。

「あとは大丈夫だな?」

 オヤジが確認してきた。

「ああ、特に異常はなかった。二層への階段までだがな」

 俺は笑みを浮かべた。

「装備をみて、そんなところだろうと思っていた。今はちょうど晩メシどきだ。ミントたちは、食堂で食べてくるといって、今し方出ていったばかりだぞ。あと、布団は倉庫の邪魔だったからちょうどいい。そのままにしてくれといってたぞ。隣のオヤジがな。そのまま受け取ったが、天気がよければ毎日干してくれるそうだ」

 オヤジは笑った。

「分かった。俺はゆっくりしているとしよう。布団の上は寝心地がいい」

 俺は適当な場所にある布団の上に転がった。


 どれくらい経った頃か。

 通用口のジッパーが開けられる音が聞こえ、ラグとの話し声でミントたちが入ってきた事が分かった。

「あっ、シュナイザーさんが戻っていますね。無事でしたか」

 ミントが笑みを浮かべた。

「ああ、問題ない。今さらの確認だが、オヤジと迷宮にが入って、得るものはあったか?」

 俺は笑った。

「えっと、大混乱の真っ最中です。マッピングやら戦闘やら…。夜間の魔物が怖くて、思わず大声を上げてしまい、天井からスライムが落ちてきたのも一回や二回ではありません。これでは、ガイドどころか冒険者としても落第です」

 ミントが苦笑した。

「まあ、気を落とすな。どんなガイドでも、必ず見習い時代があるものだ。そういう俺も、これからここにくるらしい、アリスというベテランガイドには勝てん。見習っておいて損はないぞ」

 俺は笑った。

「あっ、そうだった。アリスは明日ここにくるそうだ。シュナイザーに話しをしていなかったな。迷宮で本人から聞いたか?」

 オヤジがカウンター側の布を下ろして店じまいをしながら、俺に問いかけてきた。

「ああ、なんでも店が設定しているガイド料が、本気で半端なく高額で客がつかない。ここに転籍して、給料が安くてもいいから雇ってもらったといっていたな。確かに、いくら凄腕で経験豊富でも、金貨五十枚は…」

 俺は笑った。

「そうだな。慌てて金貨十枚にしたらしいが、それにしても高額過ぎるのは確かだ。美味いものが食えて、迷宮に入れば間違いなしの敏腕ガイドが付くとあってもな。ガイド料は迷宮での保険だが、程があるだろう。何度もアリスの店にいって説教してみたが、値段をつり上げる一方で変わらん。ここ最近、俺はあの店に客を紹介していないのはそのためだ。悪い店ではないのだが、これでは怖くて紹介などできん」

 オヤジは小さく息を吐いた。

「まあ、アリス本人の決断だ。悪い事ではないだろう。今日はもう休む。さすがに、夜の魔物は怖かったな」

 俺は笑って、再び目を閉じた。


 翌朝、日課としているいつも通りの運動をして帰ると、オヤジが店を開ける支度をしていた。

「シュナイザー、今日も朝から元気だな」

「オヤジこそ、たっぷり寝た様子だな」

 オヤジが笑い、俺は笑みを浮かべた。

「さて、アリスがくる頃だな。テントは組み立てておいた」

 オヤジが笑みを浮かべた。

「さすがに早いな。念のためだが、朝メシセットの手配は済んだのか?」

「ああ、昨晩済ませている。アリスには腹を空けてこいと、ちゃんと連絡してある。問題ない」

 オヤジが頷いた。

「それなら問題ない。オヤジ、猫缶を頼む」

「ああ、分かった。俺も複雑な気分だが、全て話しがついている事だ。素直に新たな仲間の歓迎をしよう。今日は金印な!」

 オヤジは笑い、猫缶金印を箱から取り出してプルトップを開け、床に置いてくれた。

「しまった、寝坊しました。あの、シュナイザーさんの缶詰…」

 ちょうど起き出したラグが、女性側のカーテンを少し開けて出てきた。

「うむ、たまには休め。俺の朝メシより、これからくるアリスを迎える準備をしてくれ」

 俺は笑みを浮かべた。

「はい、分かりました。みなさん、朝ですよ!」

 ラグが元気な声を上げ、眠っていた全員をたたき起こしに回った。

「よし、俺はカウンターがあるからな。お前たち中心でアリスを迎え入れてくれ」

 オヤジが笑い、カウンターの椅子に座って、いつもの仕事スタイルになった。

「さて、結構なさみしがり屋だからな。全員で迎えようか」

 俺は笑った。


 ちょうど朝メシセットが届いた時、アリスが大形トランクを引き、笑顔でやってきた。

「猫は今さらだな。あまり面識がないか、お初の顔があるか…。私はアリスというガイドだ。今日から世話になる。よろしくな」

 アリスが笑みを浮かべた。

「よし、きたな。まずは荷物をおいてこい。場所は分かっているな」

「ああ、噂の一人用テントだな。いってみる」

 俺の声にアリスが笑みを浮かべ、ガラガラとトランクを引きずっていった。

「そういえば、ミント、カイル、ウレリック。疲れはどうだ?」

 俺が問いかけると、三人ともバツが悪いという感じで苦笑した。

「まあ、ほどほどに回復しています。でも、迷宮に入ってはいけないコンディションですね」

 代表してという感じで、ミントが小さく笑みを浮かべた。

「だろうな。それが分かるなら、問題ない。無理を承知で行くなど、無謀な初級冒険者と変わらんからな」

 俺は笑みを浮かべた。

「一つ合格ですね」

 ミントが笑った。

「そうだな。では、それでも俺が客で、お前たちと同じくらい消耗していても、迷宮に行くといって聞かなかったら?」

 俺は小さく笑みを浮かべた。

「そうですね…。引っぱたいても、止めるでしょう」

 俺の問いにミントが真面目に考えた様子で、自信なげに答えた。

「それはいかん。ガイドは客に手を上げたらダメだ。そういう時は、契約時に必ず書いてもらう誓約書を持って、『契約違反だ。ガイド料は返金するがどうする?』とハッタリかましていい。大抵の場合、それで引っ込むぞ。それでもダメな場合は、そのまま勝手に行かせればいい。ガイド契約とは、そういうものだ。お互いに信用が出来ないと、共倒れになってしまうからな」

 俺は笑った。

「はぁ、私にできるかな…」

 ミントが自信なさげに呟いた。

「そのためのカイルとウレリックだろう。前たちは三人組だから、難しい事は誰かを頼ればいい。俺より丁寧な方法を取るだろうな」

 俺は笑った。

「そうだな、そういう時はワシお得意の説教じゃ。聞くかどうかは、相手次第だがな」

 ウレリックが楽しそうに笑った。

「出た、ウレリックの説教。これに何度泣かされたか。怖いんじゃなくて、心に染みる感じだ」

 カイルが剣の手入れをしながら笑った。

「なるほどな。俺には出来ん」

 俺は笑った。


 個室となる外の小形テントから、アリスが再び戻ってきた。

「よし、今日はガイド業務を休む。半分閉じるぞ」

 オヤジはカウンターからガイドエリアの布を閉め、カウンターに戻った。

「今日は歓迎会だな。メシの手配は、無線でやっておいたぞ」

 オヤジが笑った。

「出入り口を半分閉じると暗いな。窓を全部開けよう。ラグ、任せていいか?」

 俺は笑みを浮かべた。

「はい、任せて下さい。えっと…」

 ラグがテントの側方にあるジッパー式の布で出来た窓を全て開けた。

 それでも若干暗いが、先ほどよりもはるかにマシになった。

「あまり気を遣うな。恥ずかしくなってしまうぞ」

 アリスが苦笑した。

「ミントたちとラグの歓迎会も含んでいる。ちゃんと、やってなかったからな。こういう宴が好きなパーレットも呼びたいのだが、あいつは料金そこそこでいい仕事するからな。暇などないだろう」

 俺が小さな笑みを浮かべると、カウンターのオヤジが笑った。

「そっちも抜かりない。今日は店休日にしてもらった。店主がやっと休める機会が出来たと喜んでいたぞ」

「また、大袈裟な事をやったな。という事は、見習いのサーシャとバイオレットもくるな。叩けばいくらでも覚えると、本気でお気に入りだから、こういう時は絶対連れてくる。ビルヘルム堂のメンツの顔と名前を、もう一度覚え直せ。新人も増えたってな」

 俺が笑うと、噂をすればなんとやら。カウンターのオヤジと、聞き慣れた声が聞こえた。

「おっ、パーレットがきたな。ラグ、開けてやってくれ」

「はい、分かりました」

 ラグが通用口のジッパーを開けると、まずサーシャとパーレットが入ってきた。

「お邪魔します。食事を持ってきました」

 遅れてやってきたバイオレットが、手に持っていたバスケットを床に置いた。

「助かる。ところで、サーシャ。どこかで出前のメシを持ってウロウロしている者を見かけなかったか?」

 俺は苦笑した。

「うん、いたよ。私たちの店の前で、休みだって困っていたけど、ここだったの?」

「多分、そうだろうな。オヤジの手違いとしか思えん。おい、もしかしたら配達先を間違えてないか?」

 俺は笑った。

「あれ、どうだったかな…」

 オヤジが唸りながら、苦笑した。

「分かった、私が受け取ってくる!」

 パーレットの声が聞こえ、駆け足で去っていく音が聞こえた。

「オヤジ、笑える事をするな。バシッと決めろ」

 俺は笑った。

「ああ、そうだが記憶にないんだよ。パーレットの店で、店主と話しながら無線で注文したから、混ざったかもしれん」

 オヤジは苦笑した。

「まあ、いい。さて、これで歓迎会が開けるな。ここに、新人が入る事がまず滅多にないが、久々に迷宮以外で楽しい時間だ」

 俺は笑った。


「やっぱり注文ミスだったよ。新人だから、困って半泣きだったよ!」

 パーレットが笑って通用口からテントに入り、巨大なオードブル皿を床においた。

「あー、やっちまったという感じだな。あとで謝っておく」

 オヤジが苦笑した。

「よし、メシは揃ったが今度はドリンクがない。手配したか?」

「ああ、時間指定しておいたから、あと五分もあれば冷え冷えのドリンクがくるだろう。ああそうだ、未成年は酒を飲むなよ!」

 オヤジが笑った。

「あのな、酒なんか頼まないのは分かっているぞ。俺のマタタビ酒に使う、ウィスキーくらいだろ」

 俺は笑った。

「さて、ドリンクがきたら、すぐにはじめよう」

 俺は笑った。


 無事にドリンク類が到着し、どうにも段取りが悪かった歓迎会がはじまった。

 全員で自己紹介をして、床にメシを直置きのままだと嫌だと、当たり前の事をパーレットが声を上げたが、所詮は簡易宿泊所だ。この店には、折りたたみテーブル一つない。

 どうしたものかと考えていると、バイオレットが呪文を唱えて出来たデカい氷の玉を床に置き、それをサーシャがぶん殴ると、どんな魔法かも分からなかったが、そこそこの広さを持つテーブルに変化した。

「物質変換魔法だよ。氷に見えるけど、氷のような何かだよ。冷たくないでしょ」

 サーシャが笑った。

「うむ、変わった魔法だな。合成魔法の一種だというのは分かったが」

 俺は正直感心した。

 合成魔法とは、二人以上で使う魔法の事だ。

 阿吽の呼吸で合わせないと失敗してしまうので、普段から研究と鍛錬を怠っていない事が分かった。

「パーレット。もう二人とも独り立ちさせてもいい思うのだが、どうなんだ?」

 俺は笑った。

「冗談でしょ。もっと教えないとダメ。私の全部をあげようってね。そうしたらきっと店も喜ぶし、私も満足。ついでに、二人ともバリバリ稼いで、迷宮内で色々研究しながら、もっと楽しくなる!」

 パーレットが笑った。

「うむ、悪くない。だが、あんまり無理はさせるなよ」

 ミントたちにその無理をさせている俺が言えたものではないと、思わず苦笑してしまった。

「さて、テーブルも出来たし、あまり騒ぎすぎないようにやろう。オヤジがカウンターで仕事をしているからな」

 俺は笑った。


 宴もたけなわという頃になって、オヤジが休憩中という意味でカウンター側の布を半分閉じて宴の輪の中に加わった。

 ちなみに、酒を飲まないオヤジと未成年が混ざってる場に、酒を持ち込むような野暮な事はせず、全てソフトドリンクなのに、さながら酒宴のように盛り上がっていた。

「おい、シュナイザー。お前もなにか食え。今日ぐらい、体に悪いものを食ったところで、死にはしないぞ」

 アリスが笑った。

「そんなに食えん。ちゃんと朝メシを食ったからな。胃に入る容量であれば、俺だって一人だけ食わないなんて、野暮な事はしないさ」

 俺は苦笑した。

「そうか、それは残念だな。では、飲まないとな。オレンジジュースなんてどうだ?」

 アリスが笑った。

「あのな、猫が柑橘系のニオイがダメだって知っているだろう。それはそうと、こっそり発注しておいたサプライズが、そろそろ届くはずだ。嫌とはいわせんぞ」

 俺は笑った。

「ん、なんだ?」

 オヤジが反応して、大声で笑った。

「オヤジに注文してもらっただろう。知っているはずだ」

 俺は苦笑した。

「な、なんですか?」

 ミントが恐る恐るという感じで聞いてきた。

「だから、サプライズなんだ。オヤジに頼む時、なかなか恥ずかしかったぞ。ちなみに、読み通りここにいる全員分だ。なかなか揃わないからな」

 俺が笑った時、ここらでは珍しい車のエンジン音が聞こえ、半分閉じている布の隙間から、配達業者の制服をきた兄ちゃんが顔をだした。

「お届けものです。受け取りをお願いします」

「ああ、分かった。そこの布の前に置いてくれ」

 オヤジが立ち上がると、気を利かせてラグが立ち上がった。

「ラグ、この歓迎会が終わるまでは客人だ。ゆっくりしてくれ」

「はい、分かりました」

 ラグが素直に座り、ニコニコした。

「おーい、数が多い。パーレットたちがいいな、ちょっと手伝ってくれ」

「はいよ!」

 パーレットがバイオレットとサーシャを連れて、通用口から長い段ボール箱をいくつもテント内に引き入れてくれた。

「確かに人数分だね。オヤジさんとシュナイザーの分はないみたいだけど」

 パーレットが笑った。

「サプライズを仕掛けた側が、それを受け取ってどうする。それぞれ宛名が異なる。自分のものか確認したら、まあ、開けてみてくれ」

 俺は笑みを浮かべた。

「分かりました…うわっ!?」

 ミントが箱の中にある、水色に白玉模様のイルカ型抱き枕を取りだして声をげた。

「それぞれのイメージカラーに分けた。ウレリックが紺色、カイルが青に白玉模様、ラグが青と紺色のツートンカラー、アリスが黒に白玉模様、パーレットが赤、サーシャがピンクに白玉模様、バイオレットがグレーと白のツートンだ。まあ、使ってくれ」

 俺は笑った。

「よし、俺はカウンターに戻る。そろそろ到着組が集まってくる時間だ」

 オヤジがカウンターを開け、さっそく待っていた冒険者たちを相手に仕事をはじめた。

「さて、歓迎会を続けよう。このテントでここまで活気があるのは珍しいし、俺も楽しくていい」

 俺は笑った。


 結局、飲んで食って歓迎会も終わりに近づくと、時間は夕刻近くなっていた。

「おおよそ、丸一日騒いだな。いい事だ」

 俺は笑った。

「よし、そろそろお開きにするか?」

 俺は誰ともなく聞いた。

「そうだね。お土産をもらったし、ここで切り上げようか。片付けは私たちがやるよ!」

 パーレットが笑みを浮かべ、サーシャとバイオレットも加勢して、テーブルの周りや上にあった使い捨て容器の数々を、買い置きしてあった特大のゴミ袋に放り込み、未開封のドリンクを床に置いて、開封済みのドリンクを俺以外のみんなで一気飲みした。

「おーい、ゴミや不要品はあるか?」

 タイミングよく、夕方の不要品買い取りやゴミ回収をやっている、いつものオッチャンがやってきた。

「いいところにきたな。今日は大量のゴミと空き瓶があるぞ」

 俺は笑った。

「どれ、なんだパーティでもやったのか?」

 荷車にゴミ空き瓶を放り込みながら、オッチャンが笑った。

「まあ、そんなところだ。値がつく不要品はあるか。なければ処理代を払うが…」

「ああ、代金は不要だ。瓶は再利用できるから高値で売れる。むしろ、こっちが買い取代を支払はならんほどだ」

 オッチャンが笑った。

「そうか、ならいいが…」

「いいも悪いも、礼をいわねばならんな。これで、小金持ちくらいにはなったな」

 ゴミや瓶を回収して、オッチャンは笑いながら荷車を引いていった。

「それじゃ、テーブルを片付けるよ!」

 サーシャが笑顔で、青白く光っていたテーブルをぶん殴った。

 すると、テーブル跡形もなく消え失せた。

「うむ、なかなか便利な魔法だな。今度、俺も研究してみるか」

 俺は笑った。


 パーレットたちが自分の店に帰り、テント内はビルヘルム堂の店員だけになった。

 夜闇迫る中、ラグが開けていた窓を全て閉め、パタパタと床掃除をはじめた。

「いきなり静かになったな。まあ、祭りの後の静けさといったところか」

 俺は笑った。

「そうだな。大歓迎ありがとう」

 アリスが小さく笑った。

 天井の魔力灯が放つほの明るい光の中、まだカウンターにいるオヤジが猫缶金印のプルトップを開け、床に置いてくれた。

 それを一気に食ってから、俺は笑みを浮かべた。

「お前たちの晩メシはどうするんだ?」

 俺は誰ともなく聞いた。

「私たちは問題ありません。たくさん食べたので、もうお腹いっぱいです」

 ミントが笑った。

「はい、私も満腹です。元々小食なので」

 ラグが笑った。

「俺も十分だ。体力次第だが、ミントたちさえ大丈夫であれば、迷宮に触れに行こうと思っている。いいか?」

 俺の問いに、ミントが頷いた。

「はい、それほど奥に進まないようでしたら、大丈夫だと思います。

 ミントが笑みを浮かべた。

「厳しいようなら、素直にいってくれ。途中で動けなくなたったら、最悪だからな」

「分かりました」

 俺の言葉に、ミントが笑みを浮かべた。

「よし、それでは雑談でもして時間を潰そうか。眠くなったら、寝ればいい」

 俺は笑ったのだった。

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