「本と鍵の季節」 剣の杜
@Talkstand_bungeibu
第1話
11月にはいり、18時も過ぎると真っ暗になるこの季節、図書室に入ると受験の追い込みに入っている3年生と、早めの受験対策に入っている2年生で、図書室は満室になっている。3年生の先輩方は自分の志望校の赤本を広げ、必死に問題を解いている。2年生の同級生はそこまで追い込まれているわけではなく、広げている本も赤本ではなく、今年度版の参考書だ。自分の役目は、この時間を終わらせること。放課後終了のチャイムに先駆けて、私は声を上げる。
「図書室を利用されてる皆さん、図書室を閉める時間です。本を借りていく方は貸出票を提出してください」
私の声が静かな図書室に通ると、緊張の糸が切れたかのように喧騒が戻ってくる。背伸びをしてストレッチをしている受験生や、参考書の解らない場所を教えあう同級生、先ほどとは違う緩い空気が流れている。皆、思い思いの夢を追いかけてる。私にはその姿がまぶしく見える。まだ、私には将来の明確なビジョンが見えていない。だからこそ、この場に来ることが、この場の空気に触れることが、私も夢を共有できるようでかけがえのないものになっている。
おしゃべりが終わったのだろう、まず2年生たちがぽつぽつと図書室から出ていき始めた。本を借りる人は今日は誰もいなかった。次いで、3年生たちが一冊、または二冊の赤本を持ってカウンターへやってくる。3年生たちは次々と貸出票を出して本を借りていく。貸出期間は1週間、その間にみっちりと勉強していくのだろう。その努力はきっと無駄にはならない。きっと合格に繋がる、よしんば落ちたとしても第二希望へとチャンスをつないでくれる。3年生たちの列が切れると、図書室はシンとする。2年生、3年生が勉強をしていた時とは違った静寂が図書室を満たしている。今ここに人はいないが、私は夢が残っていると感じている。その余韻を感じながら、私は図書室を出て鍵をかけた。夢が逃げてしまわないように、しっかりと戸締りをするのだ。
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