旅立ちの朝
水色の空に薄い雲。新たな門出ににふさわしい朝だ。
私とロット君はもうすぐジュノン軍学校に向けて旅立つ、はずだ。ロット君の準備が整えば。
「あれ?あれ?確かここに置いたはずなんだけどな」
「よく見てみなさい。昨日はあったんでしょ?」
「そうなんだけど・・・・・・」
どうやら用意しておいた
私はというと、アメリアさんからもらった服が今着ているものも含めて二着、下着が数枚。外套、携帯食、保存食、必要書類を入れた円筒などを背負い袋に入れ、水袋を吊るしただけだ。余裕があるのでロット君の荷物まで入っている。
それから
昼間は魚の干物を売るお店で、夜は宿屋で働かせてもらった。どちらも人手不足ではなかったようだが、どうやら私が
「あった!そうだ、忘れちゃいけないと思って靴と一緒に置いといたんだった」
「しっかりしなさい。そんなんじゃ先が思いやられるわよ」
「そうだユイ、書類は持ってるか?」
「うん。さっきも確認したよ」
「姓名変更届も?」
「うん。一緒に入れた」
私は入学申請の時と現在では姓が異なるため、姓名変更届が必要だ。アカイア市から五日に一度やって来る行政官の方に申請して、先日届いた大事な書類。これで正真正銘、私はカイルさんとアメリアさんの娘ということになった。ユイ・レックハルトと記されたその書類を忘れるわけがない。
「お待たせ。じゃあ行くか!」
「うん」
「待て、二人ともこれを持って行け」
カイルさんから手渡された小さな布袋には、銀貨と銅貨がぎっしりと詰まっていた。百ペル銀貨、五十ペル大銅貨、十ペル銅貨が混ざっていることから、どのようにして貯めてくれたお金なのかよくわかる。まだ出会って三十日足らずだというのに、息子のロット君と同じように扱ってくれていることも。
「道中も何かと金がかかるだろうからな。ユイ、ロットの面倒を見てやってくれよ」
「はい」
「ちょっと、それはないんじゃないかな・・・・・・」
家族で村の入口まで見送ってくれるというので、私はシエロ君の手を引いて歩いた。
「自分のための人生だ、存分に学んで来い」
「はい。カイルさんのおかげで人生が変わりました。ありがとうございます」
深々と頭を下げ、分厚い掌を両手で握り返した。
「いつでも帰ってきていいからね。怪我しないでね」
「はい。ロット君と一緒に必ず帰ってきます。アメリアさんもお元気で」
柔らかい体に包まれ、豊かな胸に埋められて息が詰まった。
「おねえちゃん、おてがみかくからね!」
「ありがとう。シエロ君、お父さんとお母さんのこと、お願いね」
腰のあたりに抱きつかれ、自然にお尻を撫でられた。
「おねえちゃん、いっちゃうの?」
「うん。クリアちゃん、また一緒にお風呂入ろうね」
柔らかくて温かくて小さな手が人差し指を掴み、なかなか離してくれなかった。
「ここで話してたらいつまでも着かないぜ。行こう!」
「うん!ロット君、よろしくね」
焦げ茶色の髪を見上げ、軽く拳を合わせた。
この村にたどり着いたとき、私にはぼろぼろの服と食べかけのパンだけしか無かった。あれからたった三十日、帰るべき家と家族を持ち、背負い袋に夢と希望をいっぱいに詰めて旅立つなど想像もできなかった。
家々の隙間から朝日が顔を覗かせ、視界いっぱいが黄金色に輝く。
そうか、私の新しい人生はもう始まっていたんだ。
◆
フォロー、応援、評価など有難うございます。
次話から舞台を移して二章に入ります。
引き続きお付き合い頂けますと幸いです。
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