巡見士フェリオ(二)
「お見舞いですよ、村を救った英雄のね。隊長こそ何の御用です?」
「この娘が魔術を使えると聞いて来たのだ。
フェリオさんの顔が急に険しくなった。それに合わせて声も厳しいものに変わる。
「民間人、それも怪我をしている子供を戦場に同行させようというおつもりか?」
「いや、その・・・・・・危険な場所に連れて行く訳ではない。ちょっと魔術で奴らを探してくれれば良いのだ」
「魔術というものが術者にどれほどの負担を
「あ、いや、無理にとは・・・・・・」
「そもそも・・・・・・」
フェリオさんが冷静な声で指摘するほどに、隊長はしどろもどろになっていく。
「そもそも、この遠征自体に不透明な部分が多々あります。
今更ではあるが、私もいくつか疑問を抱いていた。
田舎村の
このカラヤ村からは徒歩一日の距離に大都市アカイアがあり、大規模な冒険者ギルドも存在する。そちらに依頼した方がはるかに安価で済むはずだ。そうしない理由があるのだろうか?
それに村の近くには
隊長はまだ何か言いたげな様子だったが、お供の兵士になだめられつつ出て行った。代わりにというべきかフェリオさんが頭を下げる。
「すまなかったね、怪我をしているというのに騒ぎ立ててしまった」
「いえ・・・・・・助かりました」
「それじゃあ僕も行くよ。ゆっくり休むといい」
「あ、あのっ!」
なぜ呼び止めたのか、最初は自分でもわからなかった。
もう少しこの人とお話ししたいと思った、会えなくなることが寂しいと思った。正直なところそれもあるが、
「
「
「はい」
私の口から出てきたのは、自分でもまとまっていない考えだった。
思えば私はずっと逃げてきた。虐待を繰り返す両親から逃げ、その手から救ってくれた冒険者ギルドを逃げ出し、理不尽な暴力から逃げ回ってこの村に
いや、もしかしたらもっと前からだったかもしれない。前世の「俺」も折り合いの悪い両親と距離を置いていたし、最期が自死ならば自分の人生から逃げたとも言える。
自分に足りないもの、欲しいものは。
不公正な社会を正す力、理不尽な暴力に立ち向かう力、弱き者を守るための力。
目の前の人には、たぶんそれがある。私もそうなりたい、そんな思いだ。
「わかった、少しお話しようか。体は大丈夫かい?」
「はい!」
フェリオさんがもう一度椅子に座り直した。
嬉しい。もう少しこの人とお話ができる・・・・・・ではなかった、私の将来について大事なお話が聞ける。
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