初めての戦 織田信長の初陣

burazu

初陣で、あるか

 時は戦国、嵐の時代。


 室町に幕府を開いている足利将軍の力は弱まり、各地方の大名が己の勢力圏を広げる戦いに明け暮れる時代。


 これはそんな時代に突如として現れた風雲児の初陣についての話である。


 その名は織田信長。


 信長は清洲三奉行の織田弾正忠家当主織田信秀の三男として生まれ、父の持ち城の1つであった那古野城を与えられ、城主となり、そして13歳で元服(今でいう成人のようなもの)の儀を済ませ、翌年天文16年(1547年)に武士としてのもう1つの儀を迎えようとしていた。


「信長様ーーー!おい、信長様はいずこじゃ?」

「はっ、本日も奇妙な恰好で領内を稚児達と遊びまわっているご様子にございます」

「元服されたのだから少しは落ち着いて欲しいものだが……」


 この老将は平手正秀という名で、織田信秀の家臣であり、信長の傳役、いわば教育係である。他にも外交面や、織田家の財務管理など、織田家にとっては欠かせない人材である。

 そんな彼もさすがに次期当主と名高い信長の奇行には悩まされているようである。


 時をおいて、奇妙な恰好の若武者が城に現れ、正秀に声をかける。


「おお、爺か、たった今帰ったぞ」

「信長様!元服なされたのだから少しは落ち着いてもらわねば困ります!時期織田家当主がそのような振る舞いでは……」

「口うるさいのう爺は、話がそれだけならば飯にさしてもらうぞ」

「いえ、殿よりのご伝達で、信長様の初陣が決まりましたのでお知らせに参りました」


 先程まで正秀の苦言にうんざりした様子の信長であったが、初陣と聞いた途端目の色を輝かせて正秀に対し言葉を発する。


「初陣!で、あるか」

「はっ、間違いございませぬ」

「そうかそうか、とうとうわしも初陣か、して相手は誰じゃ?今川義元か?」


 今川義元とは当時、駿河・遠江・三河の三国を支配下に置いている大大名であり、僅かながらに尾張にも進出しており、信長の父である信秀にとっては目下の敵ではあるが、義元も背後に甲斐の武田晴信(のちの信玄)、相模の北条氏康を敵として抱えており、大戦とはなっていない。


 信長は今川勢が尾張に進出していることもあり、義元が初陣の相手とふむが、正秀からの返答は違った答えであった。


「いえ、今川の傘下である松平氏の臣下である長田重元が城主の吉良大浜を牽制目的で攻めよとのことにございます」

「牽制目的かつまらぬな」

「まあ、初陣は儀式の役割が主ですからな」

「まあ良い、して出陣はいつだ?明日か?」


信長は出陣のを早くしたいのか、明日かと正秀に尋ねるが、またしても正秀の返答は期待とは違ったものであった。


「いえ、まずは領内に陣触れを出し、兵を動員します。今回の戦の規模では5日程かかるかと」

「それ程、時をおかねばならぬのか」


 陣触れとは領内の将兵に出陣することを知らせ、将は自身の領地の規模に応じた兵を動員し、自身の主君の元へ馳せ参じるのだ。


 戦の前に行われる事としては常識ではあるが、正秀の話を聞き、信長は将来的には兵の動員を手短に済ませ、早めの出陣ができる方法はないかと思案していたが、ひとまずは旧来の常識に従うこととした。


「では5日の間に武具、兵糧、馬の準備を急がせよ、できうる限り早くじゃ!」

「ははっ!」


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