ゴリラに花吹雪を!!~召喚ギャル聖女は純情ゴリラ将軍を溺愛する~
神通力
第1話! 振られ女の逆襲!
「あり得ない!! あり得ないあり得ないあり得なーい!」
「藪から棒に何がー?」
「振られた! しかも浮気! 酷くない!? まだ付き合って3週間でもう浮気されるとか、どんだけだよって思わなくね!?」
「おー、それはお気の毒様。やっぱ3次元の恋愛はダメですなー」
「何よー! 自分だって3D男子に熱上げてるくせにー!」
授業も終わり、部活には無所属のため、誰もいなくなった放課後の教室でスマホを弄りながらダラダラ駄弁る女子高生がふたり。
花も恥じらう乙女、と言うには些かあまり清楚さのないギャル系女子高生の吹雪花(ふぶき・はな)はパパ(実の父親だ)にねだって買ってもらった最新型のスマホを両手で砕かんばかりに握り締める。
「うーマジ泣けるんですけど! ちょっとエッチン、ゲームなんかしてないでちょっとは慰めてよ!」
「そのあだ名で呼ぶのやめてくれたら慰めてあげてやってもいいよ」
スマホを両手で握り締めたまま、机に突っ伏して項垂れる花の隣でやる気なさそうにソシャゲのデイリー消費がてらイベント周回をこなしているのは友人のオタク系女子、エッチンことA子である。
本名池上栄子。エッチンというあだ名は中学時代広まったもので、彼女の同じ中学校出身の女子が言い触らしたために今でも原液のあだ名になってしまった。
「てか聴いてよ! 昨夜夜中に彼ピからいきなり連絡来たから何かと思ったら、まさかの男同士の無修正(ピー)写真の誤爆だったんだよ!? しかもうちの彼ピ、(ピー)られる側!」
「うわあ。それはドン引き案件すぎるでしょ。花の彼氏ボディビルダーだっけ? やっぱそっち系の趣味持ってる人も珍しくないんじゃん?」
「偏見! 偏見でーす! と言いたいとこだけど、今回ばっかりはマジでそれ! あーもー超ショック! 折角ジムに通いまくってやっと捕まえた理想のマッチョだったのにー!」
号泣せんばかりの勢いで嘆く趣味も容姿も正反対の友人に、栄子は呆れたようにため息を吐く。筋トレなど二の次で、出会い目的でジムに通うのは何も男の方ばかりとは限らないらしい。
「食事制限があるからってデートで飯も食えない彼ピのために、メッチャ栄養学とか勉強して手作り弁当とか手料理とか作ってあげようと頑張ってたのに全部無駄だったじゃん!」
「まあまあ、一度身に着けた知識は無駄にはならないわけだし、次のマッチョ彼氏ができた時に役立つからいいんじゃないの?」
それはそうだけどお! と花はガバっと身を起こす。学校でメイクしてると怒られるからという理由でやむなく校内ではすっぴんを貫いている可愛い顔が、流した涙で台無しだ。
「まさか女の子も男もどっちも好きだなんて、いや百歩譲ってそれはいいとしても、だからって二俣かけるか普通!」
「そりゃあ、まあ、あっち的には彼氏ひとり、彼女ひとりで浮気してるつもりはなかった、とか?」
「だったら言い逃げするみたいにメッセで言うだけ言ってブロックして連絡取れなくするとかしなくてもいいじゃん! つーかうち、アイツの本名も住所も知らないし!」
「出会ったってジムは? そこに行けばまた会えるかもよ?」
「絶対変えるでしょジム! あーもーこうなったら片っ端から目ぼしいジムに行きまくって見付け出してやろうか!」
「そんなことしてる暇があったら、その時間を別の彼氏見付ける時間に使った方がよっぽど有意義だと思うけど?」
吹雪花はマッチョが好きだ。だが、そう言うと『俺、結構筋肉あるんだよねー』と近寄ってくる細マッチョが嫌いだ。『細マッチョなんて願い下げ! ゴリマッチョこそが私の理想!』と常に公言して憚らない。
同級生の女子たちが、色白で細マッチョなアイドルグループやイケメン歌手にキャーキャー言っている横で、花はハリウッド映画のマッチョな主演男優にキャーキャー言っているタイプだ。
部屋に飾られているポスターも、つい最近現役を引退したばかりの有名なプロレスラーが汗を煌めかせているもので、愛用のカレンダーもママにせがみまくって海外から取り寄せてもらった本場物である。
そんな趣味嗜好を隠しもしない花は同級生の女子たちの間ではちょっと浮いた存在で、友達はいるが皆が口を揃えて『悪趣味』と言う。唯一の例外は、オタク系友人の栄子ぐらいのものだ。
海外のゴリマッチョ俳優に熱をあげている花と、『男は2次元に限る。生身の男とか絶対ないから』と迷いなく断言する栄子。ギャルとオタク女子の不思議な友情は、そうして成立したのである。
「死ぬ! もう死んでやるう! この世の終わりだ! アポカリプスとかラグナロクとかそういう感じの奴だ!」
「ちょ!? 落ち着きなって花! ここ4階だよ!? 落ちたら死んじゃうって!」
やおら立ち上がるなり校舎の4階にある教室の窓を開けようとする花の胴体にしがみ付いて、懸命に止める栄子ちゃんはとてもいい子である。
「だから死んでやるんだってば! 私を振ったことをアイツに後悔させてやるにはもうこれしかなくない!? 4階も誤解もないマジの失恋とかショックすぎて、もううち生きていけないっつーか!」
「だからって死んだらおしまいでしょーが! 一度や二度の失恋が何よ! 私なんて数えきれないぐらい攻略失敗(しつれん)しまくって強くなってきたんだからね!」
「うるさーい! エッチンの場合はロードしてやり直せばよかったかもしんないけど、うちの恋にはセーブもロードもないんじゃい! チックショー! もうマジ無理! この世に未練なんてあるもんかー!」
花がそう叫んだ瞬間。突如花と栄子の足元に強烈な虹色の光が噴出した。
「うお!? 何何何!? 教室の床にゲーミング機能なんてあったっけ!?」
「ちょ!? エッチン自分だけ逃げるとかマジ薄情すぎね!?」
「ちょっと! 人聞きの悪いこと言わないでよ! なんか吹っ飛ばされただけなんですけど!」
驚き花の腰から手を放してしまった栄子が、間欠泉や噴水のようにドバー! っと床から天井に向かって噴出する虹色の光に弾かれるかのように吹き飛ばされる。
轟々と噴き出す虹色の光、台風のような凄まじい暴風。立っているのも目を開けているのもままならないような強烈ないきなりの出来事に、花は顔の前で交錯させた両腕で顔を覆う。
「エッチーン!?」
「花ー!」
そして虹色の光が一際強く輝いたかと思うと、次の瞬間、一瞬で消え失せた。虹色の光に呑み込まれた花と共に。まるで台風の日に窓を全開にしていたかのように、机も椅子も吹き飛ばされて散乱する。
「……花?」
ずり落ちた眼鏡を上げ直しながら、床に這い蹲っていた栄子は慌てて顔を上げる。
「花!? ちょ、どこ行ったん!? 花!? 花ー!」
慌てて立ち上がり、無人の教室内で叫ぶ栄子。もしかして!? と窓辺に駆け寄り恐る恐る窓から顔を出すも、吹雪花の姿はどこにもなかった。
☆
「は!? ここどこ!?」
目が覚めた時、吹雪花は見知らぬお城の中にいた。お城といってもラブが火照る感じの安っぽいそれではなく、女の子なら誰もが憧れる、と言うとこのご時世ポリコレ棒で囲んで撲殺される感じのお城である。
古めかしい石造りの室内。豪奢っぽい感じに敷かれた真っ赤な絨毯。両手でスマホを握り締めたまま、慌てて周囲を見回すと、そこには大勢のファンタジーな装いの人間たちがいた。
「遥か異世界より我らが世界へ、ようこそお越しくださいました、聖女様。我々はあなたをお待ちしておりました」
「は?」
そんな花を出迎えたのは、眼鏡のイケメン青年である。すらりとした高身長。サラサラの長い茶髪。いかにも頭のよさそうな眼鏡。ロールプレイングゲームのキャラクターのような服装。紛うことなきイケメンだ。
「いきなりの出来事ゆえ、混乱も御尤ものことと損じます。ですので、説明致しましょう。ここはあなた様のいらっしゃった世界とは異なる別の世界、いわゆる異世界でございます」
「マジ!? これって異世界転生って奴でしょ知ってる! エッチンが休み時間に読んでるブックカバー付きの小説とかで見たことあるもん!」
「いえ、転生ではなく転移でございます。我がプロティーン王国に秘密裏に代々伝わる聖女召喚の秘術によって、あなた様をお招きさせて頂きました」
はー、と理解が追い付かない様子でキョロキョロし始める花。イケメンの後ろには、鎧姿の騎士っぽい男たち、というかプロティーン王国の騎士たちが緊張した面持ちで立っている。
ちなみに彼女のこの手の作品に関する知識はとても浅い。栄子が読んでいる小説や漫画、観ているアニメなどにはあまり興味を示さず、隣でスマホを弄りつつ横目に眺めていた程度のものだ。
「わざわざ呼んだってことは、うちになんか用?」
「ええ。実は聖女様に折り入ってお願いがございまして。我が国の根幹に関わる、とても大事なお願いでございます」
「やだって言ったら?」
「口封じに殺します。聖女召喚の秘術は極秘中の極秘。歴代の国王に代々伝わる禁術でございますので」
「誘拐&強迫じゃん!」
「小粋な冗談です。聖女様の緊張が幾らかでも解れれば、と思いまして」
「解れないよ!? つーか、この状況でそれは笑えないってマジで!」
気を取り直して、と眼鏡のイケメンは跪き、深々とこうべを垂れる。そうするのが若干遅くない? という疑問は後回しにしておこう。
「このお話は、あくまで聖女様の自由意思に基づく人道的なお願いです。勿論、断って頂いても構いません。ええ、全然構いませんとも」
「無駄に念押しされると逆に不安になるんですけど?」
「実はこのプロティーン王国には、世界最強と名高い軍神と呼ばれる将軍がおりまして」
グレゴリオ・チャンドラー。プロティーン王国が誇る、世界最強と名高い将軍である。プロティーン王国騎士団の団長であり、国王イッキ・プロティーン59世の親友。
どれぐらい強いのかというと、この国に攻め込んできた敵国の兵士4万人の軍勢をたった300人程度の精鋭騎士の部隊で返り討ちにしてしまう程度には強いらしい。
「そんなにも強いグレゴリオ将軍ですがね、独身なのですよ。もうすぐ50歳の誕生日を迎えるというのに。何故だかお分かりになられますか?」
「ものっそいブサイクだからとか?」
「その通りでございます! と、大っぴらには申し上げられませんが、概ね正解です。最初はイッキ・プロティーン陛下も『国一番の勇士には、国一番の美姫を!』とご自分の娘を嫁がせることをお考えになられたのですが」
「泣いて嫌がったと」
「いえ、死にました。『あんな汗臭くて毛深いゴリラオヤジの妻になるぐらいなら、いっそ死んだ方がマシ!』と毒を飲まれまして。あまりにもスキャンダラスな事件ゆえ、対外的には病死と公表されましたが」
「それ、私が聞いちゃってよかった奴なん? それこそ口封じされる理由が増えたとしか思えないんですけど?」
「はい、いいえ。ですが、ここで聞かされたここだけの話はどうぞご内密に願えますでしょうか。わざわざ異世界よりお越し頂いた聖女様を口封じに始末するだなんて、そんな非道はとてもとても、ねえ?」
とにかく、父親の命令でグレゴリオ将軍に嫁がされそうになったイッキ王の娘、ココア・プロティーン姫はそれを嫌がるあまり死を選んだ。姫の自殺の一件でグレゴリオ将軍は深く傷付いたそうである。
まあ、文字通り死ぬほど嫌がれたのだ。それでも彼の国王と王国への忠義は変わらなかった。天晴れ騎士の鑑である。そんな親友の姿とバカ娘、もとい愛娘の突然の死に心を痛めたのは、イッキ国王だ。
世界一の忠義者の妻に、世界一の花嫁を! と大々的にグレゴリオ・チャンドラー将軍の花嫁選びを開催したらしいのだが、国中の女たちから拒否され、打診を出した他国の王族や貴族からも断られたという。
「無理もございませんグレゴリオ将軍は30年連続上司にしたい理想の男ランキングナンバーワンであると同時に、抱かれたくない男ランキング不動のワーストワンの座を保持し続けていらっしゃるお方」
「あ、なんか既視感ある。それってこいつになら(ピー)られてもいい男ランキングの方じゃナンバーワンだったりするんでしょ?」
「おや、よくご存じで。さすがは召喚されるだけあって、聖女様は博識なお方でございますね」
典型的な、男からは好かれるけど女からは嫌われるタイプの男なのだろう、そのグレゴリオ・チャンドラーなる男は。それなのに最強で護国の要となる唯一無二の最高戦力とか、王様も気を揉むわけだ。
4万人の兵士を蹴散らして返り討ちにしてしまえるような男に反旗を翻されたら、この国がどれだけの大打撃を受けるか分かったもんじゃない。戦争に疎い花でもそれぐらいの予想はつく。
ちなみに花の場合、抱かれたくない男ランキングに載る笑い芸人などは『意外とイケる』パターンが多い。逆に抱かれたい男ランキングに載るような若々しい細身のイケメンは、概ね鼻で笑うことも少なくなく。
「もうこうなったら贅沢は言っていられないと、花嫁には金貨1千枚相当のダイヤの結婚指輪を、というお触れも出しましたが、皆様金貨1万枚もらっても結婚したくない、と」
「シンプルに可哀想。え、そんなどうしようもないブサイクなの? そのグレゴリオっておじさんは。うち、そんなバケモノのお嫁さんに無理矢理されちゃうわけ?」
「そればかりはわたくしどもが言葉を尽くすよりも、直接当人にお会いして頂くのが一番かと」
「エドワード!」
その時である。地震かと思うような凄まじい怒号がビリビリとお城中に響き渡り、花の持つスマホの画面がビシリと割れた。それぐらい凄まじい覇気と威圧感と声量。
イケメン眼鏡の背後に整列した騎士たちの顔が青褪める。あれは本気で怒っていらっしゃる時の団長のお声だ、と察したのだろう。中にはそれだけで失禁してしまいそうになる者もいた。
「あー!? うちのスマホがー!? これ本体もフィルムもすっごい高かったのにー!?」
「おや、噂をすれば。グレゴリオ将軍のお出ましですよ、聖女様」
それは動く山だった。山のように雄大な大男だった。身長234cm、体重210kg(その大半が脂肪ではなく筋肉によるもの)。それオーダーメイド? と尋ねたくなるような鉄の鎧が内側から張り裂けんばかりの筋肉。
顔は金剛力士や仁王像が甘いマスクに見えるぐらいいかつく、声は地響きのようなだみ声。おまけに顔も体も全身傷跡だらけで、顎の輪郭を覆うフサフサの髭と濃いもみあげは、ライオンの鬣のようですらある。
髪型は異世界なのに角刈りだ。腕は丸太のようにぶっとく、太腿は更に生ハムの原木がスリムに見えるほど、全身筋肉の塊としか形容のしようのない、オークもオーガも裸足で逃げ出す筋肉達磨がそこにいた。
「おいエドワード! 殿下から聞いたぞ! 当人(おれ)に相談もなく聖女召喚の儀を行ったらしいな! 今更気を遣われてもありがた迷惑だから、勝手な真似はしてくれるなとあれほど釘を刺した筈だぞ!」
「しかしですね、私も友人として、見る目のないバカ女ばかりの現状とあなたの不幸には胸を痛めているのですよグレゴリオ。あなたは素晴らしい人間だ。幸せになる権利がある」
「フン! 人殺しの上手さだけで将軍に成り上がった奴に、幸せになる権利などあるものか! 俺は結婚などとうに諦めたというのに、何故貴様も陛下も放っておいてはくれんのだ!」
怒りも相俟って、歩く度にズシン! と地響きが起こりそうな、怒れる憤怒の巨漢に詰られようとも涼しい顔でそれを受け流せるイケメン眼鏡のエドワードも大物である。
自分が叱責されているわけでもないのに震え上がってしまいそうになっている後ろの騎士や魔術師たちが可哀想になるぐらい、グレゴリオの発する怒気と覇気は凄まじい。
それと同時に、ほんのり汗の臭いと獣のような体臭が花の鼻をくすぐる。なるほどちょっと近付いただけでこれなら、至近距離で密着したら若い女性は嫌がるのも無理はないだろうなと思う。
「レディーの前で、そう声を荒げるものではありませんよグレゴリオ」
「ぬ!?」
エドワードに促され、グレゴリオは床に描かれた魔法陣の中央に佇んだままの可憐な少女の存在に気付く。怒鳴ったら吹き飛んでしまいそうな、線の細い美少女だ。
自慢じゃないが、花は自分の容姿にはそれなりに自信があった。男ウケのよい清楚系ではないが、その分親しみやすい感じの巨乳系ギャルとして、それなりにモテはしたのだ。
「あー、君。その、なんだ。このバカがすまなかった。すぐに元いた世界に君を送り返」
「……カッケエ!」
「うん?」
「超カッケエ! マジ激ヤバなんですけど!? うちコレと結婚すんの!? ヤベエー!」
「は?」
グレゴリオは顎を落とし、イケメンの眼鏡はずり落ちた。なお花は一目で恋に落ちた模様。
「わーすっごい筋肉! ヤバ! てか身長高すぎでしょ! 腕とかうちの胴体よりぶっといし、太腿なんかドラム缶顔負けじゃん! その鎧の上からでも判るムッチムチの大胸筋に顔を埋めて窒息死してえー!」
「お、おい!?」
「なんすかこのケツ筋! 椅子に座ったら椅子がぶっ壊れそう! わー首もふっと! 何食べたらこんなぶっとい首になるんですかねえ! お姫様抱っことか超余裕でやってもらえそうじゃん!」
いきなり語尾と瞳にハートマークを乱舞させながら、ハイテンションですり寄ってきた黒髪黒目の見知らぬ美少女の勢いに、戦場に出れば鬼神と化す世界最強のグレゴリオ将軍もタジタジになる。
あのグレゴリオ将軍が気圧されている!? と周囲の騎士や魔術師は騒然となり、イケメン眼鏡エドワードの眼鏡は逆光になって彼が今どんな顔をしているのかは伺えない。
そしてグレゴリオは未だかつて若い未婚女性にここまで積極的に詰め寄られた経験は皆無であるため、戸惑い面食らい、どうしてよいのか判らず困惑して棒立ちになるよりなかった。
「あの! あのあの! 味見する前にちょっとだけ触らせてもらってもいいですか!? 力こぶとか腹筋とか!」
「味見ってなんだ!? おいエドワード! 一体なんなんだこの娘は!? お前、一体何を召喚した!? 天使の皮を被った悪魔か!?」
「ククク! クハハハハハハハハハハ! いやいや失敬! いやはやこれはこれは! 実に素晴らしい! 笑いが止まりませんね!」
「笑っとる場合か!」
キラキラした目。紅潮した頬。恐がるどころかあからさまに自分への好意を隠そうともしないで迫りくる、初対面の美少女を前に混乱するグレゴリオ将軍。
そんな彼から助けを求めるような視線を向けられ、エドワードはイケメンらしいイケボを高らかに響かせながら、心底ご満悦のようである。
「言ったでしょう? この世界にあなたの妻になってくれる女性がいないのなら、別の世界からあなたの妻になってくれる女性を召喚すればよい、と」
「貴様! まさか!?」
「そうです。彼女こそがあなたの花嫁となるべく、異世界より召喚された聖女。人を外見で判断しない清らかな心を持つ、純潔の乙女ですよ。あなたのお嫁さんです」
「チッス! うち、吹雪花って言います! えっと、横文字風に言うならマイネーム・イズ・ハナフブキかな? とりまこの結婚、喜んで受けさせてもらいますんでマジよろしく!」
出会いは突然。恋に落ちるは必然? 屈託なく無邪気にギャルピースをする花の笑顔に、この世界全ての独身女性に拒絶され傷付いてしまったグレゴリオの繊細なハートが、ドクンと高鳴った。
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