一人の女に崩壊させられた会社の話

ピチャ

一人の女に崩壊させられた会社の話

 その会社は「子ども生産工場」だった。

 と言っても、名前の印象の通り、子どもを産むために整えられた施設ではなく。子どもでいるために世界観が作られた施設だった。

 そこは敢えて子どもでいることを良しとしていた。子供でなければ生み出せない様々なものがこの世にはあるからだ。つまり、この社会に適合すればするほどこの施設からは遠ざかっていく。この会社の主な生産物は「芸術」だ。それも大人びた精錬されたものじゃなく。子どもならではの発想、無茶なこと、それを取り入れたものである。

 よって、他の社会とは一線を引いている。ここはここ、で整えられたものである。外から見て大人はその世界を知る。決して触れることなく。

 子どもによる子どものための子どもの施設。娯楽施設ではない。本人たちは本気で生きているのである。お金さえあれば、大人であったならば、自由にできるのに。そんな思いを体現させたシステムである。


 さて、この会社だが、崩壊の危機が訪れた。

 一人の女、これが子どものふりをした、割と厄介なやつだった。いや、子どもである部分と大人である部分が混ざっているのだ。彼女が大人の世界の常識でその世界を見ていた。そして、その無茶苦茶さに苦言を呈した。

 よく考えよう。ここはそもそもそういうシステムなのである。彼女はそれを知らなかったし、気づかなかった。彼女の言うことはまっとうでありながら、子どもとしての発想なのか大人としての発想なのか、それがあっちゃこっちゃしている。取り入れようとしたら、炎上した。彼女は大人の感覚で、内部を露呈して断罪したのである。しかしそれはずれていた。まっとうでありながらずれていた。露呈するはずのなかった部分が露呈し、問題のなかったことが問題とされた。しかもそれは内部の根幹を突いたもので、なぜそんなことをしてしまったのか、彼女ならではの危険な行為だった。

 そこを掘るなよ。

 と言ってももう遅い。情報を止めるのは大変だ。いろんな憶測が飛び出し、割と広がってしまった。おい女、なんてことをしてくれるんだ。

 最大の味方でありながら最大の敵。こんなところにいたのか。お前に心はあるのか。いや、あるようだが。逆にありすぎるのか。わけがわからん。

どうやら大人になる過程で、様々なものを育て損ねたらしい。身体はよく育っているが。会社が崩壊するかと思った。しかしそこは大人、口止めと金と権威が何とかする。

 この国では税金払っている者が強いんだ。

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一人の女に崩壊させられた会社の話 ピチャ @yuhanagiya

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