家事代行のバイトを始めることになった俺の依頼主は、学年一の人気者で完璧美少女な同級生でした〜俺の正体が同じクラスの陰キャだと気づいていない彼女は、学校での愚痴を俺にだけ聞かせてくれる〜

あすとりあ

第1話 家事代行のアルバイトをすることになった件

「母さん。俺、バイトしようと思うんだけど、いいかな?」


 高校に進学して数ヶ月経ったある日の夕飯の時間。俺が前触れもなくそう提案したところ、母親は突然泣き崩れてしまった。


 間違いなく、俺が今までの人生の中で一番焦りを感じた瞬間だと断言できるだろう。




***




 昨年。過労で倒れた父親に変わり、専業主婦としての第二の人生を歩み始めていた母親は、再び看護師としての仕事に復帰してわが家の家計を支えることになった。


 当時中学三年生の俺だけならまだよかったのだが、俺には下に妹が二人いる。一人は俺の二つ歳下。もう一人は、随分歳の離れたまだ未就学児だ。


 看護師という職業は、給料はいいが夜勤もあり、大変な職業である。よって、長男である俺が必然的に家事や妹二人の面倒を見ることになった。


 そんな生活が続くこと一年。俺は高校生になったら、必ずやろうと決めていたことがあった。


 それこそが「アルバイト」であり、冒頭に繋がってくるというわけだ。




***




蓮斗れんと……。ずっとあなたには我慢させていたのね。あなたはわがままも全然言わないし、料理も洗濯も進んでやってくれるから母さんがあなたに甘えすぎたのね……」

「待った待った!そういうわけじゃないから!」

「……あら、違うの?」


 俺はひとまず、涙を流している母さんを落ち着かせてから、話を仕切り直すことにした。


 自分の親が泣いているところを、中学生の結菜ゆいなはともかく、まだ保育園児の花凛かりんに見せるのは流石に酷だろう。


「さて、まずは俺の話を聞いてほしい。俺がアルバイトをしたいと思ったのは、母さんを楽させたいって気持ちもなかったわけじゃないけど、単純に興味があったからなんだ」

「興味……?」

「ああ。俺も一度はそういう経験をしてみたいっていう、それだけの理由だよ。別に何か欲しいものがあるわけでもないしね」

「あら、そうだったの。母さん、てっきり蓮斗に我慢させ過ぎてしまったのかと……」

「それはないよ。今では家事も趣味みたいなものだからね」


 実際、予算をやりくりして献立を考えたり、掃除や洗濯をするのは今では意外と楽しくなっていたりする。


 そんなことよりも俺の友人と呼べる人間がほとんどいないことの方が問題だが、それこそ母さんに言ったら余計な心配事を増やすだけだろう。


 まあ俺が陰キャなのは結菜にもバレてるし、母さんも俺を気遣って言わないようにしているだけかもしれないけどな。


 俺がそんなことを考えていると、それまで黙って食事に集中していた結菜の方から横槍が飛び出した。


「お兄。バイトするのはいいけど、見た目だけは流石にどうにかした方がいいと思う」


 それは、至極もっともな意見であった。


 今の俺の見た目は、目が隠れるほどに長く伸びた前髪。そして俺の普段の私服は、男子中学生が着ていそうな謎のロゴの入ったトップスに、基本上下黒で統一されている。


 まあつまり、はっきり言ってダサい……。


「し、仕方ないだろ?俺の高校は制服だし、私服なんて見せる機会ほとんどないし……」

「でも、バイトをするならそうもいかないでしょ?人の第一印象は、まずは清潔感だよ?」


 地元の中学でマドンナと呼ばれている結菜にそう言われてしまえば、俺にはぐうの音も出なかった。まあそもそも、結菜の言っていることは全て正しい。


「大丈夫!母さんは、個性的でいいと思うわよ!」

「お兄ちゃん!個性的!かっこいい!」

「あ、あはは……」


 基本的にちょっとズレてる母さんと、まだファッションのファの字もわからない保育園児の花凛の言葉は、なんのフォローにもなっていない。


「まあそこは、結菜に任せるよ……」

「いいけど……。バイト代で何か奢ってね!」

「はいはい。駅前のスイーツ食べ放題のカフェにでも連れて行ってやるよ」

「え、いいの?私ずっとあそこに行ってみたかったんだよね!」


 一人で盛り上がり始めてしまった結菜を他所に、俺は本題に移ることにした。


「それで話の続きだけど、実はもうバイト先については考えてあるんだ」

「あら、そうだったの?」

「ああ。実はこの話、電話で父さんにも話したんだ。そしたら父さんの友人に家事代行サービスの会社を経営している人がいて、その人に俺を紹介してもらったんだ」

「それで?」

「ちょうど最近バイトの人が一人抜けたとかで、すんなりオーケーしてくれたよ」

「あら、よかったじゃない!それに、家事なら蓮斗の得意分野だし、得意なことを活かせる仕事って貴重なのよ?」


 そうなのだ。俺は父さんから家事代行サービスと聞いた時、すぐに「これだ」と思った。


 正直、普段学校で陰キャをやっている俺に、いきなり飲食店の接客というのはかなりハードルが高い。

 

 その点、家事代行サービスであれば基本的にクライアントとの一対一なので気が楽だというのもある。


「蓮斗が自分で決めたことなら好きにしていいわよ」

「ありがとう!家のことも結菜に手伝ってもらいながらちゃんとやるから安心して」


 話がまとまったところで、俺は食べ終わった食器を片付けようと席を立った。


「それで、そのバイトというのはいつからなの?」

「あ、じ、実は……」


 言ったら怒られるかもしれないから、これは黙っていようと思ったんだが……。


「実は、二日後からなんだ……」

「……ふ、二日後?」


 突然の重大な報告が、まさかの事後報告であったことには流石の母さんもキレたことは説明に難くないだろう。






ーーーーーーーー


 初めましての方は初めまして、「イケメン店員」から見に来てくださった方はいつもありがとうございます。Astlia(あすとりあ)です。


 本作もまた長々しいタイトルではありますが、しっかりタイトル回収はしていきます。第一話ではヒロインは登場しておりませんが、次回登場致しますので、明日もぜひ読んでいただけると嬉しいです!毎日20〜21時に更新予定ですのでお楽しみに!


 

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