量子力学(りょうこちからのまなび)

アソビのココロ

第1話

「……やった、成功だ!」

「えっ? 何なの?」


 女子高生佐藤量子は、家でポテチを食べながら寝っ転がっていたその姿勢のまま、何と異世界に召喚されてしまった。

 リョーコを呼び寄せた神官達の一人が、魔法陣の中の被召喚者に話しかける。


「勇者様。実は……」

「わかったわ! ここは私の住んでいた日本とは違う異世界なのね? あなた達が私を召喚したのね?」

「おお、さすがは勇者様! 理解が大変にお早い」


 量子があまりない胸を張る。


「ふふん! 伊達に日本の女子高生は因数分解で苦労してないわ! 私のことはリョーコと呼んでね。それで私はどこの魔王を倒せばいいの?」

「何と聡明な! そこまでお察しでありましたか」

「当然よ! 三〇分後には見たいテレビ番組が始まるから帰らなきゃいけないし」

「えっ、帰る?」


 戸惑う神官達。


「帰る手段なんか考えてなかったって言うんでしょ?」

「は、はあ。勝手で申し訳ありません」

「いいのよ。そこは異世界女子高生パワーで何とかするから。ところで力を発揮するにはどうすればいいのか教えて?」

「イメージです。リョーコ様の莫大な魔力をイメージに乗せて発射するのです!」

「私には魔力があるのね? 女子高生ヒロインだから当然ね。イメージなら任せて! 壁ドン顎クイあすなろ抱き!」


 リョーコ様は暴走してはいまいか? と神官達は若干心配になったが、口には出さなかった。


「魔力を発射魔力を発射、よーし、イメージできたわ! 一回練習するね。三、二、一、ファイアーっ!」


 リョーコの手から放たれた魔力は唸りをあげて超高速で飛び、遠方の黒い霧に包まれた山を消し飛ばした。


「コツが掴めたわ! さあ、魔王はどこ?」

「……もういません」

「へ?」

「今リョーコ様が吹き飛ばした山が魔王の本拠地だったのです。が、すっかり瘴気ごとなくなってしまいました」

「ご、ごめんね? 日本の女子高生ともあろう者が空気を読めなくて」


 神官達は放出魔力のあまりの大きさにたまげただけで、リョーコが何故謝っているのか理解できなかった。


「帰るイメージ帰るイメージ。よし、イケる! 皆、またね!」

「あっ、リョーコ様! お礼を差し上げたいのですが!」

「今度でいいよ。また呼んでね!」


 魔力の膨張とともにリョーコの姿が掻き消えた。

 しばしの後に、呆然とした神官達が我に返る。

 救国の英雄であるリョーコをもう一度呼召喚すべきか、危険過ぎる破壊力なのでやめるべきか、神官達の真剣な議論はなかなか終わらないのであった。

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