Phase 05 パンドラの匣
僕は、薫から確かにUSBメモリを受け取った。それにしても、なぜわざわざ
「なあ、綺世。そのUSBメモリの中身は何なんだ」
「教えられない」
「まさかとは思うが、お前はどこかのスパイじゃないだろうな」
メンバーの1人からの質問に、僕の心臓の鼓動が早鐘を打つ。このままだと僕が「歌舞伎町トラブルバスターズ」のスパイだとバレてしまう。とりあえず、僕は深呼吸をして質問に答えた。
「いや、違う。僕は純粋な祖露門のメンバーだ」
「だったら良いんだが」
ひとまず、危機は回避できた。しかし、祖露門は何を
「これは……ビットコイン? 一体何に使えと言うんだ。よく見たら、メッセージが添付されているな。恐らく薫からのメッセージだろう」
【綺世、このメッセージが見えるか。僕は、祖露門とアイドルの本村准二が裏で繋がっているという明確な証拠を手に入れた。それは、律が祖露門のサイトをハッキングして入手したビットコインだ。本村准二が利用しているオンラインカジノの売上で間違いないだろう。このビットコインを何の役に立てるかは、綺世に任せる。 薫】
なるほど。確かに薫からのビットコインはこの手で受け取った。しかし、こんなものが何かの役に立つのだろうか。とりあえず、貰えるモノは貰っておこう。
「あのUSBメモリはビットコインが入っていたんですか!?」
「ああ、そうだ。ただし、祖露門がオンラインカジノで稼いだビットコインではあるのだが」
「そんなものを祖露門に潜入しているスパイに渡して、どうするんですか?」
「まあ、アイツのことだ。何かの役には立つだろう」
「そうそう。信濃君は意外と頭がキレる。だから、西谷さんも心配しなくて良いですよ」
「しかしなぁ、このUSBメモリはたまげた。オンラインカジノの顧客データが筒抜けじゃないですか。本村准二の名前はもちろん、有名な格闘家や衆議院議員の名前までありますよ」
「政治とカネは切り離すべきだと思うが、矢張り裏では繋がっているんだよな。これは特ダネだと思います」
「しかし、今回追っているのは飽くまでも『プリティ・プリンスの闇』だ。衆議院議員に関してはまた後日触れることにするよ。ところで、『黄金の拳』のパンフレットに触れて、何か分かったんですか?」
「ああ、分かったよ」
「鯰尾君、それは本当か!?」
「ああ、この『目』でバッチリ見たよ。話すと長くなるが、付き合ってくれるか」
「もちろん」
「当然でしょう。現在公開中の映画ですよ?」
「じゃあ、話すことにしよう。本村准二に祖露門を紹介したのは猪垣快彦だ」
「マジで!?」
「まだ話には続きがある。よく聞け。元々猪垣快彦は素行が悪いという話はしたよな。それで、彼が祖露門の運営するクラブで暴行事件を起こしたというのも事実だ。その時に彼が殴った祖露門のメンバーが、後のリーダーとなる
「浦和烈瑞って、関東統一を果たした伝説の暴走族ですよね!? まさか祖露門の前身だったとは……」
「そうだ。10数年前、関東の暴走族は『
「鯰尾さん、あなたの言う地元のサッカークラブって浦和レッドデビルズのことですよね。確かに怒られても仕方ないですね。イメージダウンにも繋がりかねません」
「そうだ。話に戻るが、猪垣快彦は元々川崎震龍陀亜礼のメンバーだ。だから、素行が悪いのも仕方がない。もちろん、現在彼が所属しているジョニーズ事務所はこの事を黙認した上で採用しているらしいけどな」
「なるほど……」
「僕も、ジョニーズ事務所の闇は色々暴露してきましたが、流石に今回の件は初耳でした。まだまだ勉強不足ですね」
「この『目』で見たことをそのまま話した僕が言うのもアレだが、暴露系インフルエンサーだったらそれぐらい勉強した方がいい」
「そうですね……。もう少し勉強します」
「それはともかく、暴露する相手が増えた事は西谷さんにとっても良かったと思う」
「分かった。2人まとめて暴露してやるから、待っていろ」
「そうそう、その心意気だ」
こうして、西谷和義には本村准二の暴露だけでなく猪垣快彦の暴露、そして彼らが所属しているジョニーズ事務所に巣食う闇の暴露も行うことになった。それが吉と出るか凶と出るかは、今はまだ分からない。
それにしても、このまま行けば祖露門との全面対決も視野に入れとかなければならない。それだけ、今回の依頼は命がけである。その日から、僕は眠れない日々を過ごすことになった。あまりにも眠れないので、僕は碧に連絡した。
「碧、まだ起きているか」
「起きているけど、一体何よ?」
「眠れない。少しアジトの方に来てくれないか」
「そうね。アタシも少し眠れなかったから、薫くんに会いたいと思っていたところなの」
「そうか。なら話は早い」
それから数十分経って、碧はアジトへと来てくれた。彼女も、恐らくこの歌舞伎町にしか居場所がないのだろう。僕は、色々な話を碧にした。なぜ僕が「歌舞伎町トラブルバスターズ」を結成したのか。なぜこんな事をやっているのか。そして、なぜ大手芸能事務所を敵に回すことにしたのか……。色々な話を経て、僕はなんだかスッキリしたような気がする。
「碧、少しいいか」
「良いけど、何よ?」
「僕は、君のことが好きだ」
「それは分かっている。死の淵にいたアタシを救ってくれたのは薫くんじゃん」
「だから、そろそろ良いだろう」
「そうね」
僕は、碧の折れそうな腕を掴む。そして、そのまま服を脱がせた。
――そして、僕は碧と一つの生命体になった。
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