14話 最悪のリスク


「確かに反対なのは分からなくも無いです」

「いまは身体も治ったばかりだろ」

「雨で川が崩壊して荷物が流されたら最悪の事態になりますから」


彼女は黙ったがそれでも首を横に振った

情けない自分が悪い所もあるが

どうしても行かねばならない


「もししてほしい条件があれば呑みますから」

「俺だけ一人で行くのはダメなのか?」

「見て判断しなければ無理です」


テントは数多くあったのだ

寝袋だってもし軽いものがあれば必要

タオルすら場合によっては欲しい

他にもビニール袋など軽くて荷物の持ち運びに使えるものなど

ライター一個すら説明するのはかなり難しい


「条件が二つある」

「はい」

「ひとつは俺が抱っこでタロウを途中まで運ぶこと」

「え!?」

「お前は思ったより軽いからその方が早い」

「……二つ目は?」

「テントの場所で1泊して翌朝に出発する事」

「分かりました二つとも呑みます」


リュックサックだけ持って山を降り始める

腕に抱かれている状態で10分程の所で1度降ろされた

身長は分からないが男子高校生の平均程度はある身体なのでむしろ長かったと思う


「軽いとは思っていたが休憩がてらになるな」

「ここからしばらく自分の足で行きますね」

「……分かった」


20分ほど進んだ所で雨が強くなり木の陰にかくれた

今まではそこまで問題にならず済んでいた雨だが

あっという間に体中をずぶぬれにしてしまい寒くて仕方が無い


「このまま降りましょう」

「雨ん中をか?」

「時間をかける方がずっと大変な事になりますから」

「ならとにかく早く下山してテントに避難する、どうだ?」

「賛成です」


二人で大雨がふって危ない中を降りていく

靴の中まで濡らしながらだが流石に登よりは早かった

途中で抱えられたりしたのもあり2時間半程度で目的地までこれた

テントはそのままで中に入れば荷物も無事


「急いで服を脱いで身体ふけ!!」

「きがえ―――ありますね」


色々と言っている場合ではなく二人とも脱いで即座に着替えた。

相変わらず他者の服を着るのは抵抗があるが

この非常事態に今更こんな事で何もいうまい


「火ぃつけられるものあるか?」

「調べます」


コンロなどは見つからない

その代わりだがいいものが有った

貼る使い捨てカイロ10枚入り


「何だそれ?」

「服の上に貼っておくと温かくなる道具です」

「マジ!?パンツの上とか?」

「温かくはなるかと」


女の人だしおなか温めるならそれも正解かもしれないので否定しないでおく

本来は背中などに貼る代物である事を説明し他にも何か無いか見てみる

夕方になりかなり暗くてスマホのライトが無ければゲームオーバーだった


「毛布があるし『寝袋』もあるな」

「お菓子が残っていたので食べましょうか」


ポテトチップスと4連に連なる袋に入ったグミ

さらに大きめのマシュマロが一袋にフルーツ系の飴が2袋

皆の荷物はほとんどが着替えで食料は少なかった


「これ匂いが甘いけど食料か?」


袋には『びすけっと』の文字だけ

開けてみれば多分だが市販品のビスケットだ

特に匂いでおかしな所もなく腐っていたりはしなさそうだった


「ビスケットですね」

「確かクッキーみたいな食い物だよな?」

「今は全部食べてしまって夜を乗り切りましょう」

「全部!?」

「身体冷やしましたし風邪でもひく方が、その、駄目かと」

「なら明日は何をすべきだ?」

「土砂降り以外であれば二人ともリュックを背負って登りましょう」

「中身は?」

「これ分かります?」


ライターを見せたが反応は薄い

妙な機械をみた人のよく分からない様子

カチッと音を出して火を付けた


「うわ!?」

「火を付ける道具です」


確認の為に使ってみたライターだが無事に着火できそうで安心する

オイルもたっぷり残っているように見えどうしても救出しておきたかったものの一つ

この雨でテントが壊れたりして濡れて故障するかもしれず下山を強行した



「なら焚き火できるんじゃね?」

「いえ、この雨ですから薪を取りにいったとしても湿りきって燃えないでしょうね」

「確かにな」


カイロのおかげで身体が温かくなってきた

今まで雨の中にいたので冷えた体にじんわりと熱が戻っていくのが分かる

体温ほど健康でいるために気をつけた方がいいものはない



「あとはリュックに着替えタオルをありったけ入れます」

「それだけ?」

「今この僕たちがいるテントも持っていきます」

「これ持ち運べるのか!?」

「上にあるテントだけでは『空間が足りない』かと」

「狭いぐらい我慢出来るだろ」

「布を乾かしたり火も場合によっては使いますから」


食事をしてから寝袋で眠る事にした

本来はカイロを張りながら眠るのは危険な事もある

今はこの暖かさは貴重でそのまま眠りにつく


「少し火傷するかもしれないですけど、このままで」

「その量を運ぶなら明日は相当キツイぞ」

「頑張りますよ」





翌日の早朝にヒロが動く気配で太郎も起きた

外に出て見れば雨が晴れていたのだ

急いで昨日に用意していたリュックを取り出しテントを解体


大きくて手間取ったが解体は何とか済む


「う……!?」


テントは畳もうとすればかなり重くて一瞬だけ諦めかけた

重さの正体は『水』も含んでいる事に気付いて払う

ヒロが気付いて干すタオルのようにバサバサと振る


「折りたたんで大丈夫です」

「分かった」


それでも重いが運ばねばならない

中に入っていた※ポールは細かく分解できる様子

※テントを支えるための棒を差す言葉


「……かなりきついですけど、登らなければ死にますからね」

「重すぎるだろそれ」

「え?」

「よろけてるしそれで坂道を登り切るのは無理だ」

「だけど全部必要なものなんです」


着替えもテントも塩も置いて行けない


「なら俺に重いもん寄越せ」

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