12話 本当の恐怖
ヒロが薪を採りに行って30分が経過した。
そこまで時間がかかるものだろうかと不安に思う
薪は重いしかさばるので手がふさがらない程度しか持たない筈なのだが
「おーい!!ヒロさーーーーーーーん!!」
しかし声が帰ってくる事が無く
さらに5分ほど経過してもまだ戻らない
状況が悪化している気配に嫌な汗が流れ落ちた。
「おおおおおおおい!!」
まだ返事が無い様子に探す事を決意した。
迷子ならまだ何とかなるが致命傷で動けない場合が怖かった
滑り落ちて足と喉を怪我して頼みの魔法も使えずなど想像はいくらでも出来る
「そうだ」
スマホのバッテリーは今までに1度も減った事が無く
かつカメラ機能があるのでもしやと思い開いてみる
狙い通り『ライト』で懐中電灯の代わりに
もっと慎重に動くべきだったと後悔しつつ軍手をはめて探し始めた。
「ひろさあああん!!いたら返事をしてくださーーーーい!!」
軽い水と食料に包帯ぐらいしか持っていないが
自分の身に迫る危険なんかよりも
何より彼女が今いなくなる事の方が何倍も怖かった。
「おーーーーーいッ!?」
ガサガサと音がしてライトを向ければそこには
『イノシシ』らしき動物がいたが
自分が知っているイノシシには立派なツノなど無い
「ひっ!?」
こちらに気付き真っ直ぐ突進してきたが思ったより足が遅い
致命傷はさけたが足を踏まれ酷い音がした
枝が折れるようなピキッと小さく鈍いもの
かなりの激痛に悲鳴をあげ
「あ゛ぁ゛ッ!!!」
ツノをつかんで殴った横から3発ほど拳で叩くと箱が落ちた
たった一つのティッシュ箱である
酷い痛みに包帯を取り出すもここまで傷が酷いと処置の仕方も分からない
「おー……い」
遠くで声が聞こえた気がして
「こっちです!!ヒロさん!!おおおおい!!おおおい!!」
叫び続けていると彼女の顔が見えて来た
ほっとしたし怪我の様子も無い
でも自分は少しも動けなかった
安心で痛みが一気に来て声を出すことすら困難になる
「モンスターか!?」
「は、い」
「カイファーラ!!」
ヒロは両手を傷に向けてから呪文を唱える
手の平から眩しいほどの光が出て怪我がよくなっていく
痛みも大分消え歩く程度なら出来るように
「これなら」
「運ぶから動かすんじゃねぇ!!」
「え?」
「応急処置したあとは安静にしろって誰かに教わらなかったのか!?」
「……すみません」
姫様抱っこされて拠点に運ばれ
もう焚き火は消えてしまい煙だけが出ていた
足も完全に治っては無くて痛みがじんわりと今になって来て
「痛むか?」
「動かなければ大した事はないですよ」
「こうも道に迷うとは思わなかった」
動かすと治りが遅くなるらしく寝ているようにと
外の火も消えて野生動物も怖いのに何も出来ない
「せめて何か出来ればいいんですけど」
「少しでも安静にして栄養が有るもん食べれば治りも速くなる」
「食料は足りそうですか?」
「どんぐりが山ほど落ちてる場所があったから心配するな」
けっこう時間がたった頃にテントにヒロが戻ってきた
「ほら『カップ麺』これならお前も元気にしてくれるって」
「ありがとうございます」
「探しに来てくれなかったら俺は魔物と戦いながらクソ寒い夜を過ごすしかなかった」
「うん」
「お前は泣いてるけど笑ったりしねぇよ」
「うんっ……!!」
泣きながら食べるカップ麺は温かくて今までで一番美味しかった。
いなくなってしまうのは何より怖い
子供の頃『彼女』が生活から消えた日から
「ん?」
「……えーと」
大切な女の人がいた
それがどういう関係性だったか覚えていないが
間違いなく『ヒロ』さんではない
何せ記憶にあるのは自分が本当に小さな頃で
ゲームでオンラインなんて言葉はまだ全然なじみが無かった
「どうした?」
「小さな頃にいなくなった女の子がいて―――すごく怖かったんです」
「へー」
「ヒロさんは現実の事を思い出せました?」
「変な記憶がちょっとだけ」
「変?」
「雑巾ぶんなげて野球?って言ったかな」
「野球は合ってると思いますが何故にぞうきん」
「なんかほうきでガラス叩き割って怒られた?と思う」
完全に掃除さぼって遊んでる男子小学生である
本人かもしれないが見ていただけって事も可能性が
でも性格というか今までの感じヒロ本人の話な気がしてならない
「ほ、他には?」
「集団で楽器をひくグループにいたような」
「あっ吹奏楽部ですか!?」
「そういう名称では呼んで無かったな」
「軽音部とか?」
「地面にある楽器をこう爪?をつけてひく」
「琴(こと)!?」
「そうそれ!!そういう名前の楽器を弾いた事だけ思い出した」
「ちょっと意外です」
「そうか?」
「でも、ヒロさんが演奏している所はいつか見てみたいですね」
片付けて早々に眠る事に
夕方に話していた焼石をテントの中に置くヒロさん
中はとても暖かくて疲れもあってすぐに眠りの国に落ちてく
――――――――――――――――――
ザザッ
これは学校?
何かノートに書いてて
目の前には覚えている親友の顔
「いくら2泊でも持ち物が多すぎな気がする」
「部活って初めての経験だから楽しみで」
「エロ本をどうするかだな」
「本当に持ってきたらシゲトは『勇者』だと思う」
あきれたけど本当に楽しい時間
ザザッ
場面が変わりキャンプ場で
知らない女性やシゲトと野菜を洗って
「カレーって初めて作るんだよな俺」
「あんたちょっとは家の家事ぐらい手伝いなさいよ」
「玉葱これでいい?」
名前も思い出せない部活の仲間
親友以外にも優しい人たちでとても大切で
いつも何かに気を使ってくれた
皆で作った物を食べたんだ
「カレー美味しいです」
「ふふふ、やはりカレーにはソース」
「マヨネーズの方が美味いだろ」
「タロウは?」
「んーお肉が入ってたらいいや」
「ほんと沢山喰えよ!?」
「おかわりあるからね!!」
ザザッ
これは、夜?
肝試しをやろうって事になってたんだ
「先生怖がり過ぎでしょ」
「怖いんだもんんんんん!!」
「先生を後ろから驚かしていいですか?」
「それ普通に危ないから止めて」
滅茶苦茶怒られる親友
でも先生はビビッて結局生徒の後ろにいた
怖がりだけどいい人だったと思う
ザザッ
帰宅した記憶が蘇る
「おかえり」
母親の顔を思い出した
そうだ少し髪の毛がくせっ毛で
いつも忙しそうにしていて
「ただいま!」
「キャンプって楽しかったの?」
「……うん」
「本当に心配だったからッ」
「こんな事で泣かないでよ母さん」
「晩御飯たくさん作ったからね」
優しい人だった―――いや違う
自分の両親が生きている妙な確信がある
父と母を思い浮かべるが家族はもう一人いたんだ
「お兄ちゃん」
彼女は病院のベッドに寝かされていた。
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