2話 二人の現状


キャンプ場に戻って来て自分のテントにヒロさんを案内した。


「せまいけど入って下さい」

「奴らは視界から外れれば追ってはこない」

「……とりあえず電話はムリみたいです」


スマホは相変わらずの圏外で通信出来る気配は無い

でも僕は随分と落ち着いていたと思う

実は色々な不思議な出来事が人生で多発していた

ろくろ首やすねこすりなど妖怪すら見た事があるし(うろおぼえ)

本物のサンタと親がブッキングした瞬間の気まずさは凄かった


なので異世界転生もあながち嘘ではないのかも?と思い始めた矢先である


ただ今回ほどの出来事は初でいくら自分でも戸惑ってはいた


「タロウ……で、いいか?」

「そうですね」

「実は三日ほど前までタロウと似たような恰好の男と旅をしていた」

「していた、ってことは」

「あいつは油断してイヌどもに喰い殺されてしまったがな」

「復活魔法は!?」


モンスタークエストの主人公なら復活魔法が使える

仮にすべて本当だとするならHP1で蘇らせる事はできた筈



「MPが無くて使えなかった」

「MPを回復する方法は?」

「大きく眠れば本当にわずかずつ回復するが俺はそもそも魔法が苦手でな」


モンスタークエストでは1日眠っただけではMPが1しか回復しない

協会で『聖水』と呼ばれるものを貰って飲めば回復は可能だ

だが現状でそんな場所もなければ水すら入手困難


「前の人って僕と同じ世界の人間っぽかった?」

「どうかは分からねーけど『スマホ』って呼ぶソレをずっといじってた」

「名前わかる?」



少なくとも名前が『フンコロガシコロコロ』みたいなのなら違う世界だろう


「たしか――――サトウシゲト」

「エッ!?」

「どうした?」


同じキャンプ部なのだが風邪をひいてしまい来れなくなった

インフルでは無いらしいが38度の熱があり今回は参加していない

連絡は出来ずともフォルダーアプリは機能している

スマホで前に部活の仲間とバーベキューした時の写真を見せた。


「彼ですか?」

「そうだ、この顔だった!!」

「どういう経緯で一緒にいました?」

「イヌから逃げまどっていた奴を助けた」

「へぇ」

「怪我していたから回復魔法を使って、その時からずっとMPの不足に悩んでいる」


友達が食い殺された筈なのに実感が沸かない

家とか世界がどうなっているかすら不明では当然だろう

段ボールだと先ほどから思っていたソレは質感が段ボールではなく


開けたら箱は消滅して別の箱が出て来た。

大きさは国語の辞書が二つ入る程度の物で先ほどと違い紙の箱。

文字は書いていないが『パン』らしき絵が描かれている


「こりゃ当たりだぜ!!」

「何ですかね?」

「貴重な食べられるものだからな」


箱の中身はビニール袋に入ったコッペパンが18個

彼女が食べる量は不明だが二人に増えた今は最も必要かもしれない

二人で一度テントの外に出て周辺の様子を探索した

近くには元から流れていた川がそのまま流れているのを発見


「とりあえず水の心配は無さそうですね」

「ならテントに急いで戻るぞ」

「そうですね、いつまたモンスターが出るか分かりませんから」


先ほどのオレンジジュースを飲み切り空になったペットボトルに水を入れる

本来であれば川の水は雑菌や何がいるかも分からない為のまない方が良い

それでも飲まなければならない場合については煮沸すべきだ


テントに戻って来て今後について話をする事に


「しばらく外へ出ない方が良いぜ?」

「え?」

「犬の化け物だが俺は『タンガンウルフ』って名前で呼んでる」

「タンガン?ああ一つ目を表す単眼の事か」


奴らは基本集団で移動し偵察役のタンガンウルフだけが一匹離れ行動する

この一匹は『おとり』の役割もあってやられたのであればエモノも近くにいると数日間にわたって付近をうろついているとの事



「つまり外に出たら」

「食い殺されるかもしれねぇ」

「さっきは何で一緒に来てくれたの?」

「偵察がやられた事に気が付くまでの時間はまだありそうだったからな」

「確かに遠くに集団が見えてたね」

「川があるかもしれないって言ってたし実際に水が確保できる場所は貴重だ」

「そうなの?」

「この世界に来て3週間になるが川は1つしか見てない」



世界に来てからの事を詳しく聞けばシゲトはかなり彼女と一緒にいたらしい

最初は警戒していたらしいが回復魔法で助けたら恩返しだと色々教えてくれた

自分の世界では『スマホ』が通信機なことやヒロが自分の世界では『物語』である事


「こんな状況だから何を言われても一度は信じるさ」


さきほどのタンガンウルフというモンスターが落とした箱

あれは倒せば必ずという訳ではなく『時々は出現する』ものらしい

強いモンスターの方が落とすものは多かったり良かったりする



「それと世界は『山』だ」

「山?」

「どこに行っても村も町もありゃしねぇ」

「確かに町に降りる道が途切れて森になってましたね」

「でも必ず頂上には『何か』がある」

「え?」

「3週間で3か所の頂上を見たんだが『箱』がおいてあるんだ」

「中身は?」

「一つ目は包帯で今も持ってる」


彼女は持っていた鞄から真っ白な包帯を取り出す

市販品に見えるしいざとなれば使えそうだが使う日は来て欲しくない

他にも出して来た



「それと服だ」

「え?」

「これのおかげで洗濯とか出来て助かったぞ」

「女性にこんな事をきくのちょっと、アレかもですが」

「何でも聞けよ」

「生理って今まではどう対処してますか?」


この世界に来たのは3週間でも

旅をするゲームの主人公だから対処は何かしらしていた筈

どう見ても高校生にはなっている年齢に見える


「整理?鞄の中に全部つめこんでるから」

「整頓の方ではなく月経……女性の血が出るアレです」

「俺はそれ『まだ』来てないんだよな」

「え?」

「知識はあるけど俺よりもうすこし年が上な奴がなる印象だな」

「年いくつですか!?」

「18だが」


世界が違うから身体の作りが違うのだろうか


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